
世界はより不安定になっていくのか。これが、最近、もっとも気になることである。例えば、ギリシャ金融危機を巡って、ドイツと他のEU諸国との考え方の違いが、際立ちつつあるようにも思える。ユーロへの通貨統合はそのうち解消されてしまうのだろうか。
環境関連でも、10年以上前の温室効果ガス削減に関する京都議定書の成立が、今となっては、奇跡のようにも思えてくる。中国、米国が関与しない温暖化防止の枠組みなど、なんの意味も無いが、世界共通の枠組みは、夢の彼方のように思える。
このような状況を招いている理由は、各個人、各国などが、それぞれ個の権利を主張するが、その権利と表裏一体である公への責任、例えば、全人類、地球環境、未来社会などへの責任を的確に認識する余裕がなくなっているからのように思える。
小柴社長は、本レポートで「多様性の時代」に向けた対応の必要性を強調している。恐らく、同様の危機感をこのややソフトな言葉で表現されたものと推測している。恐らく、権利を主張すると同時に、責任も果たすことが期待できるように思える。
ワールドカップで、岡田ジャパンは、当初の予想を遥かに超えた活躍で、日本だけでなく、世界から喝采を浴びた。その成功の鍵は、日本人の特性により適した戦略に切り替えたことであるように思える。「結束を強くして耐えて守る。そして機を伺う」という戦術は、日本人がもっとも得意とする。これは、同時に、少数のスター選手の個の閃きに多くを依存しない戦術でもある。
日本産業の強みにも、似たようなところがある。余り目立たないが、実は、開発が極めて難しく、従って、真似をするのも難しい高品位な素材によって、チームワークで勝負する。これが本来の日本産業の戦術であると思う。JSRグループの企業理念であるMaterials Innovationは、その方向性を意図すると同時に、その実現への自信を明確に表現している。
「多様性」という言葉は、2010年のキーワードでもある。名古屋で開催される生物多様性条約の締約国会議COP10は、恐らく日本社会に国際交渉の難しさを再認識させることだろう。
生物多様性の保全は、きれい事では済まない。しかも、未だに完全な定義がない。希少種の保護だけが重要な訳ではなく、外来種をどうするかだけが問題でもない。人類が経済的な発展を実現するために、これまで当然のごとく行って来た自然改変をどのように理解するか、という根源的な問題を包含している。
面積で見れば、農業・牧畜業・林業が最大の自然改変である。改変の強度で言えば、露天掘りなどの金属資源採掘が大きいかもしれない。メキシコ湾での原油流出事故を見ると、エネルギー資源の獲得にも大きな責任がある。
2010年の目標として、生物多様性への取り組みを開始することが述べられているが、どのような認識に基づいて、どのような対応が採られるか、他の取り組みが素晴らしいだけに、注視したいと思う。
