

JSRグループはこれまでの歩みを通じて、企業理念に掲げる「新しいマテリアルを提供し、その価値により豊かな人間社会の実現に貢献すること」を、事業活動の基盤としてきました。革新的かつ競争力のあるマテリアルの開発を通じて、広く社会に価値を提供していくことが、事業の多角化を進めていくうえで共有すべきグループ全体のアイデンティティであると考えています。
2010年には、2001年から開始した3段階にわたる中期経営計画が最終年を迎えます。しかし、これはゴールではなく通過点に過ぎません。次は2030年を視野に入れて、新たな長期経営計画を策定する予定です。それに向けて、企業を取り巻く環境の変化を正確に把握しながら足元をしっかりと固め、2030年にあるべきJSRグループの姿を具体化していくのがトップの役目であると認識しています。
その中で、これまでと変わらず継承したいのが「成長」と「変革」の姿勢です。事業の発展において、現状に満足することなく、常に現状の枠を破り、新しいことに「挑戦」していく姿勢こそがJSRグループの歩みを支えてきたと実感しています。
また、グローバルにビジネスを展開するうえで、倫理感を高く持った公明正大な経営なしに企業の存続はあり得ません。私自身の経験からの実感でもある「フェアである」という基本姿勢を、今後の経営方針にも活かしていきたいと考えています。

地球温暖化、資源や食糧、さらには人権問題など、現在世界が抱える問題の多くについて、企業活動がもたらす影響は非常に大きく、私たちJSRグループの活動も例外ではありません。
その認識のもと、JSRグループでは2003年度から「CSR会議」を設置し、企業倫理と環境安全を柱としたCSR活動に取り組んできました。2008年6月には、さらに取り組みを本格化するために、新たに「CSR部」を発足し、「責務としてのCSR」「社会貢献」の二つの分野での活動を進めています。
前者については、「企業倫理」「環境安全」「リスク管理」の3分野について、それぞれ専門の委員会を設置することで、推進体制の強化を図りました。後者についても、私たちの特色を活かした「JSRらしい社会貢献活動」を目指し、今年度中には計画を具体化・本格化させていきたいと考えています。
また、2009年4月1日には、国連が提唱する企業の行動原則「グローバル・コンパクト」に賛同・署名しました。この署名を、グローバルに事業展開する企業として国際社会で責任ある行動を実践するための「宣言」と位置づけ、より多様な価値観に対応したCSR活動を充実させていく所存です。

JSRグループが、今後特に力を入れていきたいと考えているのが環境への取り組みです。近年、地球温暖化を中心とする環境問題への関心が急速に高まる中、化学メーカーである当社グループもさまざまな形で課題解決に貢献していく責任があると強く感じています。
その一歩として、2008年には同業他社に先駆け、「2012年のCO2排出量を1990年対比総量で6%削減」という目標を設定しました。その実現に向けて尽力するとともに、さらに将来的な目標設定についても検討を進めています。
今後は、製品開発における性能重視のみならず、ライフサイクルアセスメントの発想を取り入れていくことが必須です。現在、当社グループの売上において環境配慮型製品が占める割合は十数%にとどまっていますが、今後はこれについても具体的な目標を定め、さらなる割合拡大に尽力していくつもりです。
また、環境・エネルギー分野を次期成長事業と位置づけ、省燃費タイヤ用の合成ゴムや燃料電池用の電解質膜、リチウムイオンキャパシタなど、環境負荷低減に貢献する製品の開発・生産拡大にもさらに力を入れていきます。

こうした一連の取り組みを支えるのが、トップマネジメントも含めたグループ社員であることは言うまでもありません。上からの押しつけではなく、社員一人ひとりがいかに高い意識と感受性を持てるかが「鍵」となります。そうした姿勢は、新たなビジネスチャンスの発見を呼び、事業そのものの発展にもつながっていくはずです。
そのためにも、社員には常に、チャレンジ(Challenge)、コミュニケーション(Communication)、コラボレーション(Collaboration)という、「三つのC」の実践を求めたいと考えています。失敗を恐れず常にチャレンジを続けること、優秀な個人の力を結集して組織の能力とするためにコミュニケーションを充実させること、そして組織間、企業間の連携を密にして情報を共有していくこと。これらの姿勢は当社グループの発展を支えてきた、重要な企業文化でもあるのです。
社員みんなが「この会社で働いていてよかった」と思えるような会社にしていくことは、私自身の大きな目標でもあります。ワークライフバランスの充実のための施策など、多様な人材が能力を最大限に発揮できるような環境づくりにも力を注いでいきます。
事業活動のプロセスの中で、ステークホルダーの皆様の声を聴き、その信頼に応えていくことは、企業としての我々の大きな責務です。社会が本当に求めているものは何かを敏感に感じ取り、ニーズに的確に応える製品を提供していくことこそが、全ての基本であると考えています。
そのためにも、今後はより一層オープンな姿勢で社外のステークホルダーと対話し、そこから得られた成果を積極的に事業活動に活かしていきたいと思っています。このCSRレポートも、そうしたコミュニケーションの一つとなることを願って発行いたしました。ぜひご一読いただき、忌憚のないご意見をお寄せください。