ホームCSRトップ対談/創立60周年を迎えるJSRが目指すCSR経営 ③

SRI指標と銘柄への組み入れ

トップ対談/創立60周年を迎えるJSRが目指すCSR経営 ③

持続的な成長の実施に向けて

今、次の20年、30年を見据えた施策を考えることが必要

ピーダーセン:
JSRは2017年12月に60周年を迎えます。次の60年を見据えた時に、どういったビジョンや施策をお考えでしょうか?
20年後、30年後JSRグループという企業体が存在し、成長していくために、今申し上げた働き方改革やデジタルレボリューションへの対応と、もう一つ、製造設備やITインフラなどの見直しにも取り組んでおかなければならないと考えています。新中期経営計画の3年間で、この方向性を決めていきます。新中期経営計画を2020年ではなく、2019年までとしたのは、「2020年からはもう次の世代だよ」というメッセージを打ち出したかったからです。その次の20年、30年については、ぜひ若い世代が主体となって取り組んでほしいと思っています。
ピーダーセン:
いわゆる創造的問題解決を担うのは、次の若い世代だということですね。そのために、例えばデジタルマインドセットをどのように植え付けていこうとお考えですか?
デジタルネイティブではない社員もたくさんいますが、例えば業務システムにしても旧式の基幹系情報システムを入れ替え、データをもっと活用できるようにするとか、社員の健康管理にデジタルメディスンなどを取り入れることで、データへの親和力が高まると思います。あるいは、語学だけでなくプログラミング言語も学ぶといったことも有効でしょう。最近、ちょっと驚いたことがありました。1年前、若手の研究職たちと話していて、「いつまでも同じやり方をしていないで、ニューラルネットワーク(脳神経系をモデルにした情報処理システム)でも使ってみたらどうか」と言ったのです。それから、1年後にレポートが送られてきたのですが、高度すぎて何を言っているのかさっぱりわからないほど、彼らは成長していました。デジタルネイティブはそのように機会を与えればいくらでも育つということですね。実際に選抜教育も始めているところです。
ピーダーセン:
やりたい人がチャレンジできる仕組みがあることが重要ですね。
昔の日本合成ゴム(旧社名)時代はドメスティックな会社でしたが、今では若手中心の会議に1人でも外国人が入れば、自然に英語で会話する風土ができています。デジタルも同様に、自然に組み込まれていくだろうとみています。

「健全なこころ」を維持する組織であること

ピーダーセン:
先ほど、予測できない未来に対して“Future Proof(将来を見越した)”つまり、古くならない、“Resilientな(レジリエント=回復力のある)”組織をつくる必要があるとお話ししました。デジタルや英語の組み込まれた風土は、まさにその方向性にあると思います。その上で、社会とベクトルを合わせるという意味での社会性が欠かせません。時代が求めるもの、ステークホルダーが求めるものとして「持続可能な社会の実現」に自社戦略のベクトルを合わせる必要があるということです。
従来の監査室を「経営監査室」に改めました。環境破壊や事故、品質データの改ざんなどの不正につながるようなことが起きないためのチェックだけでなく、そういうことが起きない大前提の上で、より良い製品をお届けするための“Sustainability Innovation”の視点も加えようという狙いがあります。つまり、組織として生き残っていくために健全な心を持ちながら、もっとマインドやカルチャーを高めていこうということです。
ピーダーセン:
従来のエクセレントカンパニーは、いわば“Performance Excellence(性能的卓越)”を追求していたと思います。今日では、そこに“Social Excellence(社会的卓越)”の追求が加わった、いわば“Double Excellence”がキーワードではないかと思います。その上積みが大きいですね。つまり、ステークホルダーにとって、JSRは単に業績を出すだけでなく、社会の課題にちゃんと対応している会社という上積みを示すということだと思います。監査室から経営監査室に改めるというお話は、その一つの表れでしょう。
私は長く営業をやっていましたが、お客様が当社とお取引いただくのは、JSRというブランドもあるけれども、瞬間、瞬間は研究者や営業担当という“個人”の要素が大きいのですね。その個人が信頼できる、好きだから、ビジネスしてもいいと思っていただけるわけです。一番いいのは、商品がまだできていないのに買っていただける状況を作ることです。長いお付き合いのお客様はもちろん、新規のお客様でも、本当にあることなのです。
ピーダーセン:
JSRなら間違いない、ということですね?
Materials Innovationという方向性の中で、お客様との“Innovation One on One”ということをずっとやってきました。つまり、お客様との1対1の特別な関係の中で、イノベーションを生む体制をつくるということです。お客様には、完成した製品というよりも、JSRとの関係を買っていただくといったニュアンスがあります。
ピーダーセン:
社内だけでなく、社内と顧客との間にも“Anchoring(拠り所となる企業理念)”を共有するといった関係の強さですね。
対談の様子ただし、“Innovation One on One”には使える分野が限られるという弱点があります。我々は勝ちパターンとして“Innovation One on One”に取り組んできましたが、変化が速いデジタルレボリューションにおいては、これだけでは勝てません。ですから、全く違うビジネスモデルをどう生むかがが問われていると思います。これは当社にとってすごいチャレンジだと思います。

信頼しつづけてもらえる企業であること

ピーダーセン:
対談の様子2015年9月にSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)という「世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連で採択されました。これは社会をいかに変えていくか、そのために何をするかというベクトルだと思います。それに対して事業イノベーションで何ができるかが重要です。元来の信頼性や誠実さといった強みと創造的イノベーションの強みの掛け算ができますね。私は、これからのROIとは“Return on Investment(投資に対するリターン)”ではなく、“Return on Integrity(誠実さに対するリターン)”だと言っています。もし、CSRとは疲弊を生む辛いもので、事業活動と社会のトレード・オフの関係にあるという状態があるのならば、それを解消しトレード・オンの関係にしていく。そのことでブランド価値が高まり、リターンが増えるのだと思います。
当社の製品であるSSBRは、地球温暖化に貢献します。例えば走行距離が短いと言われるEV=電気自動車の課題に貢献できるのもタイヤです。エンジンのダウンサイジングなどで環境対応しようとする際のキーもタイヤなのです。また半導体で言えば、省力化製品です。AIに使われるものなどの電力消費量はものすごい。世界の電力消費の2%はデータセンターだと言われています。これらの社会的問題の解決は、ビジネスの機会でもあるわけです。そういう大きな課題解決に対応するIndustrial Innovationに必要なものはMaterial=材料だと思っています。
企業とは、存在そのものに社会性があるわけですから、従業員はもとより、お取引先、お客様には今まで以上に信頼されること、それを揺るぎないものとし続けることが大事です。JSRグループが社会的な存在であること、そこを直視すれば自ずとCSRは見えてくるのではないかと思います。
 
対談の様子

ピーター D. ピーダーセン

株式会社イースクエア 共同創業者、リーダーシップ・アカデミーTACL 代表、NELIS-次世代リーダーのグローバルネットワーク 共同代表。
1967年デンマーク生まれ。コペンハーゲン大学文化人類学部卒業。日本在住20余年。企業の経営、環境、CSRのコンサルティングのほか、講演、研修、執筆活動を行っている。主な著書に「レジリエント・カンパニー(東洋経済新報社、2015年)」「第5の競争軸(朝日新聞出版、2009年)」がある。