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SRI指標と銘柄への組み入れ

事業を通じて社会的課題に貢献 健康長寿社会、衛生・医療へのアクセス向上への貢献

1.基本点な考え方

2035年には日本人の3人に1人が65歳以上になるという予測があります(国立社会保障 人口問題研究所調べ、2017年度版)。超高齢社会の到来は、既に医療費の増大や、老々介護問題などをひきおこしており、日常的に介護を必要とせずに自立した生活ができる健康寿命の延長が日本の喫緊の社会課題です。将来的には、一人ひとりに合った治療を提供できるようになる「個別化医療」が発展して、健康寿命の延長に貢献すると考えられます。また診断技術の進歩によって病気の早期発見が可能となったり、難病の早期治療が可能となる効果の高い治療法や医薬品の開発など医療の形態が変化していくことが考えられます。
「個別化医療」等に貢献するJSRグループのライフサイエンス事業は、石化事業、ファイン事業に続く第3の柱です。

2.ライフサイエンス事業の体制

JSRグループは、診断・治療が行われる医療現場、或いは医薬品の製造に積極的に関わりながら、世の中で真に必要とされる技術・サービスを見極め、ライフサイエンス分野の製品を開発していきます。そのために従来のJSRグループには無い、医療分野の知識、技術、許認可取得の知見を持った機関や企業との連携を進めております。これによりJSRグループが持つ素材分野の強みを最終製品の品質に繋げ、製薬企業やエンドユーザー様の期待に的確に応えていきます。並行して、最終製品を使用する医療機関と強く連携することで、変化する医療現場のニーズにスピーディに対応する体制を整えています。

JSRグループのライフサイエンス事業の展開

(2017年3月31日現在)

#1:JSR-mblVCライフサイエンス投資事業有限責任組合 JSRグループのライフサイエンス事業の展開=JSR/JSRライフサイエンス/JSR Micro,Inc./JSR Micro N.V.

#2:KBI Biopharma,Inc.(略称 KBI)
JSRが主体となって共同買収を行ったバイオ医薬開発・受託企業である米国KBIを2015年度より連結子会社化しています。

#3:(株)医学生物学研究所(略称 MBL)
持分法適用会社であったMBLの株式を買い増しし、2015年度に連結子会社化しています。

#4:JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(JKiC)

#5:2016年6月17日付けでSCIVAXライフサイエンス株式会社はORGANOGENIX株式会社に社名変更いたしました。
(注)2017年7月1日付けで、ORGANOGENIX(株)を解散しております

その一環として、2017年10月、慶應義塾との共同研究施設 JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(JKiC)が開所します。
JKiCは慶應義塾大学の医学部と病院がある信濃町キャンパス内に、地上3階・地下1階の延べ床面積3,600m2を有します。1階は交流スペースや展示スペース、会議室や産学医連携支援室が入り、2階と3階は共同研究員が執務するフリーアドレス居室とオープンラボとなります。また、地下には最先端の評価装置等が設置される計画です。
JSRは慶應義塾大学との共同研究により、健康長寿その他の目的を実現するための新たな材料・製品を開発いたします。この研究活動を通して医療分野のグローバルイノベーションを推進し、社会と教育に貢献することを目標としています。具体的には、次の4つの領域を戦略分野として共同研究を進める予定です。

1. Precision Medicine(精密医療)

-個別の患者様に適した治療と投薬を行ううえで必要となる新規診断薬の研究や開発を行います

2. Microbiome(微生物叢びせいぶつそう

-腸内や皮膚などに存在する微生物が担う健康維持や病気発症の役割を解き明かし、疾病予防、治療に関わる技術の確立を目指します

3. Stem Cell Biology and Cell Based Medicine(幹細胞生物学と細胞医療)

-iPS細胞などの”幹細胞”の効率的な培養方法、組織や臓器への分化を制御する技術を開発し、実験動物を用いずに、新薬の探索や、性能、安全性評価を行うシステムの構築を目指します

4. Designed Medical Device(先端医療機器)

-3Dプリンティングに関するJSRの技術を基盤として、再生医療を見据えた3D形状の細胞培養基材、医療課題を解決する3Dデータ解析ソフトウェアや3Dプリントした医療機器の開発を行います

ライフサイエンス事業売上見通し

ライフサイエンス事業売上見通し

3.ライフサイエンス事業の展開分野と活動

JSRグループのライフサイエンス事業は、バイオ医薬品の製造に関わるバイオ医薬品分野および先端診断分野を中心に、事業を展開しています。
バイオ医薬品分野では、KBIにおけるバイオ医薬品の開発・製造受託事業の拡大と、今後需要の伸びが期待できる抗体医薬精製用担体のAmsphere™(アムスフェア)A3の販売拡大に注力しています。
先端診断分野ではMBLの強みを活かして海外での拡販を進め、さらに、2017年10月に開所するJKiCにおける慶應義塾大学医学部および付属病院との共同研究を通して、革新的な材料や製品の開発に取り組んでいきます。

