JSR、生体分子のように抗体を精密認識するスマートプラスチック材料の開発に成功

~本研究成果が「Advanced Materials Interfaces」誌の表紙に選出~
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JSR株式会社(本社:東京都港区、代表取締役CEO兼社長:エリック・ジョンソン)は、当社独自のエポキシド間結合反応1を用いた橋掛け表面修飾技術により、生体分子のプロテインA(PA)のように抗体を精密認識するスマートプラスチック材料の開発に成功しました。本材料は、簡便な表面修飾技術で作成された低コストPA代替材料として、抗体精製や診断向けバイオセンサーなど様々な用途への展開が期待されます。

本件は、Wiley-VCH社発行の「Advanced Materials Interfaces」誌の20241123(814日発行) 2に掲載されました。さらに、この研究成果の新規性および発展性が高く評価され、当雑誌の表紙(A)に採択されました。本件について、研究員は「日々の業務で扱う材料に独自の反応を施す試行錯誤が、0から1を生み出す結果につながった。」と述べています。

なお、本内容を20253月に開催される第105回日本化学会にて発表予定です。

生体分子のPAに代表される抗体結合性タンパク質は、特異的に抗体と強く結合し、さらにバッファー(緩衝水溶液)のpHの変化に応じて、結合した抗体を放出します。これらの特性を生かして、抗体医薬品用精製材料やバイオセンサーなどに応用され、2022年度、PA樹脂市場規模は約10億米ドルと言われており、さらなる成長も見込まれます。一方、製造コストや混入といった生体分子由来の課題も残っており、非生体分子系の代替材料の創出が待たれています。

当社は今回、独自のエポキシド間結合反応を用いて分子レベルの橋掛け構造で表面修飾したカラム精製用多孔質粒子(B)が、抗体の一種である免疫グロブリンG(IgG)に対して、PAと酷似した「IgG結合選択性」、「バッファー応答性」や「Fc部位特異認識」を発現することを発見しました(C)。これらの特性を利用して、実際に、IgGとモデルタンパク質の混合物をバッファー交換のみで容易に分離することに成功しました。

これらの特性の起源の究明のため、表面修飾構造を変えた一連の粒子を調査したところ、非橋掛け構造とは異なり、一連の橋掛け構造のみがIgGと結合しました。これは、橋掛け構造が精密な抗体認識に起因していることを示唆しています。今回開発した橋掛け表面修飾は、簡便かつ低コストプロセスながら、プラスチック素材を高機能化する新たな技術であると言えます。

今後のさらなる研究開発においても、外部研究機関との連携など新しい取組みを模索し、社会に貢献できるマテリアルの開発を進めてまいります。




1 独自のエポキシド間結合反応

JSR、非化学量論条件下の高効率なエポキシド間結合反応に成功 | 2022年 | ニュース | JSR株式会社

2 掲載論文

A Thioether-bridging Surface Modification of Polymeric Microspheres Offers Nonbiological Protein A-mimetic Affinity for IgG

Takanori Kishida*, Advanced Materials Interfaces, 2024, 11, 2301028 (オープンアクセス、リンク

図1

A. 当材料に関わる一連の研究成果 ()イギリス王立化学会発行「Chemical Communications」誌の裏表紙、()Wiley-VCH社発行「Advanced Materials Interfaces」誌の表紙

図2

B. 独自反応を用いて表面修飾したカラム精製用多孔質粒子

(a)粒子上のエポキシド間結合反応により形成されたチオエーテル橋掛け構造

(b)表面修飾した多孔質粒子の走査電子顕微鏡画像

(c)粒子充填カラム


図3

C. 本粒子のIgG認識性能の概念図

IgG結合選択性:IgGと数種類のモデルタンパク質に対して結合性を評価した結果、本粒子は中性バッファー(pH7.5)中、IgGのみと結合する

*バッファー応答性:中性バッファーから酸性バッファー(pH3.2)にバッファー交換した際、結合したIgGをすばやく放出する

Fc部位特異認識:IgGは「Y」の字のような構造をしており、本粒子はその下半分に当たる領域であるFc領域と選択的に結合する