ホームCSRCSRレポート2015ステークホルダーとの対話 ①

CSRレポート

SRI指標と銘柄への組み入れ

ステークホルダーとの対話 ①

「Materials Innovation」の実現に向けた二つのCSRとその感度を高める「E2イニシアティブ®」

日本でCSRという言葉が使われ始めたのは2003年ごろ。当初は「法令遵守(コンプライアンス)」がCSRの中心として捉えられていました。それから10年以上が経過し、今、多くの企業はCSRと事業との関連や世界の動きの中でCSRをどう捉えるかを模索しています。ステークホルダーのうち「社会」の視点から国内外のCSRに造詣の深い秋山をね氏と、JSRグループでCSRを担当するJSR上席執行役員 清水喬雄が、JSRグループの目指すCSRについて対話を行いました。

「攻め」と「守り」のCSR

秋山:
JSRグループは、前回の中期経営計画「JSR20i3」を策定された際に、CSRを経営として明確に捉えていらっしゃいます。今回の新しい中期経営計画「JSR20i6」でも、その考えを引き継いでいると思われますが、経営の中にCSRを位置付けた経緯はどういったことですか?
清水:
前回の中期経営計画「JSR20i3」を策定した際に、「Materials Innovation」というJSRグループの企業理念を実践していくための企業理念体系を見直しました。その体系化の過程で、ステークホルダーとの関係性も踏まえ、事業を通じた社会への貢献と、事業を進めるプロセス上で不可欠である様々な基盤的要素を意識して整理しました。企業理念体系には、企業理念、経営方針、行動指針を示していますが、例えば経営方針の中にステークホルダーへの責任を明記するなど、JSRグループとして考えるCSRの姿を盛り込んでいます。
秋山:
CSRが企業理念体系の中に明記されているというのは素晴らしいですね。実際にはどうやって実践していくのかが重要になってきます。
清水:
清水 喬雄JSRグループでは、CSRを三つの軸で捉えています。一つ目は、事業自体を進めることでCSRを推し進めていく、いわゆる「攻めのCSR」があります。化学メーカーが社会のあらゆる面にソリューションを提供しており、その役割は極めて大きいと考えていますが、まず事業を通じて社会課題の解決に貢献していきます。
二つ目は、事業を進める上で不可欠な基盤的要素(コンプライアンスや環境配慮)の面からCSRに取り組む「守りのCSR」です。例えば、化学メーカーは製造の段階で多くのエネルギーや資源を使うため、省エネや省資源などを通じて環境負荷を減少させる責務には大きなものがあります。これにきちんと対応することが、社会というステークホルダーに対する責任でしょう。
三つ目は、JSRグループ独自の取り組みです。環境エネルギー分野を意識し、「攻めのCSR」「守りのCSR」の両方に横軸として機能する「E2イニシアティブ®」を実践しています。「E2イニシアティブ®」は「Eco-innovation」と「Energy Management」の二つの頭文字「E」をとっていますが、それぞれ単独ではなく、両方の「E」の間でのフィードバックループを回すことが大切だと考えています。
秋山 をね氏 清水 喬雄
秋山:
あらゆる製品に素材、Materialsは欠かせないものです。素材の提供で社会に貢献するというインパクトは大きいですね。
清水:
たとえば、ヨーロッパなどでは低燃費タイヤのラベリング制度が導入されていますが、JSRグループの溶液重合SBR(S-SBR)という合成ゴムはそうした低燃費タイヤに使われています。また、ファイン事業においては、液晶ディスプレイ用材料を提供していますが、これはTVなどの電力消費を減らし、日本だけでなく世界のエネルギー消費を減らすことに貢献してきたと思います。これからはますます省エネルギーが重要になりますので、我々が貢献できる分野もさらに大きくなるだろうと考えています。
秋山:
CO2排出量を減らす、環境負荷を減らすという社会の課題に対応して、素材という技術で大きなインパクトを与えられるのですね。でも御社の製品について、一般の消費者はあまり知らないかもしれませんので、そういった面を伝えていくことが重要ですね。
清水:
消費者に見えるB to C(企業から消費者へ)取引とは異なり、B to B(企業間)取引では、最終製品にJSRグループの製品が使われているというマークもありませんし、消費者にJSRグループの貢献がわかりづらい部分はあります。今後はそうした見えにくい貢献をうまくPRしていきたいと思います。
秋山:
その「消費者に見えにくい貢献」ですが、製造工程ではどのような取り組みをされていますか?
清水:
どんなに良い製品を作っても、その製造過程で環境破壊をしたり大量にエネルギーを使ったりしているのでは意味がありませんので、社会や環境への負荷を小さくして製品を作るにはどうするかということには注意を払っています。一つはエネルギー消費です。CO2排出量については、1990年比でどれくらい減らすかという目標を決めそれをクリアしています。その他、水なども含めたマテリアルバランス(投入資源と環境負荷の関係)という面から環境負荷の削減に取り組んでいます。また、先ほどお話した「E2イニシアティブ®」では、自ら開発した製品を外に売るだけでなく自社工場でも使っています。蓄熱材や遮熱材、蓄電デバイスであるリチウムイオンキャパシタなどですが、自社で使って自社工場の「Energy Management」もしながら実証実験をして、そのデータを製品にフィードバックして、さらに良い製品にして市場に出す「Eco-innovation」につなげるというループです。
秋山:
自らが実際に使ってデータを取る、まさしく見える形で実験を行うというのは、すごく説得力がありますね。加えて、化学メーカーは、素材の原料調達から顧客への供給、さらに消費者が使用する見えるものになった最終製品までの非常に長いサプライチェーンの中で事業を行っていると認識していますが、それをどう管理するかということも重要ですね。
清水:
サプライチェーンマネジメントは「守りのCSR」の中でも重要な課題として捉えています。調達から製造、出荷、さらにその先の使用段階までを考えると、CSRの検討に際しては、JSRグループだけではなく、長いサプライチェーン全体を考える必要があります。2010年度には「CSR調達」の考え方を明確にし、サプライヤーの皆様も含めたCSR対応を進めています。サプライヤーの皆様のCSRへの取り組み状況についてはアンケート調査を行っていますが、100社を超えるすべてのサプライヤーの皆様においてCSR調達に対応していただいています。もちろん、我々自身も納入先企業から見るとそのサプライチェーンの中にいるということでもありますので、我々自身もその長いサプライチェーンを支えていることを意識してCSRに取り組んでおります。

