サステナビリティ推進
担当役員メッセージ
CSO就任1年を振り返って
就任1年目の2020年度は、4月7日に緊急事態宣言が発令されるなど「コロナ禍」という通常とは異なる状況でスタートしました。国内では外出自粛とリモートワークが呼びかけられ、グローバルでは人とモノの行き来が急速に縮小する状況で、コロナ禍における事業継続という喫緊のBCP対策と、ウィズコロナを見据えた働き方改革や非対面ビジネスの模索、それからマスクや検査薬などの研究支援といった社会貢献と、さまざまに取り組んできました。
また、視点を事業戦略に移しますと、2021年度からの新たな中期経営方針のもと、デジタルソリューション事業とライフサイエンス事業を当社の新たなコア事業と定める一方で、エラストマー事業※1については制限なき改革を行うなど、創業以来の大きな事業転換に関わる議論が交わされていました。
サステナビリティについては、私がCSOに就任する以前から当社の重要課題として捉えていた気候変動対策を具現化すべく、TCFD提言に沿った対応として2020年度に入って事業ごとのシナリオ分析を実施しました。分析結果は、サステナビリティ推進会議や取締役会で報告・審議され、10月には正式にTCFD提言への賛同表明を行うに至っています。
こうして振り返ってみると、当社にとって2020年度は内外ともに事業環境が大きく変化した転換期であったように思います。
※1 エラストマー事業は、当社の株主総会における承認と関連当局からの認可などを条件として、2022年4月1日にENEOSへ事業譲渡を行う予定(2021年9月10日現在)。
マテリアリティを各事業部のアクションへ落とし込む
当社では、中期経営計画を更新する際、同時にマテリアリティの見直しを行うこととしていますが、これはマテリアリティとは当社が考える“ありたい姿”に固執するのではなく、その時々の社会の要請に合わせてダイナミックに変えていくべきものという考えに基づいています。
ただ、その社会の要請に基づいたマテリアリティは、言葉にしてしまうと特にオリジナリティがあるものではありません。当然ですが、あらゆる企業が社会の要請に応える活動をしたいと考えているはずだからです。私は、最終的には同じ言葉になるとしても、JSRとしてなぜそれを自分たちのマテリアリティとして選択し、どのように優先順位を付けたのか、そのプロセスをしっかり説明できるかが大事だと考えています。その過程(プロセス)に納得感があれば、同じ言葉でもJSRとしてのオリジナリティが見えてくるはずです。
今回、中期経営計画の更新に伴って実施した「JSRサステナビリティ・チャレンジ」におけるマテリアリティの見直しプロセスによって、人権の尊重やサプライチェーンについても学びがありました。特に注力していくこととした「温室効果ガス(GHG)排出量削減」と「従業員エンゲージメント向上」の2つについては、見直しプロセスを経てキーワードとして社員の意識にも浸透してきたという手ごたえを感じています。しかし、まだ各事業部の活動にまでは落とし切れていないという課題があります。マテリアリティは選定して終わりではなく、それをいかに経営に活かし各事業部のアクションへとつなげていくか、それがCSOとしての私の役割であると思っています。
2024年度までの新たな中期経営方針にも、ESG課題への取り組みとして「2050年GHG排出『実質ネットゼロ』を目指し、今後も積極的に挑戦していく」ことと「TCFD※2提言のシナリオ分析を活用し、あらゆる局面に対応できるレジリエントな企業体制を構築する」と掲げている通り、サステナビリティの視点が事業活動に大きな影響を及ぼすものであることを明示して、社員のマインドセットの変化を期待しているところです。
※2 TCFD:金融安定理事会によって設立された気候関連財務情報開示タスクフォース。2017年6月、気候変動の影響を金融機関や企業、政府などの財務報告において開示することを求める提言を公表した。世界中の2,000を超える機関が提言への賛同を表明している(2021年5月時点、TCFD公表)。
「グループ経営」推進のため従業員エンゲージメントを強化
