JSRは、レスポンシブル・ケア推進委員会において、環境自主保全中期計画を定めており、この中で地球温暖化防止対策としてエネルギー削減に関する原単位の目標を定めています。目標達成のため、省エネルギーおよび省資源を目的に「E-100plus」プロジェクト活動を全社で推進しました。2015年度は、生産量減少等の影響により、エネルギー原単位削減目標を達成することができませんでしたが、今後も全社的な省エネルギー活動を継続し、省エネルギー推進に努めていきます。
近年、グローバル規模では企業が間接的に排出するサプライチェーンでの温室効果ガス排出量を管理し、対外的に開示する動きが強まってきています。JSRでは環境省発行の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」に基づき取り組んでいます。
カテゴリ | 2014年度排出量 | 2015年度排出量 | 算 定 対 象 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
CO2 (t) |
比率 (%) |
CO2 (t) |
比率 (%) |
|||
Ⅰ. 直接排出 |
397,548 | 56.5 | 379,019 | 54.8 | ■ 自社での燃料の使用や工業プロセスによる直接排出 |
|
Ⅱ. エネルギー起源の間接排出 |
261,351 | 37.2 | 272,225 | 39.3 | ■ 自社が購入した電気・熱の使用に伴う排出 |
|
Ⅲ. その他の間接排出 |
44,219 | 6.3 | 40,597 | 5.9 | ||
その他の間接排出(Scope3の内訳) | ||||||
カテゴリ1 | 購入した物品・サービス | - | - | - | - | 原材料・部品・仕入商品・販売に係わる資材等が製造されるまでの活動に伴う排出 ・算出しておりません。 |
カテゴリ2 | 資本財 | - | - | - | - | 自社の資本財の建設・製造から発生する排出 ・算出しておりません。 |
カテゴリ3 | Scope1,2に含まれない燃料および エネルギー活動 |
10,273 | 23.2 | 6,551 | 16.1 | 他社から調達している電気や熱等の発電等に必要な燃料の調達に伴う排出 |
カテゴリ4 | 輸送、配送 (上流) |
12,028 | 27.2 | 12,172 | 30.0 | ① 報告対象年度に購入した製品・サービスのサプライヤーから自社への物流(輸送、荷役、保管)に伴う排出 ② 報告対象年度に購入した①以外の物流サービス(輸送、荷役、保管)に伴う排出(自社が費用負担している物流に伴う排出)活動量:国内、及び海外の出荷物流量 |
カテゴリ5 | 事業から出る廃棄物 | 8,569 | 19.4 | 9,343 | 23.0 | 自社で発生した廃棄物の輸送、処理に伴う排出 |
カテゴリ6 | 出張 | 321 | 0.7 | 327 | 0.8 | 従業員の出張に伴う排出 |
カテゴリ7 | 従業員の通勤 | 1,159 | 2.6 | 1,182 | 2.9 | 従業員が事業所へ通勤する際の移動に伴う排出 |
カテゴリ8 | リース資産 (上流) |
43 | 0.1 | 47 | 0.1 | 自社が賃貸しているリース資産の操業に伴う排出(Scope1,2で算定する場合を除く) |
カテゴリ9 | 輸送、配送 (下流) |
11,770 | 26.6 | 10,916 | 26.9 | 自社が販売した製品の最終消費者までの物流(輸送、荷役、保管、販売)に伴う排出 (自社が費用負担していないものに限る。) |
カテゴリ10 | 販売した製品の加工 | - | - | - | - | 事業者による中間製品の加工に伴う排出 ・算出しておりません。 |
カテゴリ11 | 販売した製品の使用 | - | - | - | - | 使用者(消費者・事業者)による製品の使用に伴う排出 ・算出しておりません。 |
カテゴリ12 | 販売した製品の廃棄 | - | - | - | - | 使用者(消費者・事業者)による製品の廃棄時の処理に伴う排出 ・算出しておりません。 |
カテゴリ13 | リース資産 (下流) |
56 | 0.1 | 59 | 0.2 | 賃貸しているリース資産の運用に伴う排出 |
カテゴリ14 | フランチャイズ | 0 | 0.0 | 0 | 0.0 | フランチャイズ加盟者における排出
・事業形態がフランチャイズ方式ではないため排出はありません。 |
カテゴリ15 | 投資 | - | - | - | - | 投資の運用に関連する排出 ・算出しておりません。 |
