ホームCSRステークホルダーとの対話 ②

SRI指標と銘柄への組み入れ

次代のJSRグループを担う人材の育成および働き方を考える ②

直面している課題

捫垣:
次に、JSRグループが直面している人材マネジメントの課題について対話を進めていきたいと思います。まず、働き方改革の目的として労働生産性の向上があるわけですが、素材メーカーの研究においてどこまでできるのか、疑問もあります。ホワイトカラーは余っていればシフトすればいいですが、果たして地道な素材の研究でそれができるのかと。また、ホワイトカラー自身の労働生産性をどうやって上げていくかはなかなか難しい問題ですね。

人材マネジメントの課題

私も会社でいろいろやってきましたが、職場長が異動するとそれまでの取り組みは元の木阿弥になるんです。次の人がやらないからです。メンバーもやらない。のんびりゆっくりやりたいからです。そんな環境で労働生産性向上や働き方改革をやろうといっても無理だと思います。組織を変えていくには、まずは職場長がどういうメッセージを出すかが問われます。そして具体的な道具やノウハウが必要です。私は、職場の全員でどうすればいいかを考え、その結果をマニュアルにまとめるということをやりました。全員で考えればいい知恵が出てくるものです。そして、必ずそれをやり続けることです。
川橋:
同じ研究職でも、ライフサイエンスと石油化学では全く違いますから、それぞれの職場単位で考える必要がありますね。いずれにせよ、これから打って出る製品開発に時間を割けるよう、テクノロジーも導入して変えていかなければなりません。
土居:
日本企業には長い時間働く人が評価される風土がありますが、JSRグループではそれではいけないとの意識がまだ十分ではないかもしれません。仕事は仕事ができる人のところに集まる傾向があり、必然的にその人は長時間働き、評価されるからです。ですから、何時間働いたではなく、同じ時間でどれだけのアウトプットを生んだかで評価すべきだと思いますね。
組織にはいろいろな人がいますから、そういった人たちに対応するダイバーシティ経営が必要です。仕事ができない人にも仕事を配分することは、組織長の責任だと思いますね。
藤井:
働き方改革の入口として、人材開発部から会議とメールのルールを提案しましたが、前の会議が終わるのをズルズル待つとか、ムダなメールをチェックする時間をなくすだけでも効果はあると思います。当該時間を削減するだけでなく、普段からの意識づくりにもなりますから。また、メーカーとして最重視すべきこととして安全対策が挙げられると思います。そこだけは、世の中がどれだけ変わってもないがしろにはできません。
捫垣:
3年前に工場で事故が起きて労働災害撲滅プロジェクトを立ち上げ、原因究明や対策づくりをしたのですが、突き詰めると企業文化が影響していました。そこで出した結論としては、会社としてどうこうよりも、「職場長が自分の職場を自宅と考え、従業員を家族と思って守るようにして欲しい」ということにしたのです。

自分のミッションは何かを考える

私は、制度よりも風土、風土よりも職場長だと思いますね。いくら立派な制度を整えても、使う人がいなければ意味がありません。職場長がメッセージを出し、一人ひとりを変えていかなければ全体は変わらないと思います。
捫垣:
職場でよく議論する必要があるということですね。
忙しいから議論なんかしないんですよ。問題意識はあっても、やらない。じっくり議論すれば良くなっていくと思いますよ。いろいろな会社に接する機会がありますが、制度はあっても使われていない、長時間労働の人が評価されるといったことが依然としてあるわけです。働き方改革に対する意識はまだまだですね。トップが叱咤激励して変えていかなければなりません。そして「いい習慣は才能を超える」という言葉がありますが、みんなで議論する、会議時間は短くする、大事なことはメモを取って見返すといったことを習慣化することが大事だということです。改革は絶え間なく続ける必要があるのです。
捫垣:
従業員一人ひとりが心がけるべきこととしては、どういったことが挙げられるでしょうか?
自律人間になる、ということでしょう。会社や職場がどうこうではなく、自分のミッションは何かを考える。主体性を持ってどう働くか、「どう生きるか」を考える必要があるということです。課長として、部長として、経営者としてやりたいことは何かということから自分の目標やミッションを定め、やるべきことの優先順位を決め、重要ではないことは切り捨てるといったことをすべきです。
中村:
対話会の様子誰かが変革を起こしてくれるのを待っているのではなく、一人ひとりが楽しく会社や社会に貢献していける働き方を見つけていくしかないと考えています。しかし、外国では70%ほどあるキャリア自律の意識が、日本では40%程度という調査結果もあります。周りに流され、従来の考え方のまま思考停止しているのですね。例えば、「副業OKといわれても、やりたいことはない」という男性が結構いるようなのです。ならば、仕事でなくても、子育てや介護などを手伝ってくれるだけでも周りはだいぶ助かるということもあるのではないかと。ですから一度立ち止まって、自分で考え、動いてみることが大切なように思います。
対話会の様子働き方とは、すなわち生き方なんだと思います。人生には大事なことがいろいろありますね。仕事は大事。しかし家族も大事です。趣味や友だちも大事でしょう。仕事だけにとらわれていると、ほかの大事なことを忘れるんですね。会社をやめた後、数十年の人生が残っています。やめた瞬間に仕事以外の大事なことに気づいても遅いのです。「副業OKと言われてもやりたいことはない」「早く家に帰ってもやることがない」という人は、仕事以外のことを大切にしていないからそういう発想になるのではないでしょうか。

