

- JSRグループでは2010年度から、女性の活用を中心とする「ダイバーシティ推進」を重要経営課題として位置づけました。さらに取り組みに力を入れていく予定です。
今後、日本の労働力人口は確実に減少していきます。その中で企業として持続的に発展していくためには優秀な人材の確保が不可欠ですが、それには従来の男性中心の枠組みの中では難しいのではないか、という認識がまず背景にあります。また、グローバル化の進展による価値観の多様化への対応という意味もあります。企業として、いろいろな価値観をきちんと受け入れる風土をつくっていかなくては、グローバルな競争にも勝てないのではないか、ということです。 - なるほど。ダイバーシティの必要性は、しばしばCSRにおける倫理的な側面からのみとらえられがちです。そうではなく、人材戦略・経営戦略としての側面も含めた「両輪」で見ていらっしゃるというのは、非常に素晴らしいと思いますね。
- ありがとうございます。もちろん、本来「ダイバーシティ」は女性だけではなく、外国人や障がい者なども含めた幅広い多様性を指しますが、全てを一度に進めてもなかなか実のあることはできないのではないかと。そこで、まずは従来の路線を継続・強化する形で、女性の活躍の場をさらに広げることからスタートしようということになったわけです。
- 御社にとっても、最終消費者の半数は女性ですし、その視点を取り入れていくことは非常に重要ですね。
御社の女性活用についてデータを見せていただきましたが、女性社員の平均勤続年数が12年と、非常に長いのが素晴らしいですね。 - 女性の働きやすい環境整備については、随分早い時期から力を入れてきたつもりです。短時間勤務や在宅勤務制をはじめ、ベビーシッター補助など。2008年には、いったん退職した方で復職を希望する方向けの「キャリア再開制度」も開始しました。
- 良い制度ですね。そうやって、個人の生き方や働き方の選択肢が増えるのはとても重要なことだと思います。

- 一方で、管理職の女性比率は2%と、増えてきてはいるもののまだまだ少ない。これは課題の一つですね。
- 一つには、管理職のなり手である総合職の女性自体がそもそも少なかったという事情があります。一般職から総合職への転換制度もあるのですが、転勤があることなどを理由に転換をためらう社員が多い。また、「一般職」ということで自分に枠をはめてしまうケースもあるようです。2007年にはより転換を促進する制度に改定しましたが、将来的には最初から一般職と総合職の壁を取り払うことができれば良いと思います。もちろん変化には時間がかかると思いますが、2015年までには管理職の5%以上を女性にすることを目指す目標を掲げました。
- そうした目標を示していただくと、「経営層も本気なんだな」ということが感じられますね。もちろん全ての女性が管理職になる必要はありませんが、それぞれが働きがいを感じ、自分自身の生き方を見出せる会社であることが重要だと思います。そして、女性を登用しようとする時に大切な観点が、現有の能力で見るのか、これからの伸び代を見るのか、という判断基準だと思うのです。いままで日本では多くの女性が残念ながら日本の風土から「経験」をさせてもらうことが少なかった。仕事上重要な能力は、ほとんどが経験から育つものです。意欲と意志がある人に経験の機会を思い切って与えるのは一つのやり方だと思います。その観点から総合職転換制度を改定されて女性のチャンスを拡大されたのは理にかなっていると思います。
- 各部署で活躍する女性が出てきて、しかも彼女たちの存在が会社の業績にもつながっていく。それが、ダイバーシティ推進を成功させるための最大の鍵なのではないでしょうか。
また、もう一つの大きな課題は、こうした方針やそのための制度についての社内への浸透です。社内報やイントラネット、研修などを通じて事あるごとに発信してはいるのですが、まだまだ十分とはいえない。もちろん「特効薬」はないし、地道な手段を積み重ねるしかないのだろうとは思っているのですが。 - おっしゃる通り、いろいろな形で「散りばめていく」ことが重要ですね。発信されたものを見る、聞くだけでなく、最終的にはご自身が「口にする」というところまで持っていかれると良いと思います。

- また、ワークライフマネジメントの問題にも、同時並行で取り組まなくてはならないと考えています。
これまでは、どうしても長時間労働したことをプラスに評価するような価値観が社内のどこかにありました。そうした風土そのものを変えて、長時間労働よりも、時間内できちんと成果を出すことの方をより評価しますよ、というふうにしていかなくてはならない。そうでなくては、いくらダイバーシティだの女性の活用だのと言っても綺麗ごとになってしまうと思うのです。 - その通りですね。
- そして、そのためには直属の上司が、きちんとその人の能力に合った仕事を割り当てられるかどうかが問われてくると思います。これまで、女性には定型的なルーティンワークだけを与え続けてきた上司もいたと思うのですが、そうではなくて量的にも質的にもちゃんと一人ひとりに合った仕事を割り当てていけるかどうか。ダイバーシティ推進の取り組みの中では、実はそこが一番難しいところなのでは ないでしょうか。
- おっしゃる通りです。例えば非常にチャレンジングな仕事とルーティンワークを組み合わせて割り当てるといったことを考えていかないと、仕事としても面白いと感じられないし、人材の育成という意味でも、その個人の能力を伸ばしていけないと思うのです。ダイバーシティにおいては、そうした「個」に対応したマネジメントが非常に重要です。
- そうした観点から、今後は女性社員とその上司の2人1組で行う「ペアセミナー」を導入していき、改善を図っていく予定です。
- それは楽しみです。風土が大きく変わるきっかけになるかもしれませんね。
今後も、女性の力をさらに引き出し、多様性のある良い会社へと発展していかれるよう、期待しています。

1981年(株)パイオニアインターナショナル入社。パイオニア本社人事部を経て、1989年「組織の発展と個人の成長」を理念に、子会社の人事・人材総合サービス会社(株)キャリアネットワークを設立し出向。常務、社長を経て、2002年同社の独立後、現職。専門は、組織における人材育成・組織能力向上。内閣府男女共同参画会議専門委員をはじめ、日本生産性本部ワークライフバランス推進協議会委員などを務める。高校生、中学生の息子を持つ母でもある。