Scope3合計 (カテゴリ1〜カテゴリ15) |
44,219 | 100 | 40,597 | 100 |
JSRは『環境保全自主中期計画』において、CO2排出量削減目標を定め、省エネルギー活動を通じて温暖化ガス削減に向けた活動を進めています。
3工場トータルのCO2排出量を1990年度対比6%削減
パリ協定を踏まえたCO2削減目標を検討する(2016年度)
JSRでは鹿島工場(鹿島南共同発電)での燃料転換や四日市工場での汚泥脱水設備の導入など、省エネ技術の高度化に取り組み、『3工場トータルのCO2排出量を1990年度対比6%削減体制』を2012年度に確立しました。2015年度は、1990年度対比で約9.5%のCO2排出量削減となり目標を達成しました。なお、原単位指数は、1990年を100とすると2015年は65となり、削減傾向にあります。
2010年4月に四日市工場に天然ガス焚きガスタービンコージェネレーション設備を導入しました。燃料として天然ガスを使用することで従来の石炭および重油焚き蒸気ボイラーおよび復水蒸気タービン設備と比較して、2015年度はCO2排出量を約3.8万トン削減することができました。
2012年度に四日市工場総合排水処理施設から排出される汚泥を乾燥させる汚泥乾燥設備を導入しました。従来は含水率の高い汚泥を助燃剤(重油)を使用して場内で焼却していましたが、乾燥して燃料化することで助燃剤を削減することができ、2015年度はCO2排出量を約1.1千トン削減することができました。
2009年度、2010年度での電力使用量の平均値(基準年平均値)に対し、8%削減
東京都では、一定規模(延床面積5,000m2もしくは年間の電力使用量が600万kWh)以上のテナントに対し、「東京都環境確保条例」でCO2排出量削減を義務化しています。
JSRは、当条例において削減を義務化されている対象事業者ではありませんが、自主的にエネルギー削減目標を定めて省エネルギー活動を推進しています。
2015年度は、上記の主な取り組みを実施した結果、電力使用量は基準年平均値を下回り、基準年平均値対比で21%の削減を達成しました。
輸送における環境対策として、2006年度の改正省エネ法に従い、特定荷主として輸送エネルギー削減の取り組みを計画的に行っており、ローリーの大型化やトラックからの鉄道や船での輸送を進め、平均で年間1%以上の輸送エネルギー原単位の削減を目標に取り組んでいます。
2015年度も、製品・原料の鉄道や船での輸送を推進しその結果、モーダルシフト率は前年度対比1%向上し、輸送エネルギー原単位も前年比1%を削減する結果となりました。
年度 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 |
---|---|---|---|---|---|
輸送量(百万トンキロ※3) | 473 | 471 | 492 | 523 | 511 |
鉄道・船輸送比率(%) | 83 | 82 | 83 | 85 | 86 |
エネルギー使用量(kl:原油換算) | 8,726 | 8,655 | 9,026 | 9,388 | 9,112 |
エネルギー原単位(kl/千トンキロ) | 0.0184 | 0.0184 | 0.0184 | 0.0180 | 0.0178 |
CO2排出量(トン) | 22,218 | 21,907 | 22,960 | 23,984 | 23,333 |
■ 原料・資材の輸送、配送(トン) | 10,294 | 9,686 | 10,489 | 12,028 | 12,172 |
■ 事業から出る廃棄物の輸送(トン) | 219 | 175 | 164 | 186 | 245 |
■ 製品の輸送、配送(トン) | 11,705 | 12,046 | 12,307 | 11,770 | 10,916 |
※3 トンキロ:[貨物重量(トン)]×[輸送距離(キロ)]
JSRグループが掲げる「E2イニシアティブ®」は、私たちが製品を作り、事業を展開していく上で「環境面での価値創出」を常に意識するための重要かつ明確な考え方です。また、事業活動を行う中で、環境負荷・資源・気候変動などの問題の解決に取り組むための考え方でもあります。
「地球」という惑星で人間と多くの生き物が共存していくために、私たちは環境問題に真剣に取り組まなければなりません。JSRグループでは、環境への負荷低減と、製品における環境面での新たな事業機会創出を両立するという視点から、「E2イニシアティブ®」という考え方を導入しています。
