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CSRレポート2013

JSRグループのCSRを革新し続けるために必要なこと

JSR六本木倶楽部

社内外のステークホルダーと共に
真のイノベーションの実現を目指す

薗田氏

薗田氏

JSRグループは企業理念の中に「Materials Innovation」を掲げていらっしゃいます。イノベーションには、ネガティブなインパクトをポジティブに変えたり、ポジティブなインパクトをさらにポジティブにする、今までにない発想が重要です。この原動力として従業員の育成が不可欠になると思われますが、社内ではどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?
清水 私は「Materials Innovation」には「マテリアル自身のイノベーション」と「その新しいマテリアルを通じた世の中のイノベーション」というふたつの側面があると考えています。社会がどうなるべきなのかという視点を、研究者もマーケティング担当も、従業員みんなが持つことが大事だと思います。独りよがりなものづくりではなく、また直接の対面顧客のニーズだけではなく、世の中を見渡し、新しいトレンドを把握する感性が従業員に求められているのかと思います。市場も、先進国だけでなく新興国も増えていますから、そういった拡大する市場に合わせてどのようなものをつくっていくのかがますます重要になると考えています。
安井氏 特に日本では、イノベーションという言葉が「消費者のニーズを超えたちょっと良いものをつくる」というような考え方になっていないでしょうか。イノベーションの方向性とはそういうものではなくて、「やわらかなバックキャスティング」が必要というのが私の考えです。社会の現状を認識し、現状がどういう方向に動いていくのかを予測して、将来社会の姿を描く。そこから「世の中の人が本当に欲しがっているもの」のニーズをブレイクダウンしていくという作業ですね。日本だけのドメスティックな視点に捕われず、世界全体でこのくらいの人がこういう方向に考えているから、こんなものが必要だと分析をすることが必要です。つまり、なるべく広範な、鳥瞰的視点が大事になります。
平野 少し乱暴な言い方ですが、日本は妙に豊かであるが故に、危険だという気がします。人口問題や環境問題をはじめ、世界にはさまざまな課題があるのに、日本にいると快適で気づけなくなってしまう。ですから、私が担当している経理・財務部門では、部署でローテーションがあったときには、海外勤務を経験させることにしているんです。それは人材育成ポリシーなどと呼べるものではありませんが、とにかく海外に行かせます。
久保 こうした取り組みは、「日本はものすごく便利で何も考えなくても生活していくことができる」という特異性を若いうちから実感することができるので、重要だと思います。
薗田氏 お話しいただいたような企業姿勢が見えてくると、JSRグループに対する投資家の評価も変わりそうですね。
足立氏 日本ではまだ、社会的責任投資(SRI)が特殊な投資スタイルだと思われているようですが、欧州などでは当たり前にESG(環境・社会・ガバナンス)のリスクがないかどうかを投資判断に入れています。いくら目の前の業績が良くても、ESGのリスクを抱えていると長期的な投資には向かない。ESGに関してきちんと取り組んでいるというのを最初のスクリーニングの基準として使い、それからパフォーマンスや業績を見るということです。
JSRの海外投資家比率は35%で、これからどんどん増えると考えられます。ですから、自分たちがどういう行動をとるのか、その背景にはどんな考え方があるのかということをきちんと説明することで、確実にいい方向に進むでしょう。SRIに対して既に高い意識を持っている層はもちろん、興味がなかった投資家に対しても「今はそういう流れになっているんだ」という気づきを与えることができるのではと思います。
清水 私は、ESGだけをことさらに強調するということには違和感があります。まずは本業にきちんと取り組み、その中に自然とESGの概念が入ってきているのが望ましいと考えています。制度設計や組織設計、従業員教育に、当たり前のようにESGの観点が反映されているというのが理想的ではないかと思います。JSRでは「攻め」と「守り」の両面から環境側面での価値創造を目指す「E2イニシアティブ」を掲げていますが、これはESGの観点が本業に活かされた一例です。製品開発時にLCA評価を行い、JSR内でエネルギー消費が減るのか、ユーザーの使用段階で減るのか、ということも検討しています。LCA評価が悪くなることはやらない、というのが基本姿勢です。そうした環境性能に対する価値観は社内に浸透してきているという実感があります。
川崎 設備投資においても、LCAの考え方を取り入れています。プラスとマイナスの両側面を検討し、最終的にリターンを得られる方法を選択する。その考え方を明確にしています。
平野 CO2の排出量をコストとして考えたとき、投資に対して回収がどのくらい延びるかといった議論は社内できちんと行っています。
足立 CO2はカーボンディスクロージャーがありますが、近年は水についてもディスクロージャーを求めるようになってきています。その次は土地だと思います。最近では「自然資本」と呼ばれていますが、こうした地球上に住む人々や企業の共通の財産に対して自分たちがどの程度負荷をかけているのか。それを定量化して、経営の中で必要があれば対応していくという動きも出てきています。
久保 JSRでも、そうした試算を始めたところです。
薗田氏 完璧でなくてもそういうトライアルをやっていることは発信する価値があります。化学メーカーが自然資本を考え始めたという意外性も含めて。
清水 化学メーカーは製品の使われ方が幅広いため、社会とのかかわりについてこれまでも十分に考えてきたとは思います。先程のお話にあったように、化学メーカーは原料や燃料として資源を大量に使って世の中に製品を供給しているのですから、結果的にそれが世の中にどう貢献しているかを考えないと、それだけの資源を使って事業を行う自らの存在価値が説明できませんからね。

