

2008年度に続き、先行き不透明で不安定な経済状況が続いた2009年度は、JSRグループにとっても、年間売上高がリーマン・ショック前の2007年度に比べて2割以上減少するなど、非常に厳しい時期となりました。
しかし、その中でも一定の収益を生み出せる体制づくりを念頭に、固定費のスリム化などに注力してきたことが結果的には企業としての体質強化につながったと考えています。事業ごとの差はあるものの、全体としての事業成績は想定よりも早い回復傾向にあり、2009年度の連結業績も当初の計画を上回りました。
こうした状況の変化を受け、2010年度以降は将来の成長に向けたより積極的な事業経営へとシフトしていく必要があると感じています。1年前の社長就任時に掲げた主要課題の一つでもある「戦略事業の確実な立ち上げ」を2010年度の最重要課題に設定し、これまでの取り組みをさらに強化・加速化して、実績につなげていく方針です。

2010年度は、2007年度から実行してきた中期経営計画「JUMP2010」の最終年度でもあります。これを受け、次期中期経営計画の策定にも着手しました。2030年に視点を置いた環境認識のもとで、2020年時点での企業としての「ありたい姿」をイメージするという、長期的ビジョンを持って進めています。
これまでの2000年代は、JSRグループの経営理念にもある「豊かさ」をキーワードに、「付加価値」が強く求められた時代でした。当社グループもまた、ファイン事業の多角化を通じて「付加価値」を実現することで成長してきたのであり、その努力は今後も継続していかなくてはなりません。
一方で、2010年代のキーワードの一つは「多様性」だと感じています。世界のグローバル化と多様化が進む中、人々の価値観にも変化が見られます。これまでは高機能で高付加価値なものが評価されてきましたが、これからは「リーズナブルな価格で質の良い製品」への志向も並行して強まっていくことが予測されます。
JSRは、そうした志向に応えられる石油化学分野で培った技術と資産があります。それを活用し、市場構造の変化にいち早く反応できる「感度の高さ」を持って、パラダイムシフトに対応していく必要があると考えています。

この次期計画策定に先駆け、2030年を見据えた活動として、2009年4月から二つのプロジェクトをスタートさせました。
一つは「情報電子プロジェクト」です。将来の成長領域として期待される情報電子産業に関して、産業構造の変化を予測し、新事業領域を把握しようとするものです。
そしてもう一つが、「E2プロジェクト」です。「EnergyManagement(CO2排出量削減など)」と「Eco-innovation(事業機会取り込み)」という、いわば環境への取り組みの「守り」と「攻め」となる言葉の頭文字を取った名称で、今後の環境問題のマクロ状況分析などを続けてきました。
さらに、そこから発展して生まれたのが、環境経営への本格的な取り組みを目指す「E2イニシアティブTM」です。「環境」という側面を、時代が変わっても変わらない経営の軸の一つに据え、全ての事業活動に「環境」という視点を組み込んでいく行動様式である「E2イニシアティブTM」は、次期中期経営計画の柱の一つとなる考え方でもあります。
2010年度は、2011年度からの本格的な環境経営への「準備期間」として、CO2削減に向けた対策はもちろん、環境コストの視点を組み込んだ投資判断、LCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方を取り入れた製品開発など、さまざまな取り組みを具体化させていく所存です。また、「生物多様性」についても検討に着手します。

こうした取り組みを含め、「良き企業市民として誠実に行動し、社会からの信頼に応えていく」ことが、JSRグループのCSRです。社長就任時に署名した「グローバル・コンパクト」も、グローバル企業として誠実に行動することを、国際社会に向けて宣言したものだと認識しています。
ただ、「何をすべきか」について、全ての企業に共通する「あるべき姿」はないと考えています。それぞれの事業形態や時代状況などによっても、求められるものは変わってくるでしょう。そうした視点から、当社グループの活動としては、企業倫理、レスポンシブル・ケア、リスク管理、社会貢献を4つの柱として進めています。社会貢献活動は、現在は地域の学校への「出前授業」などの次世代を担う子供たちの育成、そして環境分野が中心ですが、社員の視野を広げるという意味でもさらに積極的に取り組んでいく方針です。
また、今後の大きな課題として認識しているのが、海外拠点へのCSR理念の浸透です。国内拠点の社員に対してそうしてきたように、借り物ではなく自分自身の言葉で、明確にその考え方を示していきたいと考えています。

重要経営課題の一つとして、ダイバーシティの推進にも今後一層力を入れていきたいと思います。
2010年代の「多様化」に対応していくには、人材の多様化が不可欠です。そのためには、まずは女性のさらなる活躍が重要であることは言うまでもありません。育児や介護との両立支援制度のスムーズな運用を図るとともに、女性社員の採用比率や管理職比率向上についても、数値目標を設けて取り組む予定です。そのために、仕事を含めた人生のあり方をマネジメントする「ワークライフマネジメント」の考え方を、さらに推進したいとも考えています。
しかし、ダイバーシティとは、それだけにとどまる考え方ではありません。性別だけではなく、国籍や出身地、入社前の経歴や仕事に対する考え方など、あらゆる「違い」を「受け入れる風土」を醸成することこそが重要です。その実現のために、折に触れ社員に向けた明確なメッセージを発信していくことも、私の重要な役割だと認識しています。
こうした考え方のもと、当社グループが進める活動の一端をご紹介したのが、本CSRレポートです。ぜひお読みいただき、忌憚のないご意見をお寄せください。