sitemap

JSRグループのマテリアリティと推進体制JSRグループのマテリアリティ
(重要課題)

1.JSRグループのマテリアリティ

JSRグループは、企業理念「Materials Innovation マテリアルを通じて価値を創造し、⼈間社会(⼈・社会・環境)に貢献します。」に基づき、企業活動を通じた価値創造により、持続可能な地球環境や社会の実現に貢献することを目指しています。この企業理念のもと、2015年には「JSRグループにとっての重要度(内部要因)」と「ステークホルダーにとっての重要度(外部要因)」を2軸としたマトリックスを使用して整理を行い、重要課題(マテリアリティ)を特定しました。また、特定したマテリアリティについては、統合思考によりサステナビリティ経営を推進すべく、中期経営方針の策定に合わせて見直すこととしています。

※ 統合思考:財務情報と非財務情報を統合して企業活動の全体像を捉える考え方

2020年度に予定していた新中期経営方針については、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大や石油化学市場の不確実性などを勘案し、危機対応を優先すべく公表を見送りましたが、マテリアリティの見直しについては2019年に実施した有識者との対話におけるご指摘を踏まえ、「事業活動」と「経営基盤」という2つの側面から再整理する「JSRサステナビリティ・チャレンジ」に取り組んできました。2019年より先行して実施した事業活動編に引き続き、昨年は経営基盤編としてマテリアリティの見直しを実施しました。これらの取り組みの成果は、「JSRレポート」にて開示する中期経営方針の策定に活用しています。

●JSRグループのマテリアリティ

JSRグループのマテリアリティ

なお、これらのマテリアリティについては、社会からの要請の変化、様々なステークホルダーからの意見やニーズによって変わっていくものであると考えており、これからも以下の運用によりマテリアリティの見直し・特定を行ってまいります。

  • 1) 毎年の妥当性確認は、有識者、従業員、レスポンシブル・ケア活動などでのエンゲージメントを通してチェックを行う
  • 2) 新たな中期経営方針策定のタイミングで、有識者の方々との意見交換を通して、マテリアリティを特定する過程の透明性や納得性を確保しつつ定期見直しを実施する

また、2019年の有識者との対話、ならびに「JSRサステナビリティ・チャレンジ」を通じてご意見をいただいた日本政策投資銀行 竹ケ原啓介様より、今回の経営基盤編により再整理が完了したマテリアリティについて、あらためてご意見および総括をいただきました。
竹ケ原様からのご意見・総括を参考にしながら、さらにJSRグループ一丸となってサステナビリティ経営を推進してまいります。

ダイアログでの意見交換から
新マテリアリティの発表までを振り返って

竹ケ原 啓介氏

竹ケ原 啓介氏(たけがはら けいすけ)
日本政策投資銀行 設備投資研究所 エグゼクティブフェロー
兼同副所長・金融経済研究センター長
経済産業省「環境イノベーション・ファイナンス研究会」委員・
「TCFDコンソーシアム企画委員会」委員

2年間にわたり、事業活動と経営基盤の両面から自社の特徴を反映したマテリアリティの特定に取り組まれたご努力に、まず敬意を表したいと思います。多くの従業員が参加し、価値創造プロセスを多面的にレビューするプロセス自体が極めて有意義ですが、今回の作業の本質は、価値創造にかかわる部分と、組織の持続可能性を支える部分の両面からマテリアリティを考えることで見出された、新しい体系の「柔軟さ」にあるのではないか、と考えます。

2019年に先行して実施された事業活動に関する特定作業では、事業がもたらすインパクトの計測が強く意識されました。創造する価値を定量的に示し、経営方針に反映していく方向性は、非財務情報開示を巡る最先端の議論にも通じるところがあり極めて先駆的です。マテリアリティの特定を通じて事業活動がもたらすインパクトが可視化されれば、各事業の戦略立案やポートフォリオ変更を巡る議論がより円滑に進むことが期待されますし、なにより、参加した従業員の皆さんがインパクトを認識する良い機会となり、全体としての統合思考のレベルが向上したのではないでしょうか。

これに続く今回の経営基盤編では、合同ワークショップを通じた社内での徹底的なディスカッションに力点が置かれました。① 網羅性でなく戦略に通じる深さを追求したこと、② 不断に変化する外部からの期待に即応すべく、定期的に妥当性を確認し、見直しをかける設定としたことなどの工夫から、この作業がレポート用の表層的なものでなく、ビジネス(価値創造)を支える実務的なツールづくりを目的としていることがわかります。

一見して意外に感じたのは、網羅性を排し絞り込んだというマテリアリティの筆頭に「環境保全・負荷低減」が掲げられたことです。事業活動の多くが社会課題の解決に直結する貴社の場合、環境については価値創造の部分で多くを語れるわけですが、CO2以外の環境側面の多様性を重視して、あえて経営基盤でもマテリアルな要素として位置付けてきました。これは、広く従業員を巻き込んだ結果、安全・健康と同様に、基盤として根付いているレスポンシブル・ケア®活動の成果が再確認された面もあるのかもしれません。同時に、マネタイズされた環境対策は事業活動で語り、今後価値創造領域に移行してくると予想されるテーマは、組織の持続可能性にかかわるマテリアリティとして認識していることの表明と捉えることができます。つまり、外部環境の変化に柔軟に対応できるダイナミックなマテリアリティ分析を志向していることの表れとみることができるということです。インパクト分析と同様、参加した従業員の皆さんのエンゲージメント向上や自社の非財務的な力(無形資産)へのリテラシーの深まりを期待させる内容といえるでしょう。

