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ESG指数、SRI指標と銘柄への組み⼊れ

事業を通じて社会的課題に貢献 健康長寿社会、衛生・医療へのアクセス向上への貢献

1.基本点な考え方

2035年には日本人の3人に1人が65歳以上になるという予測があります(国立社会保障 人口問題研究所調べ、2017年度版)。超高齢社会の到来は、既に医療費の増大や、老々介護問題などを引き起こしており、日常的に介護を必要とせずに自立した生活ができる健康寿命の延長が日本の喫緊の社会的課題です。将来的には、一人ひとりに合った治療を提供できるようになる「個別化医療」が発展して、健康寿命の延長に貢献すると考えられます。また診断技術の進歩によって病気の早期発見が可能となったり、難病の早期治療が可能となる効果の高い治療法や医薬品の開発など医療の形態が変化していくことが考えられます。「個別化医療」等に貢献するJSRグループのライフサイエンス事業は、エラストマー事業および合成樹脂事業、デジタルソリューション事業に続く第3の柱です。

2.医療トレンドとライフサイエンス事業の展開分野

先進的な医療をより早く実用化し、患者の皆さんに提供できるようにする、これがJSRの挑戦です。
製薬業界では、医薬品開発の高度化につれて、その開発費用や期間が増加し、大きな課題となっています。2006年から2014年までに、世界の主要な製薬企業が一つの分子を医薬品として商業化するために要した開発費用は、32〜323億ドル(≒約3000億円から3兆円)※1であり、新薬の上市にかかる期間は平均で12年と言われています。※2
イノベーションや分析技術の進歩、そして生物学における新たな理解が進むことによって、創薬分野は特に、Biologics(生物製剤)やPrecision Medicine(精密医療)分野において、より複雑なものとなっていきます。JSRグループは、こうした医療トレンドを踏まえ、バイオ医薬品分野および先端診断分野を中心に事業展開を図ります。そして、バイオ医薬品を中心とした領域で、治療法の開発成功率を高め、期間を短縮し、治療効果を高めていくことに挑戦し続けます。

※1 出典:Shuhmacher, Gassmann, Hinder Journal of Translational Medicine

※2 出典:California Biomedical Research Association

医療トレンドとライフサイエンス事業の展開分野

3.ライフサイエンス事業の体制

JSRは、医薬品開発プロセスの効率化や短縮化に貢献するために、M&Aを活用し、その体制構築を進めてきました。

JSRグループのライフサイエンス事業の体制

JSRグループのライフサイエンス事業の体制

(2018年5月31日現在)

2015年に連結子会社化したKBI Biopharma Inc. は、バイオ医薬品の分析や製造プロセス開発において、高い技術を有し、製薬企業から分析や製造プロセス開発を受託し、また商業医薬品の製造受託も行います。
2017年7月に買収した、Selexis S.A.は、抗体などの薬の基となるたんぱく質を効率よく、安定的に培養できる細胞株を開発し、培養するたんぱく質に応じて最適な細胞株の開発と提供を受託する企業です。
Selexisの高性能な細胞株とKBIの分析、プロセス開発技術を組み合わせることで、薬の開発期間を短縮することができます。
JSRでは、その素材開発力を生かし、バイオ医薬品の製造に使用される、様々な培養液や精製材料を提供していくことで貢献します。SelexisやKBIを、こうした先進的な材料を評価し開発に活用するプラットフォームとして活用することで、材料開発の効率を高めることができます。JSRは抗体医薬品の製造プロセスに使用される、高性能なプロテインAクロマトグラフィー担体Amsphere A3を上市していますが、この開発や拡販には、KBIが大きく貢献しています。

