
2011年3月に発生した未曾有の大震災は、東北・関東地方に甚大な被害を及ぼしました。被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。
JSRグループでも、人的な被害こそは免れたものの、茨城県の鹿島工場が被災し、約2ヵ月の操業停止を余儀なくされました。今後、復興に向けて私たちに何ができるのか、社会の一員としてどのような役割を果たしていくべきなのかを考え、行動に移していきたいと考えています。
2011年度は当社グループにとって、2013年までを対象とした新中期経営計画のスタートの年となります。当社グループの最も重要なキーワードである「innovation」のiをとって「JSR20i3(にせんじゅうさん)」と名づけたこの計画は、2030年までを見据えた事業環境分析の結果を踏まえ、2020年の当社グループの「ありたい姿」の実現を目指して策定したものです。
当社グループが2002年から取り組んできた事業構造改革は、金融危機などの影響もあり、数値目標については当初の目標を修正せざるを得ませんでしたが、その方向性や戦略は誤りではなかったと確信しています。そこで、今回の計画策定にあたっては、そのまま継続すべき部分を継承しつつ、時代の変化などに対応して変更すべき点に修正を加えました。
キーワードは「成長への始動」です。急激な環境変化が続く「不確実性」と「多様化」の時代にあって、これまで積み重ねてきた「成長への投資」を、事業として実らせ、さらなる成長を始動させる3年間でありたいと考えています。
「JSR20i3」においては、9年ぶりに企業理念を改定し、経営方針、行動指針と併せた「企業理念体系」としての位置づけを行いました。当社グループが今後持続的な成長を続けていくためには、事業領域の変化や経営者の交代があっても、変わることのない「JSRグループの目指すもの」を改めて全社員に示し、共有する必要があると考えたためです。
経営方針では、そうした価値判断の基準となる「経営の軸」を明確に示すと同時に、ステークホルダーへの責任の重要性を宣言しています。行動指針については、これまでの「3C(Challenge(挑戦)、Communication(対話)、Collaboration(協働))」に、上司と部下が対話を通じて共に育つことを意味する「Cultivation(共育)」を加えた「4C」を制定しました。
企業倫理要綱についても、海外拠点を含めたJSRグループ全体で統一する形で改定しました。グローバルに事業展開していくうえでの重要性を踏まえ、国連グローバル・コンパクトの10原則をその柱として織り込んでいます。
そして「JSR20i3」の開始とともに取り組むのが「E2イニシアティブTM」の本格展開です。これは、環境への取り組みにおいて、新たな事業機会創出を意味する「Eco-innovation」と、CO2排出量削減を中心とした「Energy management」、つまりは「攻め」と「守り」双方の面での価値創出を追求していこうとする考え方です。
「攻め」の面については、すでに省エネタイヤ用ゴムなど、さまざまな製品を世に送り出してきました。また、新たに開発した製品を発売前に自社工場で実証実験し、自社の省エネにもつなげるという、「守り」の面との連携が可能な点も大きな特長となっています。環境は公共性の高い分野であり、通常にも増して「安価で良い製品」が求められるという認識のもと、新たなニーズを把握し、さらなる事業化を積極的に進めていきます。
CO2排出量削減については、2012年度に1990年対比で6%の削減という目標を設定しています。東日本大震災の影響を見極める必要はありますが、さらなる削減に尽力する姿勢に変化はありません。今後、「Energy management」を強力に推進していきます。
また、これからは全ての製品開発において、経済性だけではなく、LCA(ライフサイクルアセスメント)を考慮することを基本としました。実績を積み重ねることで社員の意識の一層の向上にもつなげたいと考えています。
併せて、今後より力を入れていこうと考えているのが、新経営方針にも組み込んだ生物多様性保全への取り組みです。当社グループは、主要な製品の原材料として、天然由来のものを一部使用しているほか、天然ゴムと同等の特性を持つ合成ゴムも製造しています。従って当社グループにとって「生物多様性の保全」は、まさに事業に直結した、直近に取り組むべき重要課題であるととらえています。
その認識のもとで現在、原料のサプライチェーンにおける問題点の調査・把握を進めています。その結果を受け、2011年度には課題解決に向けた具体的な取り組みを設定し、経営計画の中にも取り込んでいく所存です。
当社グループでは人材の多様化の推進を重要経営課題の一つとして位置づけ、その第一歩として女性社員の活用に力を入れてきました。採用における女性比率の向上や能力向上などの面で、一定の成果は出せたと考えています。
もちろん、人材の多様化は女性の活用だけにとどまる考え方ではありません。今後は、事業のグローバル展開を踏まえ、海外拠点との相互研修制度の拡大など、人材のグローバル化に注力していきます。
そうした多様な人材がより自由度高く活躍できる環境を実現することが、私の強い願いでもあります。企業理念体系という明確な判断基準のもとで、「自由と規律」という、本来は相反する二つの概念が両立するような企業文化を育て、風土として定着させたいと考えています。
本レポートでは、新たな節目を迎えたJSRグループの、未来に向けたさまざまな取り組みをご報告しています。ぜひお読みいただき、忌憚のないご意見をお寄せください。