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化学品管理

1. 基本的な考え方および推進体制

JSRグループはサステナビリティ推進体制のもと、環境安全品質委員会において、化学品管理に関して推進すべき項目とこれに基づく具体的な活動計画を策定し、取り組みを進めています。

(1)化学品管理の基本方針

JSRでは、昨今の世界的な化学品管理の動向を踏まえ、環境安全マネジメントの推進組織にて以下の3つの基本方針を定め、化学品管理に取り組んでいます。

  1. 1.ハザードベース管理※1に代わり、リスクベース管理※2を目指します。
  2. 2.グローバルに統一された様式を用いて、サプライチェーン全体での管理を指向します。
  3. 3.製品の安全に万全を期すため、法規制対応に加え自主的取り組みを推進します。

※1 ハザードベース管理:物質の危険有害性のみを基準とする管理

※2 リスクベース管理:物質の危険有害性に暴露量を乗じたものを基準とする管理

(2)化学品管理の推進体制

JSRは、レスポンシブル・ケア®推進体制のもとで、国内では化学品管理専門部門が遵法対応とSDSや輸出品に関する顧客対応を行い、海外では現地法人が中心となって化学品管理を進める体制を整備しています。この体制のもと、国内外の環境変化や関連法規制の動向を早期に捉え、計画的に対応しています。

2019年には、急速に進む海外での規制強化・各国の新規立法などに対応するため、業界団体などから幅広く海外の法令情報を収集し、グループ企業や現地法人を含む全JSRに早期に情報共有を行うための海外法令統括組織を立ち上げました。

今後もグループ事業の拡大状況や国内外の動向を踏まえ、柔軟に体制を見直していきます。

体制の詳細は以下2ページをご覧ください。

2. 有害化学品の計画的な削減のための自主的取り組み

JSRは、製品の設計段階から有害化学品の削減と廃止に向けた取り組みを計画的に実施しています。管理に当たっては、各国法令および顧客管理標準にリスト化された化学品はもちろんのこと、リストに含まれない一般化学品についても対象としています。それらすべての化学品について、原料調達段階から設計・開発・試作・顧客評価・製品化に至る各ステップで専門家によるレビューを実施し、JSR製品による人の健康や環境へのリスクを最小化するよう努めています。

(1)各国法規と顧客管理標準への対応

主要国の法令で製造・使用が禁止あるいは制限されている物質については、原料採用段階から詳細に調査し、製品での使用・副生・混入を厳密に管理しています。対象としている物質のリストは下記の通りです。このうち1)~6)はJSRの原料・製品での使用を禁止するもの、7)~16)は開発段階でのレビューの際に用途ごとにリスクを評価し、使用の可否と代替物質の検討要否を確認するものです。

なお近年は、世界各国で化学品規制法の立法・改正が進んでいます。JSRでは製品の輸出先国の拡大に応じて、当該国での規制物質やその使用制限につき製品化のレビューの仕組みの中で確認をしています。

調査対象とする主な化学物質規制リスト

  1. 1)(日本)化審法 第一種特定化学物質
  2. 2)(日本)安衛法55条、安衛法施行令第16条(製造等が禁止される有害物等)
  3. 3)(日本)ダイオキシン類対策特別措置法第2条
  4. 4)(日本)毒物及び劇物取締法の特定毒物、毒物及び劇物指定令で定められた特定毒物
  5. 5)(UN)POPs条約、附属書A,B,C
  6. 6)(米国)有害物質規制法(TSCA) 使用禁止または制限物質(第6条)
  7. 7)(日本)化審法 第二種特定化学物質および監視化学物質
  8. 8)(EU)ELV指令
  9. 9)(EU)RoHS指令 Annex II
  10. 10)(EU)POPs規則 Annex I
  11. 11)(EU)REACH規則 Candidate List of SVHC for Authorisation(認可対象候補物質)およびAnnex XIV(認可対象物質)
  12. 12)(EU)REACH規則 Annex XVII(制限対象物質)
  13. 13)(EU)医療機器規則(MDR)Annex I 10.4 化学物質
  14. 14)(中国)電器電子製品有害物質使用制限管理弁法
  15. 15) Global Automotive Declarable Substance List(GADSL)
  16. 16) IEC 62474 DB Declarable substance groups and declarable substances

