JSR、非化学量論条件下の高効率なエポキシド間結合反応に成功
JSR株式会社(本社:東京都港区、代表取締役CEO:エリック・ジョンソン)は、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)との共同研究により、非化学量論*1条件下の高効率なエポキシド間結合反応に成功しました。
本件は、イギリス王立化学会(RSC)発行の「Chemical Communications」誌の2022年1月号(1月25日発行)に掲載され*2、さらに当該号のOutside Back Cover(図A)に選ばれました。今回の研究成果の新規性および発展性が高く評価され、採択されたものです。
ジアミンやジチオールなどの架橋剤によるエポキシド間結合反応は、長年の間、基礎研究から産業利用まで幅広く使われ、特にエポキシ樹脂の製造などに欠かせない手法です。エポキシ樹脂は、主に接着剤や塗料などに使用され、世界生産量は、年間3.5百万トン以上に達すると言われています。このような背景から、その基礎反応の手法は、長年にわたる重要な研究対象であったため、ほぼ網羅されていると考えられていました。
当社は今回、架橋剤にチオ酢酸カリウム(AcSK)を使用することで、水中で2つのエポキシドを非化学量論条件下においても高効率に結合させることができる、独自のエポキシド間結合反応を新たに発見しました(図B)。
従来の架橋剤を用いた反応とは異なり、大まかな原料比の管理だけで、安定的に目的物を得ることができます。反応に必要な量の2倍量の架橋剤を用いたモデル反応では、従来の架橋剤DTT(dithiothreitol:ジチオトレイトール)でおおよそ33%であるところ、AcSKでは収率99%に達しました。特に精密な原料比管理の必要な重合反応に適用し、2官能エポキシドを用いて、非化学量論条件下、ほぼ一定の分子量のポリマーを得ることに成功しました(図C)。さらに、ハイドロゲルや自立膜を形成する架橋反応においても同様に、その効果を実証しました。
本反応は、汎用性の高い原料を用いた反応であるため、産業利用につながる新しいエポキシ材料を創出する手法として活用され、既存の市場だけでなく、電子分野やライフサイエンス分野など幅広く展開できるものと期待されます。今後も、社会に貢献できるマテリアルを提供できるよう、研究開発を進めてまいります。
なお、本内容を2022年度5月に開催されます第71回高分子学会年次大会にて発表予定です。
*1 化学量論
化学反応における化学種(分子)の量的関係のこと。ここで示した結合反応の場合、2つのエポキシドと1つのチオ酢酸カリウムが反応するため、その化学量論比は2:1(mol/mol)である。非化学量論条件とは、その比から外れた反応条件を指す。
*2 掲載論文
Efficient linking of two epoxides using potassium thioacetate in water and its use in polymerization Takanori Kishida*, Tomio Shimada and Kazunori Sugiyasu*, Chem. Commun., 2022, 58, 1108-1110.
A. イギリス王立化学会発行「Chemical Communications」誌2022年1月25日号のOutside Back Cover
- B. 2分子のエポキシドと1分子のチオ酢酸カリウムの化学反応式
C. 架橋剤により結合されたEX-830重合体の分子量Mnと化学量論比の関係
従来の架橋剤DTT(dithiothreitol:ジチオトレイトール)を用いた2官能エポキシドEX-830の重合体は化学量論比に応じて、分子量Mnが大きく変化するが、AcSK(チオ酢酸カリウム)の重合体の分子量Mnは、化学量論比が0.5より大きな範囲で、ほぼ一定になった。