決められた、決めてしまった枠を無理やりにでもはずす

中村:
リクルートワークス研究所は、「一人ひとりが“生き生きと働ける”次世代社会を創造する」というスローガンを掲げているのですが、「働き方改革」にこれまでになく関心が集まるなかで、私たちが関わらせていただく仕事もとても増えました。ありがたいことなのですが、忙しさが増す中で「自分たち自身が、生き生き働いてないかも」という話になりまして(笑)、この4月から原則として残業はしない、勤務時間外のメール禁止、それで仕事が収まらなければ仕事自体を減らす、という意思決定を組織でしたのです。私も子どもや友人と過ごす時間や映画や本に接する時間が一気に増え、非常に楽しい日々に一変しました。そこで「あぁ、これまでは仕事のし過ぎだったか」と気付くわけです。ですから、一度立ち止まってみるということはとても大事なことのように思いますね。
藤井:
JSRグループの求める人材像として「各々の担当分野でグローバルレベルでの競争力を有するプロフェッショナル」と掲げています。国内でも、ましてや社内でもなく、グローバルという最高のレベルを求めているわけです。そういう人材となるためには、社外の、それこそグローバルレベルの人材との出会いや学びを充実させなければならないでしょう。そこで多様な価値観や知見を吸収し、社内に持ち帰ることでイノベーションが起こせるということだと思います。ですから、そういったサイクルを生み出す方向で働き方改革は考えていきたいですね。
中村:
研究者やエンジニアはそもそも知的好奇心や探求心が豊富ですから、料理や子育ても上手という方が多いように感じています。また、キャリアの成功は出世よりも、現場の一線でいつづけることという方もいるのではないでしょうか。そういう職種の方からロールモデルをつくっていくといいのかもしれませんね。こうしたことがなかなか進まないとすれば、その要因は何なのでしょうか? 異文化との接点がないとか、コミュニティに加わっていないといったことでしょうか?
川橋:
当社の社員には、外部とのコンタクトが少ないといった問題はあると思います。セキュリティやコンプライアンスなどの制約もあるとは思いますが、温室にこもっているといった面もあるかもしれません。心理的な枠を超えて接触していかないと情報が入らず、変化を起こすアクションにもつながりません。枠を突き破って視野を広げる必要がありますね。
藤井:
ある識者から、「JSRグループは目の前の課題に取り組んで目標を達成する動機は非常に強い」と言われました。タスクオリエンテッドの会社だと。タスクに全精力を傾けて遂行するのは得意なんです。しかし、そこに遊びがない。時間があると「学会に行ってみよう」ではなく「サンプルを1つでも多くつくっておこう」となるのです。
川橋:
社員が自ら変化を起こせないとすれば、上から強引にでも変えてみることも必要なのかもしれませんね。それで失敗したら、元に戻すなりほかのやり方を考えればいいという風土も必要かと思います。
土居:
制度はそろっているわけですからね。風土を変える番だと。
対話会の様子

重要なのは風土を変えるための施策

風土を変えるには、トップが示して、各職場の責任者が動き出すか否かにかかっているのではないでしょうか。
中村:
風土を変えるために、従来とは異なるタイプの人材を登用することもいいかもしれませんね。AIを勉強したい若手とか、女性とか、あるいは外部から招くといったこともあるでしょう。
藤井:
これまで、異なるタイプが入社しても、しばらくすると同じ価値観に染まるということがよくありました。そのようにしない施策が必要ですね。
中村:
これからも読み切れない変化が立て続けに起こるのならば、自らが“台風の目”となれば安心して生きていけるわけです。そういう自律的な人材となるために、視野を広げられるようネットワークを広げていくことが働き方改革の方向性ではないかと思います。
私としては、「自分を大切にしてほしい」と申し上げたいです。自分が大事だと突き詰めて考えれば、ではどんな働き方をすればいいかが見えてくるのではないでしょうか。すべては、自分が幸せになるためにはどうすればいいかを考えればいいのではないかと思います。
捫垣:
働き方改革について、社内でも議論を重ねて新中期経営計画に盛り込みましたが、本日の対話を通じて、内部だけでは気が付かない点や新たな視点を議論することができ、大変有益でした。ぜひ今後の施策に生かしていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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