TCFD提言への対応
1.基本的な考え方
世界各地で異常気象による甚大な自然災害が多発するなか、JSRグループは、社会が直面する気候変動問題への対応を、JSRグループの最重要課題の一つと捉え、社内外のGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量削減等に向けて積極的に取り組んでいます。
2020年10月にTCFD※1提言への支持を表明し、TCFDフレームワークに基づく情報開示を開始し、あらゆるステークホルダーと共に気候変動問題に対する取り組みを進めています。
※1 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース):金融安定理事会により、2015年に設立。2017年6月に、金融機関や企業、政府などの財務報告における気候変動の影響を開示することを求める提言を公表した。2023年10月に解散し、企業の気候変動関連情報は現在IFRSが担う。
ガバナンス | 戦略 | リスクマネジメント | 指標および目標 |
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気候関連のリスクと機会に関する経営層のガバナンス体制を構築する | 気候関連のリスクと機会が中長期的なビジネス、戦略、財務計画に与える影響を分析する | 気候関連のリスクと機会を評価およびマネジメントする体制を構築する | リスクと機会を管理するために、指標と目標を設定し、進捗を開示する |
2.ガバナンス
JSRは、取締役会による監督体制のもと、経営上のリスクとなりうる課題や機会となる事項に対して、適切な対応を検討し、実行しています。取締役会では、気候変動への対応を含むサステナビリティに関するリスクおよび機会の監督、ならびに指標・目標に対する進捗管理・定期モニタリングを強化する目的で、年に2回報告を受けるとともに、課題を共有し、今後のグループ全体の行動計画や事業戦略に紐づけて、議論、審議しています。またサステナビリティを担当する執行役員が取締役を兼任し、取締役会がサステナビリティマネジメントを徹底できる体制を構築しています(2024年6月時点)
さらにJSRは、サステナビリティ活動の実務を推進する部門横断の会議体として、最高経営責任者(CEO)兼社長を議長とするサステナビリティ推進会議を設けています。サステナビリティ推進会議の傘下にはサステナビリティ委員会、環境安全品質委員会、リスク管理委員会、企業倫理委員会(各委員長はサステナビリティ推進会議メンバーを兼務)を設置しており、サステナビリティ推進会議が全体を統括しています。
特に気候変動対応に関しては、サステナビリティ全般の戦略立案を担うサステナビリティ委員会が全社の活動の方向づけを行い、環境安全品質委員会が組織全体の気候変動に係る活動計画を承認、活動結果を評価・検証し、リスク管理委員会が評価を通じて特定した顕在的・潜在的リスクと機会についての対応方針・対応計画の改善と運用管理を担っています。サステナビリティ推進会議はこれら3つの委員会の活動を統括・指導し、年4回の定例会議と臨時会議を通じてマネジメント強化と活動の推進に努めています。また原則として四半期に1回、取締役会に活動報告を実施しています。
2023年度からは新たな取り組みとして、外部有識者を招き、当社CEOをはじめすべての執行役員がサステナビリティに関する世界の潮流・最新動向を学ぶセッションを実施しています。これまでに経営・事業戦略とサステナビリティ統合をメインテーマとして2回にわたりセッションを開催しました。今後も同様の機会を設け、マネジメントチームと外部有識者とのコネクションを確保し、JSRの気候変動対応ならびにサステナビリティに関連する各種取り組みの高度化を目指していきます。
気候変動を含む審議があった取締役会の実績(2023年度)
- 2022年度アクション進捗ならびに2023年度計画(4月)
- 各委員会活動報告、ESG評価機関評価結果(7月)
- 2023年度上期アクション進捗状況(11月)
- サステナビリティ定期業務報告(2月)
参考:当社経営会議・取締役会に上程された投資採算計算の対象となる設備投資案件については、すべてインターナルカーボンプライシング(ICP)を利用した採算計算を実施しています。
気候変動対応と役員報酬の連動
CEO兼社長の年次賞与について、全社業績連動部分(90%)のほかに、非財務評価部分(10%)を設定しています。これは、全社的なサステナビリティ経営指標(GHG排出量の削減、DE&Iの推進等)に関する取り組みの進捗状況に連動するものです。非財務評価部分の支給額は、報酬諮問委員会での審議を経て、取締役会において 0%から 200%の範囲で決定しています。
3.戦略
持続的な成長を目指し、すべてのステークホルダーに価値を創造すること、あらゆる環境変化に適応するレジリエントな組織を作ることをJSRグループの中期経営計画のビジョンに掲げ、気候変動問題への対応に関してもJSRグループの最重要課題の一つと捉えてグループ全体で取り組んでいます。またTCFDフレームワークを活用し、気候変動を「機会」と「リスク」の二側面で捉え、企業としての社会的責任の実践と更なる競争優位性の構築を推進しています。