(2)化学品全般にわたる有害物質・懸念物質の削減・廃止への取り組み

JSRは法令に規制されていない化学物質についても、既存化学物質か新規化学物質かを問わず、原料の採用段階、また設計・試作段階におけるレビューの中で有害性の確認を実施し、必要と判断した場合は使用を制限するなどの措置を講じています。特に近年は、原料採用段階で既存化学物質中の不純物についても物質情報・安全情報・各国登録情報を調査・分析し、有害物質・懸念物質を含有する原料が誤って採用されることのないようチェックを強化しています。

またその物質の化学構造や各国のリスク評価の動向などから将来的な使用の継続性が懸念される物質については、化学品管理部門が定常的に情報を収集し、事業部および開発(R&D)部門へ設計段階から代替・廃止を検討すべき有害物質・懸念物質として周知し、製品化に至るレビューの中で廃除を検討します。(下図)

設計段階からの全化学物質を対象とした有害物質・懸念物質の確認・廃除スキーム
設計段階からの全化学物質を対象とした有害物質・懸念物質の確認・廃除スキームの図

注:この図では化学品に係る対応内容のみ記載していますが、各レビューにて品質・規格・製造技術なども同時に確認しています。

3. 法規制・各種基準への対応

(1)国内化学品法規制への対応

2017年に化審法※3が改正され、少量新規化学物質などの確認制度の改正が2019年に施行されました。JSRでは、この改正で新たに必要となった物質ごとの用途証明書などの要求事項も含め、改正直後から問題なく対応しています。また、2023年の改正化管法※4施行、2024年の改正労働安全衛生法施行に伴うリスク管理対象物質の拡大に向けた準備として、SDS※5改訂のためのシステム改造などの対応を進めています。改正安衛法の2024年追加対象物質については、SDSへの記載を施行日と同時に開始しています。安衛法については、今後の2025年および2026年施行対象物質への対応など、引き続き計画的な対応を実施していきます。

※3 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律

※4 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律

※5 Safety Data Sheet(安全データシート)。化学製品の安全な取り扱いのために、製品に含まれる物質名や危険有害性情報などを記載した文書

(2)GHSへの対応と全製品SDSの提供

① 全製品SDSの提供

JSRでは、法的義務対象製品や危険有害性物質を含有する製品に限定せず、ポリマーを含むすべての製品について自主的にSDSを整備し、お客様に環境安全情報を提供しています。JSRのSDSは、すべてJIS Z 7253および労働安全衛生法、化管法、毒物及び劇物取締法に対応しています。

さらに、お客様に対して正確な内容のSDSを確実に提供することを目的に、いち早くSDS電子管理システムを構築し、2002年から運用しています。本システムは利用者管理、化学物質の情報管理、作成支援、発行履歴管理の機能を備えており、JSR製品の環境安全情報を正確かつ迅速に提供しています。

② GHSへの対応

GHS※6は、(1)化学品を危険有害性に応じて分類し、(2)製品の包装容器にラベルで表示し、(3)SDSに内容を記載し提供することを世界的に統一する仕組みです。

国内では労働安全衛生法および化管法で対象物質含有製品のラベルとSDSにおけるGHS対応が義務づけられており、GHS分類についてはJIS Z 7252、SDS等の情報伝達についてはJIS Z 7253と規定されています。JSRでは対象物質を含有するすべての国内製品についてGHSに基づく危険有害性分類とラベル表示およびSDSの提供を実施しています。海外向けについても各国の法制化に合わせ順次GHS化を推進しています。

※6 Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals:化学品の分類および表示に関する世界調和システム

(3)化学物質規制に関する教育

JSRでは、国内外の化学物質規制についての社内教育を毎年行ってきました。2021年度は新型コロナウイルス感染拡大への対応などの理由から休講としましたが、2022年度から再開。2023年度は国内外の新規化学物質規制法令や国内法の改正、PFASの規制動向等について教育を実施しました。また化学品に関する社内ポータルサイトを2021年度に立ち上げ、最新法令情報や前年度までの講習資料などを社内ネット環境から必要なときに参照できる環境を整えています。

4. 輸出化学品などの海外法規制への対応

世界各国では、WSSD2020年目標※7の目標年であった2020年に向けて化学品法規制が強化されてきました。こうしたグローバルな規制強化のトレンドは、2021年以降も継続しています。

JSRでは2007年の欧州REACH規則施行以降、各国で強化されてきた物質登録などの規制動向を都度確認し、事業内容や現地法人の体制も踏まえて、漏れなく対応を実施しています。以下にJSRの主要な製造・輸入国における法令対応について記載しました。これら以外にもASEAN諸国を含め数多くの国々の化学品法令に適切に対応しています。

