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SRI指標と銘柄への組み入れ

ステークホルダーとの対話 JSRグループが考える重要課題の検証 ②

重要課題はグローバルな視点で捉える必要がある

中山:
対話会の様子2重要課題の一つであるダイバーシティに関してお話しすると、ダイバーシティ推進室ができたきっかけは、女性の活躍促進という社会的要請を受け、女性の活躍の場や管理職を増やそうというプロジェクトを始めたことでした。そして、専門部署をつくってじっくり取り組もうという流れになりました。しかし、現状は、まだまだ「なぜ女性管理職を増やそうとしているのか」という意味が従業員に理解されていない側面が見受けられます。「男女平等だから」とか「意識の高い女性が権利を主張している」「世間でそう言われているから」といった見方をする人も少なくありません。ダイバーシティ推進には多様性の中から新たな価値を創造するという本来の意義があり、女性活躍は最も身近で取り組みやすいところなので最初に着手しましたが、そういう真意が伝わり切っていないのは、今後の課題であると自覚しています。
秋山氏:
消費材メーカーならば女性が直接のターゲットとなるので女性活躍もイメージしやすいと思いますが、JSRグループのような素材メーカーの場合は難しいかもしれませんね。ダイバーシティに関するマネジメントは、特に海外に出ていく場合は、日本のやり方のままではうまくいかないでしょう。事実、海外で苦労している企業が増えています。多様な価値観を受け入れて発想を切り替えて新しい価値を創り出していくという取り組みが求められており、このことは日本国内でも必要不可欠になっていると思います。
ダイバーシティは、中山の言うとおり、まず取り組みやすい女性活躍から行いました。私はヨーロッパの拠点にいたこともありますが、秋山さんがおっしゃるとおり、言語や文化、宗教の違いに苦労しました。日本人同志の場合は、自然とコミュニケーションがとれるという面がありますが、社員が海外に派遣された場合は積極的に異文化を理解し、同じ船に乗るという腹の括りが必要になります。現実にグループ約7,000人のうち外国人は約2,000人で、売上高は海外が55%を占めています。企業理念もCSRも日本だけでやっていてもダメですが、理念の浸透は海外では苦労すると思います。
中山:
年1回、企業理念について海外にもアンケート調査を行っていますが、国によって意識の差があります。一方、日本国内では「出世したくない若手男子」の出現など、世代間の意識の差が開きつつあります。いずれも一朝一夕の解決法はありません。苦労しつつ何年もかけて取り組んでいくしかないでしょう。またその取り組みを通じて、JSRブランドも確立していけると思います。
秋山氏:
海外においても、日本でと同じくJSRグループの企業理念は絶対に浸透させるべきだと思います。しかし、それをどう伝え、根付かせるかは工夫が必要ですね。私はその点では“グローバル”というより“グローカル”、つまりグローバルな視野で考え、ローカルな視点で行動することではないかと思います。企業理念の軸はぶらすことなく、しかし現地の文化や価値観を受け容れながら噛み砕いて伝えなければなりません。そして、現地の従業員に自分の仕事がどのように“Materials Innovation”に結びついているのかを一人ひとりに考えてもらう必要があります。
秋山さんのおっしゃる“グローカル”はまさにそのとおりだと思いますが、社内でも同じだと思っています。営業と開発と生産と管理の各部門では、同じ企業理念でも解釈が異なるからです。例えば私が所管する経理財務部門は、“Cash Innovation”と読み替えています。海外も全く同様に、肩肘張らず読み替えすればいいと思います。
本木氏:
海外を意識して「守りのCSR」についてみると、重要な項目は挙がっていると思います。海外では、大気汚染や水質汚染といった問題への関心が非常に高いので、JSRグループとして当たり前のようにしっかりやっていることも、積極的にアピールし続ける必要はあると思います。
人権についても、海外での関心は極めて高いです。自社や関連会社は問題なくても、サプライチェーンで問題が発生すればJSRグループに降りかかってきます。しかし、3次請け、4次請けとサプライチェーンは見えにくくなっていきますから、マネジメントは簡単ではありません。そのリスク管理にどう取り組むかは重要な問題ですね。
秋山氏:
日本国内と海外では社会的課題の解釈や取り組み方が異なるものが多くあります。その最たるものは人権です。日本では“ブラック企業”といった揶揄を交えたような捉えられ方が、海外では“強制労働”と真剣に受け取られる、といったようにです。また、腐敗防止や独占禁止法といった法律上の基準で違いがあることもあります。
野田氏:
日本では、人権というと“パワハラ”“セクハラ”と狭く捉えられがちですが、グローバルではまさに人間の基本的な権利として受け止められています。企業にとっては、自社の従業員だけでなく、本木さんのおっしゃるとおりサプライヤーの労働者や、地域住民の権利なども含まれます。例えば、事業活動と関連した水質汚染によって地域住民が使用できる水が不足するといった事態も人権侵害とみなされ得る。ですから、バリューチェーン全体の視点をもって対応することが不可欠です。JSRグループの重要課題における人権については、図Aでは低く配置されていますが、人権はもっと右上に位置づけられるかと思います。また、人権侵害と差別の防止を一項目として括ってありますが、差別の防止が主に職場における人権を指しているのであれば、グローバルな文脈での人権侵害について扱うという意味で、「人権侵害の防止」は別出しした方が取り組みやすいかもしれません。
川橋:
人権問題については、ちょっとずれるかもしれませんが、個人的に実感しているのはサプライヤーへの対応です。お客さまの納期要請は厳しいものがありますが、その納期を守るためにはサプライヤーの協力が不可欠です。ですから、サプライヤーにも同様の厳しい要請をせざるをえませんが、厳しい口調で話した際に国によって受け止め方の差が大きい場合があります。そういう意味では、グローカルの配慮は必要になりますね。
グローバルのリスク管理に関しては、JSRグループはかなりしっかり対応できる仕組みを回していると思います。法務部門やリスク管理委員会、企業倫理委員会といった組織が定期的に海外も含め問題を拾っていますし、2年に1回、海外の全拠点の業務監査を行っています。それでもホットラインでの通報が数件あり、ゼロではありませんが、かなり担保はできているのではないでしょうか。

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