このユニークさをより明確にする観点から、2点お願いしたいと思います。まず、こうしたマテリアリティ特定作業の背景にあるはずの長期展望(ビジョン)の提示です。2050年ネットゼロが事実上の共通目標となるなか、長期ビジョンとこれに向けたトランジション戦略の開示がこれまで以上に要請されています。マテリアリティ特定の成果を補強する意味でも、その開示が望まれます。次に、この2年間で特定された事業面のマテリアリティと基盤のマテリアリティの接続性の強化です。祖業であるエラストマー事業の売却など、事業ポートフォリオの大胆な見直しが進められている現状を鑑みれば、事業の評価と基盤の評価の時間的なズレは経営戦略にかかわるメッセージ性を弱めてしまう懸念があります。今回で両側面が整ったので、今後は一体的なレビューを進め、貴社のマテリアリティ認識のダイナミックさを一層強調されることに期待します。

2.JSRサステナビリティ・チャレンジ/事業活動編

マテリアリティを議論することは、一つには事業活動が社会に与える影響(インパクト)をネガティブ・ポジティブ両面で考察し、不確実性が高い現代の環境変化に対応しながら持続可能な地球環境や社会の実現に貢献することを目指すものです。2019年度には上述のとおり、各事業それぞれにヒアリング調査のうえ、事業活動におけるネガティブ・ポジティブインパクトについて可能な限り数値試算にも取り組み、先行して社会へのアウトカム(社会への提供価値)の見直しと「事業活動」におけるマテリアリティの再整理を行いました。詳細は2020年度のサステナビリティレポート、ならびにJSRレポート(統合報告書)をご参照ください。

●JSRサステナビリティ・チャレンジ/事業活動編の概要

JSRサステナビリティ・チャレンジ/事業活動編の概要

3.JSRサステナビリティ・チャレンジ/経営基盤編

先行して実施した事業活動編では、2019年の有識者との対話にて挙げられた事業環境や社会環境、技術環境をしっかり理解するというリテラシーの向上と、その理解に基づくインパクトの定量化という課題に向き合い、「事業活動」を通じてJSRグループが提供できるアウトカムのインパクトを、「生活の質・幸福への貢献」、「健康長寿社会への貢献」、「地球環境保全への貢献」の3つに集約、これらのインパクトを「事業活動」におけるマテリアリティであると位置付けました。続く2020年に実施した経営基盤編では、網羅的であったマテリアリティに対して2030年(環境については2050年)に向け何が重要かを絞り込んで深いディスカッションを行うことを目的に実施しました。

  • 完全リモートで実施されたJSRサステナビリティ・チャレンジ/経営基盤編の様子

    完全リモートで実施されたJSRサステナビリティ・チャレンジ/経営基盤編の様子

まず各部門より、多様性を重視した次世代を担う従業員たちによる数回のワークショップにて、「長期視点での優先課題の再整理」をテーマに優先課題を検討し、「環境」「従業員(DE&I、働き方)」「安全・健康」「人権尊重」を選定。その後、特に重視すべき課題として、ウィズコロナ、アフターコロナを見据え、「従業員」「安全・健康」について、専門部署も交えたワークショップにてさらに掘り下げたディスカッションを行い、仮の目標設定を行いました。

また、国際的にも国内においても動きが加速している「環境」課題についても、バリューチェーンを俯瞰できる7つの部門の部長クラスへ合同インタビュー調査を行い、先行するTCFDのシナリオ分析も参考にしつつ意見交換を実施。CO2以外にも水・廃棄物・エネルギーなど課題が多面的になっている状況を踏まえ、「環境保全・負荷低減」としてグループ一丸で長期目標に取り組むことを確認しました。

また最終的に再定義したマテリアリティでは、「環境保全・負荷低減」「人権尊重」について「サプライチェーン」においても取り組む必要性を確認し、「JSRグループのマテリアリティ」としてまとめ、サステナビリティ委員会での審議を経て、社長が議長として開催される「サステナビリティ推進会議」にて報告致しました。

今回の「JSRサステナビリティ・チャレンジ/経営基盤編」の実施により、社会への価値を提供する事業活動を支える経営基盤のマテリアリティがまとまりました。これを着実に実行に移すことで、大きく変動する現代において社会の要請に合わせて力強く成長していける、あらゆる側面で良い循環が構築できる環境を整えることができたと思います。

●JSRサステナビリティ・チャレンジ/経営基盤編の実施プロセスと概要

JSRサステナビリティ・チャレンジ/経営基盤編の実施プロセスと概要