※7 WSSD2020年目標(2002年持続可能な開発に関する世界首脳会議で採択された、化学物質管理の長期目標):人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を2020年までに最小化することを目指す国際目標

(1)欧州(REACH規則への対応)

REACH※8規則は、「化学品の登録、評価、認可および制限」に関するEU法で、2007年6月に施行されました。既存化学物質、新規化学物質の区別なく、年間1トン以上欧州域内で製造・輸入する化学品は、安全性試験等のデータをつけて登録することを義務づけています。
JSRでは欧州における製品の製造・輸入に支障が生じないように、登録が必要な物質の有無を定期的に確認するとともに、今後進められる物質評価に基づく使用規制に対しても、評価開始時点から開発部門などと情報共有してリスクに備えています。

※8 Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals

(2)米国

米国の新規化学物質の届出制度は、環境保護庁所管の「有害物質規制法(TSCA)」および関連する連邦規則により定められています。既存化学物質リストに収載されていない物質を米国で製造もしくは米国へ輸出する場合には、必要な法的手続きを実施しています。また2016年の改正TSCA法施行に関して、現地法人とのコワークで新たな法の要求への対応を柔軟に進めたほか、リスク評価の開始に伴う規制動向を見定め、対応を進めています。

(3)中国

JSRでは、中国の新規化学物質の届出制度について定めた「新化学物質環境管理弁法」の施行以降、「中国現有化学物質名録」に収載されていない物質を中国へ輸出する場合には、必要な法的手続きを実施しています。2021年1月には改正法である「新化学物質環境登記弁法」が施行されており、この改正法に基づく新規化学物質登記を今後も漏れのないよう進めていきます。

(4)韓国

韓国の新規化学物質の届出制度については、化評法※9と産安法※10に定められています。既存化学物質リストに収載されていない物質を韓国で製造・輸入する場合には、事前にこれらの法律に基づく手続きを実施しています。
また、化評法は2019年に大幅な改正があり、年間1トン以上韓国で製造・輸入するすべての既存化学物質の登録を実施することが決まりました。JSRではすでに、事業部と現地法人の連携により、この予備段階である事前申告を完了しています。2021年末の第一回締め切りより本登録が段階的に開始されており、製造輸入量に応じた登録を計画的に進めていきます。

※9 化学物質登録及び評価などに関する法律

※10 産業安全保健法

(5)台湾

台湾では2014年に、毒管法※11に基づく新規化学物質の登録制度が導入されました。JSRではこの制度に基づき、既存化学物質登録を含めた必要な法的手続きを実施しています。これに加えて、既存化学物質リストの整備に伴って「既存化学物質の標準登録」が始まることとなり、2019年に第1回の登録対象物質が指定されました。登録期限は新型コロナ禍の影響で2024年末まで延長されましたが、JSRでは台湾現地法人での対応を中心とし、各事業に応じた体制で対応しています。

※11 (旧)「毒性化学物質管理法」。2019年1月に改正し管理対象も拡充されて「毒性及び懸念化学物質管理法」と名称も変更した。

5. サプライチェーンマネジメントにおける化学品管理

JSRではサプライチェーンマネジメントの一環として、CSR調達、グリーン調達、グリーン購入などの実施フローに化学品管理のためのプロセスを組み込んでいます。特にグリーン調達については、有害化学品管理の見地から、業界標準の有害物質情報伝達フォーマットであるchemSHERPAを導入し、サプライヤー、社内取り扱い部門、そして顧客へとスムーズで確実な情報伝達を実現しています。詳細は下記リンク先を参照ください。

6. 業界および国際的な対応

JSRは一般社団法人日本化学工業協会に所属し、同協会のワーキンググループに参加するとともに、同協会が化学工業界の自主的取り組みとして推進しているLRI※12の活動についても、研究資金の一部負担などを通じて貢献しています。

※12 LRI(Long-range Research Initiative):
化学物質が人の健康や環境に及ぼす影響に関する研究を長期的に支援する国際的な取り組み。国際化学工業協会協議会(ICCA)のグローバルな自主活動としてスタートした研究助成事業で、現在は日米欧の化学工業協会の協力の下で進められている。日本では日本化学工業協会が、以下の5分野において研究を推進している。

  1. 新規リスク評価手法の開発と評価/簡便な曝露評価手法、実験動物代替試験法
  2. ナノマテリアルを含む新規化学物質の安全性研究
  3. 小児、高齢者、遺伝子疾患などにおける化学物質の影響に関する研究
  4. 生態、環境への影響評価
  5. その他、緊急対応が必要とされる課題