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新規なマイクロ流路材料により細胞分取チップのウェハーレベル量産プロセスを実現

企業情報 2013年11月01日
ナノエレクトロニクス技術研究の先端的な研究機関であるIMEC(本社:ベルギー、CEO:Luc van den Hove)と高機能化学品を得意とするJSR株式会社(本社:東京都港区、社長:小柴満信)は、JSRの新規な感光性材料であるPA (Photo-patternable Adhesive)を活用し、ウェハーレベルで細胞分取チップを量産できるプロセスを実現したことを発表します。開発した細胞分取チップは、ポリマー製マイクロ流路*1にマイクロヒーターや細胞検出器などを一体化したマイクロ流路セルソータ*2デバイスです。PAはマイクロ流路を形成する材料であり、マイクロ流路とガラスカバーなどを接着する役割も果たして、ウェハーレベルでの量産化プロセスを可能にしています。

*1 マイクロ流路: 幅・深さとも100マイクロメートル程度の微細な流路(チャネル)をいいます。本件では細胞分取チップ上で血液や細胞などの液体を必要な場所に運ぶために用いています。
*2 セルソータ: 個々の細胞の大きさ、形状の違いなどを測定し、その情報に基づいて目的の細胞を選択的に回収する装置です。高速に多数の細胞を個別に分取することができる点(ハイスループット)が特長です。

今回の細胞分取チップは、Lab-on-Chip(ラボオンチップ)技術*3を具体化したものです。Lab-on-Chip技術ではマイクロ流路と個々の機能要素(電子部品、センサー、マイクロヒーター、光学部品など)を費用効率の高い方法で一体化する必要があり、材料面でのブレークスルーが求められていました。

*3 Lab-on-Chip技術: 個別の単位操作であった分子診断、細胞・タンパク質の分離、検査、検出といったプロセスを一つのチップ上に集約する技術です。極めて微量の体液や、細胞またはその一部を含んだ溶液を使って疾患の診断を行うなど、テーラーメード医療における診断や治療を可能にして、医療/診断技術に飛躍的な変革をもたらすことが期待されています。

今回、IMECでは、PAを使うことにより、セルソータ実現のため必要とされる検出器やマイクロヒーターといった部品をシリコンウェハー上の一つのチップに集積し、それぞれをウェハーレベルのマイクロ流路技術で接続することができました。従来は別に作成したマイクロ流路を個別のチップと組み合わせて使用するなどしていましたが、ウェハーレベルのプロセスは精度の高いマイクロ流路をチップ上に一体化して作製できるためプロセス全体のコストパフォーマンスが高く、量産に適していることが利点の一つとして挙げられます。

IMECのライフ・サイエンス技術マネージャ、Liesbet Lagae氏は、「PAは、我々がマイクロ流路を形成するために感光性材料に求める必要な特性、例えば高精度の流路形成や生体適合性といった特性をすべて兼ね備えています。さらに、加熱することで形成された流路を直接ガラスカバーと接着することも可能でプロセスを大幅に簡略化できます。また、PAは、従来広く使われてきたPDMS (Polydimethylsiloxane, シリコーン材料)と違ってウェハーレベルでのプロセスが可能でセルソータを製品化する際に必要な量産プロセスへの適合性も持ち合わせており、既存材料が抱える幾つもの問題を同時に解決することができる材料です」と述べています。

このたび、IMECがPAを使って作成した次世代のセルソータデバイスは、画像処理、細胞認識のための流路設計、細胞の誘導と分取のためのバブル・ジェット技術を一つのチップに集約させたプロトタイプです。IMECでの評価では、一秒間に2,000個もの細胞を分ける動作を確認しています。このセルソータ技術の応用として、血液中に循環する非常に微量の初期ガン細胞を検出するシステムが想定されています。

JSRとIMECは、80年代より、半導体技術と材料の開発におけるパートナー関係を結んできました。JSRは2011年からスタートしたIMECとのライフサイエンス分野に関する共同研究において、マイクロ流路材料に注目し、生体適合性やウェハーレベルプロセスとの適合性を満たす材料の評価・開発を行ってきた結果、今回のセルソータに代表されるようなLab-on-Chip技術へのマテリアル・ソリューションに結びつきました。

IMECのCEO Luc van den Hove氏より:
「JSRはIMECのライフサイエンス分野での技術開発において、重要な材料サプライヤー/パートナーとして認識しています。JSRとIMECは共にライフサイエンスにおけるマテリアル・ソリューションの開発を続けます」

JSRの代表取締役社長 小柴より:
「次世代メディカルデバイスのような新しいアプリケーションの開発では、最適な技術と材料を選定することが非常に難しいものです。IMECとJSRのコラボレーションは、初期のまだ競争的でない段階の技術を最終製品の開発という成果につなげるうえで、オープン・イノベーションが重要であることを証明しています」


図1 JSRの感光性材料PAを使用して作製したウェハーレベルの細胞分取チップ(8インチウェハー)


IMECについて
IMECはナノエレクトロニクスや太陽光発電の研究において世界トップレベルの国際研究機関です。IMECは自身の科学的知見を、ICTやヘルス・ケア、エネルギーといった分野におけるグローバルなパートナーシップがもたらす最先端技術力と併せて高度化しており、国際的な最高の人材が独自の先進的な環境で研究することで、サステナブル社会のより良き暮らしを実現する成果を生み出しています。
本部をベルギーのルーバン市に置き、ベルギー、オランダ、中国、台湾、アメリカ、インド、日本に事務所があります。スタッフは各企業からの駐在研究者/技術者約600人を含めて約2,000人、2012年の予算は3.2億ユーロです。より詳しい情報についてはHPをご参照ください。:www.imec.be