JSRグループのライフサイエンス事業

(1)個別化医療のためのコンパニオン診断

〜JSRとMBLが病気を早期検出する製品の共同研究をしています〜

コンパニオン診断とは、医薬品や治療が患者に効果があるかどうか事前に判断したり、薬の副作用が出る患者をあらかじめ判断するために行う診断のことをいいます。治療スケジュールや投薬容量、投与中止などの治療法を最適化するために反応性をモニタリングするなど様々な目的に活用されており、個別化医療に必須の診断です。コンパニオン診断の代表的な方法は、粒子に付けた抗体※1に結合した抗原(病気関連物質)を検出し、診断を行います。
JSRの持つ粒子製造技術(磁性、着色、粒径制御、表面特性制御による高選択性)とMBLが持つ多種多様な抗体を結合させて、様々な抗原に対応する診断薬を準備することが可能となりました。JSRの開発した診断薬用磁性粒子Magnosphere™(マグノスフィア)※2とMBLの抗体を結合させ、エクソソーム※3やタンパク質を分離、検出することにより、病気の早期検出を可能にする研究を、JSR・MBL共同研究チームを設立して共同開発しています。JSR・MBL共同研究チームが開発した「ExoCap Streptavidin Kit」を2016年6月に販売開始。さらに製品ラインナップの増強を図り、世界の研究者に提供していきます。

※1 抗体:体内の異物を排除する免疫システムなど防御反応を活性化する生体分子。生体由来物質であるタンパク質からなる。

※2 Magnosphere™:特定の生体由来物質を分離して得るための高機能磁性粒子。粒子表面は水となじむ独自開発の高分子材料でコーティングされており、目的以外のタンパク質などが吸着して混ざることを防ぎつつ、粒子表面に固定した抗体などの働きは妨げないように設計されています。この特徴から、診断薬などに用いる担体として優れた性能を発揮します。

※3 エクソソーム:細胞内にある、膜小胞。近年の研究ではエクソソームを調べることでがんを含む様々な疾患を検出できるとされている。

ExoCap Streptavidin Kit 使用イメージ

ExoCap Streptavidin Kit 使用イメージ

(2)バイオ医薬品を支えるバイオプロセス材料

〜がん細胞や病気の原因を狙い撃ちできる薬の製造プロセスに使用されるJSRの製品〜

バイオ医薬品とは、バイオテクノロジー(遺伝子組換え技術や細胞融合法など)を用いて開発・製造される医薬品です。バイオ医薬品の3本柱が、抗体医薬・タンパク質医薬・核酸医薬で、特に抗体医薬は、がんや難病の治療分野で、有効性が高く副作用が少ない医薬品として近年急速に開発・採用が進んでいます。抗体医薬は化学的に合成することはできないため、遺伝子組換えを施した細胞や微生物による生物的な合成で製造されます。JSRグループのライフサイエンス事業では、バイオ医薬の製造工程で用いられるバイオプロセス材料を提供しています。
バイオ医薬はまず、微生物や細胞を培養し、大量に抗体を生合成させます。次に培養液中から抗体を回収し、精製します。JSRのバイオプロセス材は、この精製工程で使用されます。抗体医薬の精製工程では、技術とコストの両面が課題になっています。精製工程の技術が進歩すると、抗体医薬の製造コストを抑えて普及につなげられます。また、新たな機能を持つ抗体医薬の製造が可能となります。

バイオ医薬品を支えるバイオプロセス材料

JSRライフサイエンスの製品「Amsphere™(アムスフェア)A3」は、液中から必要な抗体医薬成分を回収するための初期精製に用いられるカラム用担体です。従来品よりも多量の抗体を効率よく捕捉することができ、繰り返し使用しても性能が低下しにくく、純度の高い抗体を効率的に得られる特長があります。また機械的強度が高いので高流速での精製に対応でき、この点でも効率化が望めます。「Amsphere™ A3」は、2016年1月に販売開始しています。
JSRグループは抗体医薬の製造プロセスに、戦略的パートナーを拡大しつつ貢献していきます。さらに、次世代抗体医薬やその他のバイオ医薬品の製造プロセスに用いられる材料・デバイスなども提供していきます。

遺伝子組み換え技術の利用に関して;

JSRグループのポリシーとして、カルタヘナ議定書(生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関する議定書)に対応する各国法令・規則に基づく社内安全管理基準を策定し、継続して遵守しています。

(3)ライフサイエンス分野以外でも、健康長寿社会に貢献します

〜慶應義塾大学との共同研究において、3Dプリント義足の途上国での実証試験を実施しました〜

3Dプリント義足当社と慶應義塾大学SFC研究所は、その共同研究において生体適合性エラストマーからなる3Dプリンタ用材料FABRIAL®(ファブリアル)Rシリーズと、その3Dプリンティング技術を開発しました。この成果を活かし、2015年度、慶應義塾大学SFC研究所員が、当社と経産省フロンティアメーカーズプロジェクトからの支援を受け、フィリピンにおいて3Dプリンタで作成した義足の実証試験を行いました。
フィリピン国内では、120万人の足切断者がいますが、年間に470本しか義足の製造ができないため手元に届かず、外出できない人がいます。また、義足は高額であり購入することが難しいのが現状です。
一方、3Dプリンタから製作された義足は調整が容易、パーツ交換可能、重量が軽い、比較的安価といった特色を持っています。JSRの3Dプリンタ用樹脂FABRIAL®の持つ柔軟性が、義足の切断された足に接する部分に使用されており、足への負担を軽減しています。JSRグループは、FABRIAL®を通じてヘルスケア領域の発展に今後も貢献していきます。