新たな課題への対応

秋山:
これまでとはまったく違う新しい課題も生まれています。人権や海外の労働問題などもそうですが、こういうものに常にアンテナを張って取り組んでいかなければなりませんね。
清水:
JSRグループが参加している国連のグローバル・コンパクトの中に人権問題は明記されていますが、JSRグループでも企業倫理要綱の中に明記するなど、常に意識をしてきました。現在、JSRグループの売り上げの50%以上が海外市場で、さらにその半分を海外で製造しています。グローバル市場での様々な視点・関心が常に変化していることを考えれば、今後、経営陣はもちろんのこと、現場でも世の中のニーズや社会課題への感度をさらに高めて事業に取り組むことが、CSRの観点からも重要だと考えています。
秋山:
企業理念を従業員に浸透させることも重要だと思いますが、従業員への啓発はどのようにされていますか?
清水:
前回の中期経営計画「JSR20i3」の開始後、企業理念浸透活動を展開しています。役員との対話会や部門内でのセッション、「CSRレポートを読む会」など様々な形で進めながら、企業理念体系がどの程度浸透しているかをアンケート調査により定点観測しています。言葉として理解していても、その先、自分の仕事にどう関わっているのか等の理解をさらに深めて一人ひとりに定着するまで、今後もいろいろな段階での取り組みが必要です。単なる企業理念の理解だけではなく、それぞれの部署が、企業理念の実行に向けてその役割を果たしていくことが重要ですが、たとえば営業部門が、担当製品市場の隣にあるまだ顕在化していない市場ニーズや課題に気づき、開発部門や企画部門に迅速にフィードバックするような理念実現のためのコラボレーションがこれまで以上に円滑に回るようになっていけば素晴らしいと期待しています。

これからのCSR

秋山:
JSRグループで働くすべての人が「Materials Innovation」に関わるということですね。自分の仕事と企業理念の関わりに気づくことは大切なことだと思います。
清水:
先に述べた「E2イニシアティブ®」はそうした感度を上げていく上で有効だと考えています。省エネのような内部に向けた守りの「Energy Management」も攻めの「Eco-innovation」の製品に活かすことができれば、企業理念との関係はより明確になるかと思います。製品レベルでは「環境配慮型製品」という整理もしていますが、「E2イニシアティブ®」のような考え方がJSRグループの一つのブランドとして確立されるようにアピールすることも大事だろうと考えています。
秋山:
「E2イニシアティブ®」というネーミングが良いと思います。こういったことを外に対してもアピールしていくというのは重要です。新しい課題に対する取り組みはいかがでしょうか?
清水:
グローバル対応など様々な課題がある中で、例えばダイバーシティは経営の重要課題かと考えます。中でも女性の活躍推進には注目していますが、これはJSRグループだけの問題ではなく、女性という人財を十分に活用しないと社会全体の成長はないという社会課題です。化学会社はそもそも女性従業員が少ないという現状はありますが、成長していくためには女性を含めた多様性、多様な価値観への理解とそれを経営に活かすしくみが不可欠です。今年6月には「ダイバーシティ推進室」を新設して、この課題への取り組みを強化したところです。
秋山:
まだまだ多くの課題があると思いますが、多方面に真摯に取り組んでいる姿がうかがえます。今後、JSRグループが目指すCSRの方向性はどのようなものでしょうか?
清水:
社会的に大きな変化がない限り、現在の三つの軸を変えずに推進していきます。その上で、今後さらに増えていくグローバル市場での課題への取り組み、多様性配慮、多様なステークホルダーへの責任は言うまでもありませんが、さらに、外に対しても内に対しても、JSRグループの活動に対する理解を深めていただけるような情報発信をどうやっていくかを意識して、持続的にCSRを推進していきたいと考えています。
秋山:
企業理念はすっきりと体系化されていますので、今後はいかにJSRグループの理念に「共感」してもらうかということが大切ですね。
清水:
その通りだと思います。それを進めることが私にとっての「Materials Innovation」でもあります。

(株)インテグレックス代表取締役社長
秋山 をね氏

1983年慶応義塾大学卒業後、外資系証券会社で主にトレーダーとして勤務。1998年青山学院大学大学院修了。米国公認会計士試験合格。再び証券会社に勤務後、2001年(株)インテグレックスを設立し、社会的責任投資の普及に努める。主な著書に『社会責任投資とは何か』などがある。