JSRグループは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などが発表する「世界の平均気温が4℃以上上昇する」「世界の平均気温がパリ協定で合意した2℃未満の上昇に抑えられる(一部1.5℃以内)」の2つのシナリオに基づいて、リスクと機会を分析し、気候変動問題解決にはJSRグループ全体で対応することが必要であると再確認しました。具体的には、事業ごとに以下のテーマに主眼を置き、今後の事業計画への組み入れ並びに財務インパクトの定量化につなげる予定です。
なお各事業を推進するうえで必要となる新規投資の意思決定プロセスには、インターナルカーボンプライシング(ICP)の仕組みを2022年5月から導入しています。新規投資を伴う投資融資・事業計画では、必要費用の一部としてICPに基づく費用を追加的に計上し、将来キャッシュフローを算出/割引き、投資採算計算に反映しています。これにより、投資意思決定に際し、当社戦略の加速と経済性の観点だけでなく、気候変動対応としてのGHG排出抑制の視点も意思決定プロセスに組み入れています。
- 気候関連リスクの重要性評価
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- 前提となる社会経済シナリオの設定
- 事業影響シナリオの策定と影響度の把握
- 気候変動シナリオ分析(定性把握)
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- 気候変動に伴う当社事業環境変化(シナリオ)に対するリスク、機会への影響を検討
- 気候変動シナリオ分析(定量把握)
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- 当社シナリオから将来の事業戦略と財務への影響を定量化し、戦略に反映
- 潜在的な対策の特定
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- 気候変動戦略の対策決定、マネジメント管理指標の選定
シナリオ分析を通じた気候関連リスク・機会の特定・影響度評価
1. 分析・評価の概要
想定期間:2050年度まで
採用シナリオ:
1.5/2℃:IPCC_RCP1.9/2.6、IEA_B2DS
4℃:RCP8.5
時間軸の定義:短期(5年)、中期(10年)、長期(30年)
シナリオ分析対象事業:デジタルソリューション事業、合成樹脂事業、ライフサイエンス事業
影響度の定義:
小:企業や事業部門の戦略にやや影響がある
中:事業部門の戦略を大きく変更する必要がある
大:会社全体の事業戦略を大きく変更する必要がある
特定と評価のプロセス
- (1)前提シナリオの設定:分析の前提となるシナリオを選定し、1.5/2℃、4℃各世界観において、法規制や業界動向などの外部要因と、JSRグループの現状・将来の戦略などの内部要因の双方の観点から、事業に影響を与えうるリスクと機会を網羅的に整理
- (2)定性分析:特定したリスク・機会について、事業部とのヒアリングを通じて、時間軸(短・中・長期の3段階)とリスク深刻度(5段階)で定性評価を実施
- (3)定量分析:一部のリスク・機会について定量的な財務インパクトを試算。今後、試算対象を拡大する想定
- (4)対応策の策定:サステナビリティ推進部と共にサステナビリティ全般の戦略立案を担うサステナ委員会が主導となり、リスクの最小化・機会の最大化を目指した対応策の検討と、管理指標を設定。本分析結果は、2022年7月に実施したサステナビリティ推進会議にて報告済
2. 分析・評価結果
- (1)影響シナリオと事業別影響度(全体マップ)
小:企業や事業部門の戦略にやや影響がある。
中:事業部門の戦略を大きく変更する必要がある。
大:会社全体の事業戦略を大きく変更する必要がある 。
影響度が高いリスク・機会項目 | リスク | 機会 | 各事業への影響度 | 影響時期 | ||
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デジタル ソリューション |
ライフ サイエンス |
合成樹脂 | ||||
+1.5℃の世界観 | ||||||
ライフサイクルCO2削減の機運の高まり (気候変動問題がクローズアップ) |
✔ | 短期 | ||||
GHG排出規制の強化 | ✔ | 中期 | ||||
炭素価格の設定と高騰 | ✔ | |||||
脱炭素化製品を要求する顧客の出現 (RE100など) |
✔ | |||||
エネルギー源の低炭素化の進展 | ✔ | ✔ | ||||
環境に貢献する製品の需要増 | ✔ | ✔ | ||||
生活構造の変革 | ✔ | |||||
サステナブル金融の主流化 | ✔ | |||||
人材確保の変化 | ✔ | 長期 | ||||
先進的脱炭素技術の普及 | ✔ | ✔ | ||||
自動車業界の変化・EV主流化の影響 | ✔ | ✔ | ||||
再生樹脂、再生可能な樹脂の需要が増大 | ✔ | ✔ | ||||
日本の洪水頻度が増加、風水害が激甚化 | ✔ | |||||
+4℃の世界観 | ||||||
ライフサイクルCO2削減の機運の高まり (気候変動問題がクローズアップ) |
✔ | 短期 | ||||
日本の洪水頻度が増加、風水害が激甚化 | ✔ | 中期 | ||||
海面上昇 | ✔ | 長期 | ||||
気温上昇 | ✔ | |||||
風水害の激甚化による サプライチェーン途絶 |
✔ | |||||
生活構造の変革 | ✔ |
- (2)重要なリスクや機会とJSRグループの対応方向性
評価結果に応じて影響度大~中の項目から対応を進めていきます。
