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ESG指数、SRI指標と銘柄への組み⼊れ

ステークホルダーとの対話 JSRのサステナビリティに向けて〜未来の働き方を考える〜 ②

デジタル社会が進む未来の働き方

将来における、AIと人の役割を考える

2025年や30年にどういう働き方になっているかは、正直、誰にもわからないですよね。でも、わからないこと、答えがなさそうなところをあえて考えることこそ、これから人間に必要とされる能力の一つだと思います。逆に言えば、答えがすっと導き出されるような、パターン化されている仕事は、AIが優れていると思います。
末政:
私の部署の仕事は研究開発で、新しい発明をするところなので、AIでは置き換えできないだろうと思っています。将来私たちに求められるのは、そういったクリエイティブな仕事をいかに効率化していくか――例えば、データや知識を集約していくこと、人と人とのつながりを増やすことが重要になるのではないかと考えています。
湯淺:
私もそう思います。今ある事業の研究開発についてはどんどんAIで効率化できるでしょう。でも、新しい事業をやる際には元になるデータがないので、AIは使い物にならない。まさに、答えがなそうなところを人間が考えていかなければならないだろうと思います。
澤田:
AIの活用を進めるためには今現在、データを集める仕事が大変多いのですが、そこは今後、IT化が進み、なくなっていくだろうと思います。ルーティン作業はなくなる一方で、データはどんどん膨大になっていくので、それを整理し判別していくスキル、さらに、そのデータをどう活用していくのかといった創造性が、人間に必要になっていくのではないでしょうか。
AIはそもそも人間が与えたプログラムとデータで動いているわけですが、神経科学の分野では、脳の仕組みをちゃんと生物学的に捉えた上で、対人サービスにおいて脳がどういう反応をし得るのかという推論に基づいたAIの生成がすでに始まっています。おそらく、データポイントの設計に、新たなイノベーションがあるでしょう。また、AIがいろいろな情報を無作為に抽出していく仕組みも、おそらく人はあまり得意ではない分野なので、イノベーションの種を生んでくれる気がします。そんなAIが生み出した種を人がどう扱っていくのか、そこにまた新たな創造性が求められるようになると感じています。