デジタルソリューションとライフサイエンスを新たなコア事業と定めたことは、サステナビリティ活動全体に大きく影響してきます。特にライフサイエンス事業は、意思決定も含め主に北米で事業を展開しているため、日本と北米とのエリア連携の重要性が格段に増加しました。これまで、サステナビリティはどうしてもJSR本体の活動にフォーカスされがちでしたが、今後はグローバルな視点、グループ経営としての従業員エンゲージメントが欠かせません。特にM&AでJSRグループに迎えた海外子会社は、それぞれ独自の企業文化を持っています。そういった多様性を尊重しながらも、人事マネジメントにおいて共有化できるエンゲージメント指標は統一し、JSRグループとして一体となってサステナビリティに取り組めるよう、北米の統括会社をハブとして相互に情報をシェアしながらコミュニケーションを深める体制の構築に取り掛かっています。そのシナリオの第一段階として、2021年には初めてグローバルに従業員エンゲージメントサーベイを行い、分析も進めているところです。
この北米との連携強化を図る中、一つの成果として出てきたのが「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の包摂)」に「エクイティ(公平性)」を加えた「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」という取り組みです。人の多様性をJSRグループ全体の成長に活かすためには、多様性を認めるだけではなく公平に機会が与えられないと意味がないということです。この「エクイティ」という言葉を北米グループ会社のサステナビリティ担当から提起されたときは、私自身気づきが得られ、まさに多様性の大切さを実感しました。そこで2021年度から、社内外を問わず人の多様性に関する表記を「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)」に統一することとし、専任のマネージャーも配置しています。
グループ経営としての従業員エンゲージメントをグローバルで進めていく上で、気をつけたいと思っているのは、我々は監視者・監督者ではないという点です。グローバル経営を進める中で我々の役割も変わっていきますが、それは多様な価値観の中でグループ共通の方向性を発信していくということ──、グループ内で監視者・監督者のように思われないアプローチの模索が課題になってくると考えています。
サステナブルでレジリエントな企業であるために
「グループ共通の方向性」のベースとなるのは、当社の「企業理念」にほかなりません。2021年度の経営方針説明会の中でジョンソンCEOから、レジリエントな経営基盤への取り組みとしてサステナビリティを中心に置いた「『5 foundation』を通じた価値の創造」という発表がありました。「マテリアルを通じて価値を創造し、人間社会(人・社会・環境)に貢献します。」という企業理念を実現するには、やはり会社が「レジリエント」でなければならないですし、「サステナブル」でなければいけません。特に世界全体がコロナ禍に見舞われている今、改めてレジリエンスとサステナビリティが問われています。だからこそ、新たな経営方針で改めて表明したのだと私は理解しています。
サステナビリティをいかに経営に活かしていくかを考えると、「マテリアリティを見直す」だけでなく、活動のインパクト評価・定量化を行い、「見える化」することが必要になってきます。先ほども「我々は監視者・監督者ではない」と申し上げましたが、評価によって「見える化」されたものを注意や指導に使うのではなく、自らの気づきによりサステナビリティの視点を部門の仕事やアクションにつなげてもらう。それこそが私のやるべきことで、どのようなアプローチであれば現場の人が理解できるのか、従業員への伝え方こそが重要です。そして社会の変化を予知する能力とともに、いざリスクが発生した際に素早く行動できるスピード感を持つこと。それが「レジリエント」ではないでしょうか。予知したリスクが顕在化した際のダメージは免れないとしても、その後のリカバリーへ素早く切り替えられる体制が重要で、そのためには普段からのコミュニケーションが欠かせません。いざという時ほど高いコミュニケーション能力を発揮できるよう、会社ぐるみで日常からコミュニケーションを活性化し、それが常態化している企業こそ「サステナブル」な企業といえるのではないか、私自身はそう考えています。