長期的な視座から事業のあり方を見つめ
日常業務の推進力に変えていく

薗田氏 それでは最後に、本日のまとめを、お一方ずつお願いいたします。
足立氏 先ほど話に出ていた通り、日本でイノベーションと呼ばれるものは「本当にそれがイノベーションなの?」と思うくらい小さなもの、改良程度のものを指していることがあります。しかし本当のイノベーションとは、もっとドラスティックで物事の根幹を揺さぶるようなものではないでしょうか。そして、その根幹を支えているのが素材産業だと私は思います。消費者の方があっと驚くような機能や製品も、実現するためには素材の技術が必要です。つまり、本当のイノベーションは素材から生まれると思うので、その点でJSRグループにとても期待をしています。また、新しいものを生み出す意味でも、多くの従業員を海外勤務させる取り組みも素晴らしいと思います。従業員が、世界のいろいろな場所のローカルな日常生活を知っていることは、今後、世界中の生活を変えるようなイノベーションを生み出すための原動力になるはずです。
安井氏

足立氏

今のままでは日本の将来は厳しい、と私は思っています。いちばんの原因はマインドです。日本人ローカルの狭い場所に寄り合って生きていくことが心地良いと思ってしまっているのではないか。それは企業も同様で、自社が正しいことをやっていると主張し、自社を誇る企業というのは日本ではあまりないと思います。それを主張するためには、全地球的な視点と、長い時間軸で物事を捉えなければならない。そしてそれによって将来をリードしていくんだという気概を持った経営者が、今の日本にいちばん求められていると感じます。JSRは、経営者である小柴社長の哲学が明確で、リーダーシップを発揮されている。その個性に期待しています。私たちが地球上で生活し、事業を行う以上、地球を消費しながら生きているわけで、その中で最善のことをやれると言い切れる企業に、ぜひなっていただけたらと思います。
清水 気候変動や生物多様性など、これまでも取り組んできた問題もあれば、シェールガス革命のように新たな対応を考えるべき変化も起きています。これら多様な論点を取り込みながら、より長期的な視点でビジネスを考えなければならないことを再認識しています。また、いろいろな考え方を組織に落とし込む際には、従業員一人ひとりの感度を上げることが重要である一方、従業員が入れ替わっても組織としての感度を保っていく必要性も、課題として認識しなければと強く感じました。
川崎 普段、日常的に事業や業務に埋没してしまい、目先の収益や今年の目標の達成にばかり目が行きがちです。世の中の環境が毎日変わっていく中で、長期的にどう見ていくのかということについて、示唆に富んだお話を伺うことができたと思います。本日の内容を我々の仕事に反映させていくのはもちろんですが、従業員にも理解してもらうことで、意識やモチベーションの向上につながるのではと感じています。普段と違った視点からの気づきを大切にしていきたいと思います。
平野 私は比較的楽観的に考えています。気候変動やエネルギー問題、原料調達など、課題はたくさんあります。しかし人類は今までも困難な課題を解決してきた生き物です。JSRグループの中にもさまざまな課題解決のDNAがたくさん蓄積されているし、良いリーダーもいる。今後課題になるのは、活動を加速させていかなければならないということ。まずは自分から行動するということが大切だと、改めて感じました。
久保 こういった形でダイアログを実施するのは、JSRグループのCSRとしては初めての試みでした。CSRを進めるうえで、社会と対話し、それを施策に活用していくことが重要と認識しています。今回のダイアログは、単なる一般論に終わらず、大変広い視野で語り合うことができ、大きな示唆を得ることができたと感じています。また、私たちに大きな期待を寄せていただいていることも実感できました。一度にすべてに取り組むのは難しいですが、順を追って進め、JSRグループがより良い企業体になることを目指していきたいという想いを新たにしました。ありがとうございました。

当日のファシリテーター薗田氏からのメッセージ

JSRグループの取り組みは、日本企業の中では一歩進んだものです。今後、社会に向けてもっと発信することで対外的な評価が高まり、ブーメラン効果で社内浸透にもつながると思います。ぜひ、グローバル企業としてのベスト・プラクティスとなることに期待しています。

JSR六本木倶楽部

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