AIと共存していく中で、人に求められるもの

野村:
ステークホルダーとの対話日経電子版の決算発表記事をAIが書くなど、ほんの数年前は考えられなかった〝まさかの分野〟でもAIの活用が始まっています。数年前にオックスフォード大学の研究で、日本の仕事の49%が人工知能やロボットに置き換えられるという結果が出て話題になりましたね。その数値をそのまま鵜呑みにする必要はないと思うのですが、その中で、「AIで置き換えられない、人間にしかできない仕事は、〝創造性〟と〝協働性〟が求められるもの」と述べられていました。〝協働性〟は、ソーシャル・インテリジェンス=社会的知性という言葉に置き換えられます。今後私たちは、そのような能力を磨いていく必要があると思います。
この先、不確かな世界を受容していくために、一つポイントとなってくると言われているのが、〝アダプタビリディ(適応能力)〟、ですね。もともと人間の脳は、危険から身を守るため、見たことがないものに対してネガティブな情動反応を起こすようにできています。だから、新しいことはどうしても受け入れづらい。反対に慣れ親しんだことは情報処理能力的にも効率がいい。それは、同じやり方で何度も同じ神経回路を使うと、そこの神経細胞が成長し、ちょっとした電気信号だけで情報が伝わるようになるからです。だから人は、慣れ親しんだものを選びがちになるわけです。また、環境変化に対する男女の捉え方も違いますよね。まず、こうした人間の性質、多様性を認識した上で、ものごとを考えていく必要があると思います。
猪俣:
確かにそうですね。今後私たちには、ますますコミュニケーション能力が必要になってくると思うのですが、そのツールとして、まずメールが登場し、次にLINEが出てきました。最初はLINEなんてと思っていましたが、使い始めると意外に便利だったりします。おそらくまた、新しい別のツールが出てくるわけで、そうした新しいツールに適応していく能力が必要だと感じます。
今後、AIに任せられることをどんどん任せることで、人はより人らしくなっていくのではないでしょうか。つまり、感動とか一体感とか、感情によって動く。脳の面から見ても、理論と感情のシステムは、それぞれ全然違うところが作動しているのですが、感情の要因がどれほど人の意思決定に大きく影響しているか、だいぶわかってきています。今は、仕事の場で「感情的になるな!」と言われることが多いですが、逆に、感情こそ大事にされるようになってくる可能性もあると考えています。
山口:
確かに、人間は「悔しい!」という気持ちが大きな原動力になるなど、感情で動くことは少なくないですよね。
人間の、脳の働きの中で、パターン化されづらい情報、非言語的な情報を処理するような活動性には、大きな価値が残っていると思われます。例えば、人が感じる〝違和感〟みたいなものですね。言葉にはできないが、何かおかしい。これは、脳の前帯状皮質という部分が担っているのですが、そうした感覚を催せるというのは、とても重要な能力だと思うのです。今までは、「何かおかしいんですよ」と上司に言ったら、すぐに「理由を説明しろ」と言われる時代でしたが、理由がないからこそ、重要視される時代になってくる気がします。
澤田:
確かに、製造の現場では、設備がだんだん劣化してきたりして、予期しない不具合が発生することがあるのですが、それを現場の方々は事前に違和感として察知することがあります。
末政:
研究でも、失敗の理由がわからないとき、それをAIに解析させてみても、人間が与えたデータで判断しているのでやはり結果は同じです。そこでどうするかというと、やはり人間が違和感や気付きを手がかりに、次の手を考えていくわけです。
違和感だけでなく、「何か面白そう」「何か上手くいきそう」という感覚を察知できれば、それがイノベーションにつながることがあるわけです。スティーブ・ジョブズや稲盛和夫さんなどは、そうした感覚をつかみとる天才だったのではないでしょうか。
神谷:
アカデミックの研究者でも、研究の基にはセレンディピティみたいなものがあったりすると言われていますし、研究者、開発者として必要になってくるのは、やはり答えがなさそうなところを考える、先見性なのだと思います。技術者としてそこをいかに磨いていくかが、今後ますます大事になっていくのではないでしょうか。

※ セレンディピティ:偶然の出来事から新しい発見をすること、その能力

人は、失敗するからこそ、前へ進んでいける

失敗もすごく大事ですよね。ミスが起きるからこそ、そこから何か新たな発見ができる。それも、人間の持つ価値の一つでしょう。失敗をネガティブに捉えたままだと、何も学習せず、嫌な気持ちしか残りません。だから、私の会社では、毎週、失敗したことをいかに笑いに変えるか、という発表を行い学びの場としています。
湯淺:
実際、成果として認められるまでに世の中に出てくるデータの9割以上が失敗であり、失敗があるから、改善が生まれ、最終的に良いものが完成する。今まで私が経験した中でも、失敗したからこそ、たまたまそちらの方が良かった、ということも実際にありました。ですから、これから人間がやるべきことは、失敗することや、自由気ままにやることになってくるかもしれません。
そのためには、失敗の捉え方を変えていく教育、特に小さい頃からの教育が重要だと思います。私の大好きな言葉に、「失敗のまま止めるから失敗。成功するまでやれば、それは成功になる」というのがあります。さらにこの言葉は、「その失敗が自分にとっていい教訓だったなと思える人が、後日成長する人だ」と続くのですが、科学的に見ても、これは、感情の書き換えの原理に則しています。失敗したら、それをいかにポジティブに捉え直すかが重要です。
野村:
企業側には、失敗を受け入れる風土が必要ですね。キャリア形成上も失敗から学ぶ能力はとても重要です。
山口:
失敗の重要性についてですが、あるテーマで大体試作品を1万個作成しますが、その中で採用になるのは20個ぐらいです。ということは、9980回の失敗は許されているわけです。最近になって世の中で「Fail Fast(早めに失敗しておけ)」と言われるようになってきましたが、JSRには昔からそういうカルチャーがありました。ましてプロジェクトや事業となれば何が起こるかわかりません。我々経営陣は、従業員の皆さんにそのことを伝えていかなければなりませんね。
ステークホルダーとの対話

対話 ③ 「現在の人材マネジメント課題」へ