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ハイライト

特集1 未来へつながるものづくり

JSRグループは、「素材」によって新しい価値を創り出しています。化学のチカラで社会に貢献していくことを目指し、未来に向けた研究開発を行っています。

JSRのものづくりの考え方

世の中で必要とされる新しい産業や製品を、「素材」という面から支える。それが、JSRのものづくりの役割です。「お客様から求められる機能を備えた素材を、求められるタイミングで提供する」。これを常に果たすべき使命と考え、さまざまな研究開発に取り組んできました。

こうした姿勢から生まれた製品の一つが、主に省燃費タイヤに用いられる合成ゴム「溶液重合スチレン・ブタジエンゴム(S-SBR)」です。

省燃費タイヤ用ゴムの開発へ

機能高分子研究所 但木稔弘

木の樹液からつくられる天然ゴムと異なり、石油由来の合成ゴムは、製造法などの工夫によってさまざまな性能に変化させることができます。その性質を活かし、当社が省エネタイヤ用のゴム開発に取りかかったのは、第二次オイルショック直後の1980年代初頭のことでした。

当時、自動車業界では石油の高騰により「低燃費」を求める声が急速に拡大していました。タイヤもまた、自動車の燃費を左右する大きな要素の一つ。「ゴムの性質を工夫することによって、燃費を向上させることはできないか」とタイヤメーカーから相談を受けた当社は、いち早くその開発に取りかかったのです。

安全性と省燃費の両立に挑む

「難しかったのは、いかに安全性を保ちつつ、燃費を向上させるかということでした」。当初の苦労を説明するのは、機能高分子研究所次長で石化製品の研究に携わる但木稔弘です。

「少ないエネルギーで自動車を走らせるには、タイヤと路面との摩擦などによって生じる『転がり抵抗』を、減少させる必要があります。しかし、摩擦を減らすだけでは、自動車が曲がったり停止したりするときにタイヤが路面をとらえる力となる『グリップ力』が弱くなり、安全性に問題が生じます。省エネタイヤには、低い転がり抵抗と高いグリップ力という、いわば矛盾した性質が求められるのです」。


転がり抵抗とグリップ力の両立)の図

この課題を前に、開発チームが着目したのは、タイヤの強度を上げるために、製造段階で加える「補強材」でした。グリップ力を左右するのがゴムの材質そのものであるのに対し、通常走行中の転がり抵抗の多くは、タイヤの中で補強材の分子が互いに結びつき、その固まりにより生じることがわかってきたのです。「そこで、ゴムの材質自体は変えずに、分子の末端に変化を加えて、補強材の分子と結びつきやすくなる機能を持たせるようにしました。それによって、ゴム分子が素早く補強材と結びつき、固まりになるのを防いでくれるのです」。但木はそう説明します。



タイヤの構造の図

「環境にやさしい製品開発」という使命

転がり抵抗指標の図

試行錯誤の末、なんとか納得のいく製品が完成し、1985年に第一号商品を発売。その後もさらなる燃費の向上を目指して、さまざまな改良を重ねてきました。現在では、従来のS-SBRに比べエネルギーロスが45%低減し、転がり抵抗を約20%低減。その結果、約3%の省エネを実現しています

「出発点はオイルショックですが、早い時期からCO2排出量削減への寄与という点も視野に入れながら開発を続けてきました。今後は、より多くの方に製品を使用していただけるよう、一層の省燃費とともに、コストダウンも意識した改良を続けていきたい。S-SBRだけではなく、環境負荷低減に貢献できる製品を広く開発していくことは、私たちの当然の使命だと考えています」。但木はそう語ります。

*数値は公知文献に記されたデータからの計算値です

技術を通じて、世界の人々の生活向上を

石化事業部 長友崇敏

S-SBRは、1980年代から海外市場での販売を開始するなど、当社の海外進出の礎でもありました。2009年3月からは、ドイツの化学メーカー、DOW Europe社との生産委託契約を締結。ヨーロッパのタイヤメーカーへの安定・大量供給が可能となる体制が整いました。

「近年、自動車メーカーとともに自動車部品メーカーのグローバル化も急速に進み、海外市場での需要が高まっています。この供給拡大を機に、国際競争力の強化を目指したい」。1990年代から欧州駐在員として、生産委託先を探して各地のメーカーとの交渉にあたってきた執行役員石化副事業部長の長友崇敏は語ります。

もともと、気象条件や道路事情などからタイヤの性能に対する要求が厳しいヨーロッパ市場において、S-SBRは非常に高い評価を受けてきました。今後は、自動車のCO2排出に対する規制強化に伴い、省燃費タイヤへの需要もさらに拡大していくことが予測されています。

「それに対応できるよう、今後もさらに生産拠点を拡大して大量供給を可能にしていきたい。もちろん、海外市場で競争力を持てる価格を維持しながら、よりレベルの高い製品を提供していくことも重要です」と長友は言います。「私たちの技術を通じて、日本、さらにはグローバルに、安全性の向上と環境負荷低減、そしてそれを通して人々の生活向上に貢献できれば、これほどうれしいことはありません」。その思いは、JSR全体に広く共有されるものでもあるのです。

これからのJSRのものづくり

JSRはこれまで、合成ゴムをはじめとする高分子の分野で、豊富な研究開発の経験を積み重ね、その技術力を向上させてきました。半導体などの新規分野への事業拡大をスムーズに進めることができたのも、高分子という「核」の技術があったからこそだと思います。

今後はその技術を活かし、環境・エネルギーやメディケアなどの新分野にも力を入れていく方針です。すでに製品化されている燃料電池用電解質膜、あるいはアレルギーを起こしにくい医療用素材の開発など、私たちの技術が役立つ場はまだまだ無数にあるはずだと確信しています。

私たちのつくる製品は、直接的に一般消費者の手にわたるわけではありません。しかし、「素材」がなければ、どんな製品も産業も生まれない。マテリアルの提供を通じて、地球環境に、そして人にやさしい社会の実現に貢献する。それがJSRの目指す「未来へつながるものづくり」なのです。

常務取締役(研究開発担当) 佐藤穂積

 


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