ESG指数、SRI指標と銘柄への組み⼊れ

代表取締役社長兼COOメッセージ

JSR株式会社 代表取締役社長 兼 COO 川橋 信夫

新たな時代に臨み、新たな経営体制を発足

 当社は2019年6月に開催した定期株主総会を区切りに、新経営体制を発足させました。小柴前社長が代表取締役会長、当社初の外国人トップとなるエリック ジョンソンさんが代表取締役最高経営責任者CEOに就任し、そして私が業務執行の最高責任者である代表取締役社長兼COOの任に就くことになりました。JSRグループの経営方針を着実に具現化し執行していく最高責任者として、新CEOと二人三脚で新体制をけん引していく所存です。

 “令和”という新たな時代にJSRグループをさらに飛躍させるため、可能な限り様々な関係者の声に耳を傾け、多様な意見を取り入れながら方針を決定していきたいと考えています。また、「迅速・果断な意思決定と行動」という自らのパーソナリティを活かし、スピード感のある経営を行ってまいります。

社会の変革に対応し、社会からの期待と要請に応える

 “社会と企業のサステナビリティ(持続可能性)”が重要であるとの考えのもと、JSRグループは、国連グローバルコンパクトの10原則に賛同するとともに、SDGsの実現に貢献することを目指していますが、特に「世界の変革」を根本原則に掲げているSDGsには大きな関心を寄せています。2030年の「世界のありたい姿」を想定し、その実現への目標を定めたSDGsは、見方を変えれば将来におけるグローバルな社会課題の解決につながるビジネスニーズが集約されたものであるともいえます。

 私自身は、2020年代の中盤以降に社会の大きな変革が起こると考えています。化学業界では「デジタリゼーション」が引き金となり、ビジネスのあり方が大きく変わっていくでしょう。その中で、私は「個別化」と「地域化」に注目しています。今後は個人と地域に根差したニーズの重要性が、飛躍的に増大する世界が来ると予測しています。既にライフサイエンス分野の医療現場では、個別化への対応が必要不可欠となってきていますが、「デジタリゼーション」の進化とともにあらゆる分野へ広がっていくでしょう。また、もう一つの地域化はグローバル化の対極で、限定された地域で独特の需要が一気に湧き起こるという予測です。地域ごとの特性に合った需要が生まれ、その需要に適合しない技術や製品は通用しなくなる―そういう時代が来ると予測しています。「デジタリゼーション」の進化は場所や時代に捉われず、地域の需要/供給の最適化を加速させます。これまでのように、先進国で発明されたものを途上国に持ち込むのではなく、地域特有のニーズから様々なイノベーションが生まれるようになります。

 この個別化と地域化をキーにした変革が起こるのだろうとの予測のもとに、特にその2つのビジネス領域に注力していきたいと考えています。SDGsには、この「個別化」「地域化」に通じる目標もあるので、そのような視点から常にSDGsへの貢献を意識したいと考えています。

* SDGs:2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」に記載の2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されています。

変革に対応できるマインドセットとオープンイノベーション

 変革の時代は変化のスピードが速く、長期間リスクを検討して大規模に事業化するよりも、スモールスタートで先陣を切り、後でレビューを重ねながら方向性を見定めていくことが求められると思います。

 当社は「Materials Innovation」という理念を掲げる化学会社ですが、将来起こり得る変革とそこから生まれるニーズを先取りすれば、サービスを含めた周辺領域へのビジネス拡大も可能となります。しかし、基軸が「マテリアル」であることに変わりありません。「マテリアル×何か」をイメージし、オープンイノベートな素材開発からスモールスタート、レビューを重ねることで、新たなビジネスの可能性をサービス分野など多角的に視野を広げ、追求しながらビジネスをスピードアップさせていきます。

 社会の変革に対応していくためには、より人材のマインドセットが重要であると考えています。変革に強い人材の育成は新経営体制における最重要事項であり、求めたいのは「知恵と柔軟性」を持っている人です。柔軟な考え方を持っていないと「知恵」は出ません。知識は覚えるだけですが、「知恵」は知識を使って新しいことを生み出す能力です。知識のための座学ではなく、0から1を生み出すための実践的な育成プログラムの開発を進めていきます。

 今までのやり方で満足することなく、来るべき社会の変革から目をそらさず、むしろそれをチャンスに変えていくマインドを持つことを全ての従業員に期待しています。「危機を恐れず、逆にそれを糧とする」。そういう強いマインドを多くの従業員が持つことができれば、JSRグループは将来に向けて持続的な成長を遂げることが可能だと確信しています。

 一方で、こうした現代ビジネスにおいて、自前の知識と技術だけで課題を克服することはもはや時代遅れです。今後は外から知識や技術を取り入れてでもスピードアップしていかなければ、社会の変革についていくことが難しくなるでしょう。