想定される環境変化 | 分類 | 要因(定性分析結果) | JSRグループの対応方向性 | 備考・補足 |
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カーボンプライシングによる エネルギー費用増 |
移行 |
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カーボン対応転嫁による 原料価格の上昇 |
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企業価値の確保 |
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災害による被害 | 物理 (急性) |
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※2 Aqueduct Water Risk Atlas:非営利団体WRI(World Resorce Institute:世界資源研究所)が提供するデータベースのプラットフォーム。水に関する様々な視点におけるリスクの要素が集約されている。 |
労働・社会環境の保全 | 物理 (慢性) |
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想定される環境変化 | 要因(定性分析結果) | JSRグループの対応方向性 | 備考・補足 |
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環境変化への対応による業界成長 |
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JSRグループの3つの主要事業について、以下のように機会を捉えています。今後も市場動向を見据え、長期的な視点で準備を整えつつ、戦略(対応)の変更を含めて、タイムリーかつ迅速なアクションにつなげていきます。
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4. リスクマネジメント
JSRグループは、重大な危機の発生を未然に防ぐこと、および万一重大な危機が発生した場合に事業活動への影響を最小限に留めることを経営の重要課題と位置づけ、「リスク管理規程」を定め、「リスク管理委員会」を中心にリスクマネジメントを行っています。
2009年度から独自のリスクマネジメントシステムを運用し、リスク管理委員会主導のもと、定期的にグループ企業を含む国内外全部門において、リスクの洗い出しを行っています。気候変動に関しては、特に緊急性が高く非常に重要なカーボンプライシングやグローバルな規制の拡大などのリスクを経営レベルのリスクとして捉え、議論しています。また、移行リスクを事業戦略に関するリスク、物理リスクを事業のオペレーションに伴うリスクとしてそれぞれ整理し、評価しています。
洗い出されたリスクは経営への影響度と発生頻度を軸としてリスクマップ化し、事業継続に大きな影響をおよぼす可能性があるリスクを「JSRグループ重要リスク」と位置づけて、優先度に基づいた対応を行っています。経営層自ら、把握したリスクのモニタリングと定期的な見直しを行い、未然防止と危機発生に備えた体制の構築・維持を図っています。
リスクマネジメントの詳細につきましては「リスクマネジメント」を参照ください。
リスク管理に関する議論・審議があった取締役会の実績(2023年度)
詳細は以下ページをご参照ください
リスク管理に関する議論・審議があったサステナビリティ推進会議の実績(2023年度)
詳細は以下ページをご参照ください
5. 指標および目標
JSRグループの重要課題(マテリアリティ)に関しては、KPIと目標を定めて管理、運営を進めています※2。
気候変動に関しても、他の社会課題と同様、GHG排出量をKPIの一つに指定し、目標を設定して対策に取り組んでいます。JSRグループとして、2050年度までに自社排出分(Scope1&2)のカーボンニュートラルを目指すことを表明するとともに、そのマイルストーンとして、2030年度中間目標を策定しました。
※2 詳細は「JSRグループのマテリアリティ(重要課題)」を参照ください。
2050年度目標
JSRグループは2050年のGHG排出「ネット(実質)ゼロ」達成を目指し、今後も積極的に挑戦していきます。算出方法・準拠した基準ならびに経年実績に関する詳細はESGデータを参照ください。
2030年度中間目標
省エネルギー対策や再生可能エネルギーへの転換をグローバルに推進し、2030年度のGHG排出量について2020年度比30%の削減を目指します。また、革新的なエネルギー技術導入に挑戦するとともに、環境対応型の事業製品を推進し低炭素・循環型社会の形成に貢献していきます。
GHG算定方法・準拠基準や関連するリスク・機会の詳細については、気候変動緩和・ESGデータを参照ください。
■GHG排出削減 2030年中間目標に関する報告があった取締役会の実績(2023年度)
- ・2022年度アクション進捗ならびに2023年度計画(4月)
- ・2023年度上期アクション進捗状況 (11月)
目標に対する進捗状況や、外部環境の変化に応じて、目標の見直しを定期的に行っています。
■2023年度の進捗状況
6. 関連団体への参画
- 日本気候リーダーズパートナーシップ(JCLP)賛助会員
- 半導体気候関連コンソーシアム(SCC)創設メンバーとして加入
- TCFDコンソーシアム