「E2イニシアティブ®」とは環境を軸とした事業機会の創出を図る「Eco-innovation」と、CO2排出量削減を中心とした「Energy Management」、つまりは「攻め」と「守り」両面での価値創出を追求していこうとする考え方です。これは価値の軸をこれまでの「差別化」か「コスト」かの二元論から転換し、「環境性能」という軸と両立させることが不可欠になってきたことを反映しています。
製品開発時の設計段階から製品の使用段階までを含めた「LCA(ライフサイクルアセスメント)」評価で「環境負荷」を捉えることで、事業を通じて環境問題に取り組んでいます。
LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)とは、製品の原料調達から製造・販売・使用・廃棄に至るまでのライフサイクルにおける環境影響を定量的に評価する手法のことです。
LCAを実施するには、製品を製造する際の投入資源、排出環境負荷等各段階でどの程度CO2を排出するか(LCIデータ)を算出する必要があります。
代表的な合成ゴムのLCIデータ算出については、合成ゴム業界全体で取り組み、JSRも参加しました。
算出結果については、(社)産業環境管理協会LCAフォーラムのデータベースに登録しています。また、ファイン製品のLCIデータについては、生産工程のCO2発生量を把握しています。
LCAを研究開発段階から導入し、CO2排出量を考慮しながら製品設計を進めていくシステムの運用を開始し、約104製品群(代表グレード159種)のLCAを試算しました(2016年3月31日現在)。
今後も、新たに開発された製品群、グレードについてLCAの試算を進めていきます。
JSRグループは、エネルギーの有効活用や低炭素社会の実現のために需要が高まっている、リチウムイオン電池の電極のバインダー(接着剤)を提供しています。
リチウムイオン電池は電気自動車やハイブリッド自動車の中に入っており、通常の乾電池同様、プラスとマイナスの電極があります。
これらの電極は、銅箔やアルミ箔(集電体)に、活物質と呼ばれる炭素材料や金属酸化物粒子を接着したものです。JSRグループが提供するバインダーは、この接着に使用されています。
当社グループのバインダーは、樹脂が水に分散したタイプで、環境負荷が少ないことに加えて、活物質間の導通の妨げになっていた樹脂の接着面積を大幅に下げながら接着することが可能となり(点接着)、電気抵抗が低い電極を作れるという特徴があります。
水分散型は点接着により電気抵抗を低くできます
当社グループのもつ高分子の設計技術、水系分散技術、電池性能評価の技術が優れた性能を発揮する電極を可能にしました。
電気自動車だけでなく、パソコンや携帯、電気掃除機といった幅広い製品に当社の素材が使われています。
JSRグループが「JSR20i6」で戦略事業に位置づけているリチウムイオンキャパシタは、電気を瞬間的に溜めたり放出したりすることが得意で、自己放電が少なく長寿命という特長を持つ蓄電デバイスです。エネルギーの効率的な利用のためにグローバルに注目が高まっており、今後の大幅な市場拡大も見込まれています。
JMエナジー(株)は2008年末、世界で初めてとなるリチウムイオンキャパシタの量産工場を稼働させた、業界ナンバーワン企業です。JSRグループの持つ材料技術・精密加工技術を活かし、より高性能でさまざまな用途に使えるリチウムイオンキャパシタの提供を目指しています。
ラミネートセル
ラミネートセルモジュール
軽量薄型でコンパクトなラミネートタイプは、放熱性に優れ、設置しやすいため幅広い用途に用いられます。複数のセルを組み合わせたものがモジュールです。
角型セル
角型セルモジュール
堅牢性に優れた缶タイプ。一般的には円筒型が多い中、JMエナジー(株)は世界初の扁平角缶型を採用し、放熱効率や実装しやすさを向上させています。
環境に優しく、かつ確実に安全に止まる性能を維持する低燃費タイヤ。その原料として、JSRグループの溶液重合SBR(S-SBR)が高い評価を得ています。JSRグループでは、タイヤの止まるために必要なゴムの特性は変えずに、ゴムと補強材の分子が密に結びつきやすくする技術によって内部摩擦の発生を抑えて、転がり抵抗※4が低くなるようにS-SBRを設計しています。タイヤの原料から使用、廃棄までのライフサイクルの中で最も環境負荷の高い使用時の負荷低減に役立っています。
自動車のエンジンがモーターに代わってもタイヤは必要であり、環境基準の高い日本や欧州、また交通による環境負荷低減が喫緊の課題である新興国でも、S-SBRのニーズは高くなっています。日本では四日市工場、タイではJSR BST Elastomer社と、日本とタイにて生産中です。また、ハンガリーでの生産も予定しています。これらのグローバル展開も、2020年の市場展開を見据え、市場に近くかつ原材料を安定的に調達できる場所で、物流負荷を低減し、供給の安定を図るサプライチェーンマネジメントに基づいて展開しています。E2イニシアティブ®の考え方に立って、低燃費タイヤの世界的な需要に応えることで、グローバルな環境問題に応えていきます。