 私は常日頃から、「無知の知」という言葉を大切にしています。人は「知っているから何でもできる」と思いたがるもので、知らない変革には恐れを抱きます。ですが、「自分が知らないこともある」と自ら悟ると、知らないからこそ情報を集め、予測し、人の意見や知恵を取り入れることで「知らないものに対する恐れ」をなくすことができるのです。それが画期的なイノベーションを生み出すことにつながっていくと考えています。

 そのためJSRグループは、オープンイノベーションを推進するための研究所をここ数年で3か所に新設しつつあります。そのうちの一つが、2017年に慶應義塾大学内に開設した「JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(通称 JKiC)」です。ここは医療分野を支える革新的材料・製品を、産学連携で開発することを目的とした施設になっています。さらに四日市工場内に四日市地区新研究棟(Center of Materials Innovation)、川崎市殿町にライフサイエンスおよびビジネスインキュベーションの研究所を新設して、オープンイノベーションを積極的に展開していきます。

JSR株式会社 代表取締役社長 兼 COO 川橋 信夫

JSRグループに着実に進行する変革

 既にJSRグループにも様々な変革が進んでいます。その変革に関して、CSR分野で注力すべきキーワードとして、「労働安全」「環境」「グローバル・ガバナンス」「ダイバーシティ」の四つに触れたいと思います。

 「労働安全」は非常に重要でありながら、かつ非常に難しいものです。特に現在では、ドローンによる現場点検やVR(バーチャルリアリティ)体感教育などデジタリゼーションを活用した様々な安全活動の改善にも着手しています。ICT、AIの性能は日々向上していますので、これらの技術を活用して、安全活動も進化させていきたいと思います。一方で、災害発生件数は減っていないという現実も、しっかり受け止める必要があります。この現実に対して特に感じているのは、団塊の世代が抜けたことにより社員の年代分布のバランスが悪くなっているということです。分布の中央が抜けてしまって、安全に関する教育や実践期間が短い比較的若い従業員がいる一方で、経験豊富なはずの高齢社員は自分の体が衰えていることを自覚できず、逆に事故を起こしたりしています。階層や経験の違いによる教育に、高齢社員に配慮した教育も必要になってきたということを4~5年前から感じています。ICTの進化や更なる年齢構成の変化などへの対応に関して、教育の方法からも見直していき、このような課題に対応していきたいと思っています。

 「環境」に関しては特に、社会に大きく貢献しなければならない化学企業にとって最も重要な責務の一つです。弊社の事業活動に伴う環境負荷の低減は当然ですが、社会に提供する製品を通した貢献度は大きいと考えています。たとえば低燃費タイヤ用の合成ゴム「SSBR」(溶液重合スチレン・ブタジエンゴム)は、世界中の化石燃料の使用量と二酸化炭素の排出量を同時に減らす効果があります。また、液晶テレビのバックライトはかなり電力を使いますが、パネル自体が良好な透過性により明るくなれば電力は少なくて済みます。そこから遡ると、化石燃料からの二酸化炭素を減らすことになります。開発者が設計初期の段階から、性能アップだけではなく環境への影響をイメージして全ての製品に改良を取り入れると、一つひとつは小さい効果であっても大きな成果になり得ると思います。そういう心遣いの積み上げが大事だと思っています。

 JSRグループは、今や売上収益の6割を海外が占め、従業員の3分の1は日本国籍以外の方が占めます。ビジネスの軸足を海外市場に移していかなければなりませんがそれゆえ、「グローバル・ガバナンス」については当社の重要課題と認識しています。特に海外では、国ごとに異なる文化や現地のビジネス慣習と当社の持続可能性との整合性を取りながら、しっかりガバナンスをきかせていかなければならないと考えています。新体制では、日本と海外の双方に精通した新CEOのリーダーシップのもと、地域特有のニーズをいち早く発掘するとともに、グローバルレベルでガバナンスを強化してまいります。

 さらに人材の多様性、「ダイバーシティ」に関しても取り組みを加速させていきます。グローバルで活躍できる人材を確保するため、国籍や宗教、生活習慣が異なる従業員同士が協力し、それぞれの持ち味を発揮できるような職場環境の整備を進めてまいります。また、同時に女性社員の活躍の場を広げる施策にも取り組み、部署を問わず女性がリーダーとして活躍できる企業とするために、ダイバーシティ経営を推進してまいります。

 これからもJSRは、変革を恐れず変わり続ける社会に迅速に対応し、世界に存在する様々な課題を事業を通じて解決してまいります。

JSR株式会社 代表取締役社長 兼 COO
JSR株式会社 代表取締役社長 兼 COO 川橋 信夫