※4 転がり抵抗:タイヤが回転する時に進行方向と逆向きに生じる抵抗力。タイヤの変形、接地摩擦、空気抵抗が原因。
東京大学の次世代省エネ住宅(天井や床に使用)
「CALGRIP®」を天井に取り付けている様子
一般的な保冷剤と違い、−20度〜80度までの間で一定の温度を長時間保持させることができる材料で、医薬品や食料品の定温輸送や保管の分野に加え、建材や空調等に用いることで節電や温度管理に関わる分野での省エネ効果が期待されています。
エネマネハウス2014(東京ビッグサイト)において、東京大学と千葉大学の次世代省エネ住宅に利用されました。東京大学は天井と床に「CALGRIP®」を設置。昼間に日射熱を蓄熱し夜間に熱を放出することで、冬でも快適な室温を保持できました。今後は、冷暖房器具の使用軽減を通して省エネルギーへ貢献していきます。
四日市工場本館(壁面の黒い部分に「SIFCLEAR®」を使用)
鹿島工場のブタジエンタンク(右のタンクに「SIFCLEAR®」を使用)
「SIFCLEAR®」を使用した高耐久防汚塗料を塗装(画像提供:松竹株式会社 株式会社歌舞伎座)
高い防汚性を有するため塗料に使用することで汚れがつきにくく、「美観」を長期間にわたって保持することができます。かつ塗膜の耐久性が高いので、塗り直し頻度の削減という省資源に貢献しています。特に、遮熱塗料に使用すると長期間にわたり遮熱性能を保持できるため、省エネに効果を発揮します。さらにVOC※5や臭気を発しない環境配慮素材としても注目されています。
※5 VOC(Volatile Organic Compounds)揮発性有機化合物。
(上)バイオロイの着色ペレット
(下)バイオロイを使用したボトル
植物由来材料のポリ乳酸と、熱可塑性樹脂を複合化したバイオ樹脂「BIOLLOY®」。既存の一般的なバイオ樹脂に比べて5倍の耐衝撃性を持つのが特徴です。薄くて軽く地球にやさしい素材が求められている化粧品やシャンプーなどのボトルのほか、自動車内装、OA機器や家電等、さまざまな用途での活用が見込まれています。
ICチップ内のトランジスタや配線の微細化が限界に迫る中、ICチップを組み込みデバイスとして仕上げる半導体実装工程から、デバイスの高性能化を目指す動きが活発になっています。JSRと日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)、千住金属工業株式会社(以下、千住金属工業)の3社は、半導体の最先端高密度実装を革新する溶融はんだインジェクション法 (Injection Molded Solder; 以下IMS) を開発しました。
IMSは基板上に形成したマスクレジストの開口部に、専用の注入装置を用いて溶融はんだを直接注入する技術です。JSRが開発したマスクレジストは、はんだが十分に溶融する約250℃の高温に耐えることができ、基板上の任意の箇所に30ミクロンという微細はんだバンプ※8パターンが形成できるところまできています。
また、従来の電解めっき法で必要だった、大量のめっき液とそのメンテナンス、および大量の廃液処理が不要となる点、さらにはんだの使用効率が100%で無駄のでない点で、廃棄物が少なく環境にやさしいプロセスです。この方法は、さらに従来手法対比で大幅なプロセス簡略化と環境負荷低減も実現しており、今後の普及が期待されています。
インジェクション法によるはんだバンプ形成プロセス
完成したはんだバンプ(バンプの直径:50ミクロン)
※6 インジェクション:注入すること
※7 マスク(フォト)レジスト:光によって溶解性が変化する樹脂。ウエハ上に塗布し、露光、現像することでパターンを形成することができる。ウエハの表面を保護する役割を持つ。
※8 バンプ:半導体を基板に電気的に接続するためにハンダを突起状に加工した接続電極
自動車等に多く使われるプラスチック部品の噛み合わせ部等から発生するきしみ音に対し、画期的な効果を有する「HUSHLLOY®(ハッシュロイ)※9」。通常、きしみ音低減の対策として、プラスチック部品へのグリス塗布や不織布貼付等が行われますが、これらが不要になることで部品メーカーの工程短縮につながります。また、素材そのものがきしみ音を低減するため、長期間メンテナンスが不要です。
※9 「HUSHLLOY®」はテクノポリマー株式会社の登録商標