2018年に買収したCrown Bioscience Incは、医薬品の探索研究をより効率的にできるサービスを提供します。Crownは、世界最大数のPDx※3モデルを有しています。様々な患者のがん細胞から構築した多様なPDxモデルによって、ヒトでの試験である治験の前に、ヒトに近い環境で薬をテストすることができます。これにより、治験段階での成功確率を高めることができます。また、様々な種類のがん細胞について、その遺伝子やタンパク質などのデータを蓄積しており、薬の候補となるたんぱく質をPDxモデルでテストし、データベースによって解析をすることで、薬の効果に影響を与えている因子(バイオマーカー)の候補を特定していくことができます。これにより、薬が効く因子を有している患者だけを対象として選び出すことができ、治験が効率的に計画できます。さらには、開発中の薬の候補物質が、実際に承認・実用化された場合には、バイオマーカーの有無を診断することで、薬の投薬前にその効果を判断することも可能になります。
このように、Crownの提供する開発受託サービスは、薬の開発プロセスの効率化に貢献するだけではなく、精密医療の開発にも貢献します。

※3 PDx : Patient Derived Xenograft 免疫不全化したマウスにヒト患者由来のがん組織を移植したもの。従来の方法よりも、よりヒトに近い環境で評価ができるため、抗がん剤のスクリーニングに有効。

2015年に連結子会社化した(株)医学生物学研究所(MBL)は、Crownが提供する開発受託サービスに使用する、様々な研究試薬を提供していきます。また、バイオマーカーを診断薬化することで、精密医療の拡大に貢献していきます。2017年10月からスタートした、慶応義塾大学との産学連携の取り組み、JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(JKiC)では、精密医療に貢献するシーズの探索やより効率的な医薬品候補物質スクリーニングに貢献するスクリーニングモデルの開発等を行っています。こうした活動の成果は、Crownを始めとするJSRグループの様々な会社を通じて、社会実装され、医薬品開発プロセスの効率化や短縮化、精密医療の拡大に貢献します。

JSRは、研究開発受託企業(CRO)であるCrownをグループに加えることで、医薬品の探索研究を行う顧客との接点におけるギャップの解消が可能となりました。また、こうした一連のM&Aにより、事業運営体制の再構築が完了しました。これにより、JSRのライフサイエンス事業は、医薬品開発プロセスの上流にあたる戦略的基礎研究・診断薬開発・創薬探索開発受託、同下流にあたるバイオ医薬品の製造プロセスにおいては細胞株樹立から製造プロセス開発・GMP※4製造受託まで拡大し、製薬業界に創薬プロセスへの製品・サービス提供からGMP製造までシームレスに価値を提供するこができるようになりました。JSRグループは、新たな治療の開発プロセス全体にわたって、製薬企業、バイオテック、アカデミアに対して、革新的なサービス、製品や材料を提供してまいります。

※4 GMP : Good Manufacturing Practice 医薬品の製造と品質管理に関する国際基準

ライフサイエンス事業売上見通し

ライフサイエンス事業売上見通し

遺伝子組み換え技術の利用に関して;

JSRグループのポリシーとして、カルタヘナ議定書(生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関する議定書)に対応する各国法令・規則に基づく社内安全管理基準を策定し、継続して遵守しています。

JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター (JKiC) 開所記念式典が開催されました

JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(JKiC))2017年10月、慶應義塾大学信濃町キャンパスにおいて「JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(JKiC))」の開所記念式典が開催されました。このセンターは、慶應義塾とJSRが、産・学・医療の連携拠点と位置付ける共同研究を目的に、2015年3月に設立について合意したものです。JKiC棟は、地上3階・地下1階の延べ床面積3,600m2超を有し、1階には産学医連携部門室や交流スペース、展示スペース、会議室が入り、2・3階にはオープンラボ、地下1階には最先端の3Dプリンターやイメージング装置等が設置されています。JKiCでは、医学的見地と素材開発の知見を融合させて、4つの主な研究領域 (①精密医療、②幹細胞生物学と細胞医療、③微生物叢、④先端医療機器) に取り組みます。産学連携による医学と化学の融合という全く新しい概念を突き詰めることでイノベーションを生み出し、健康長寿につながるような世界に貢献する実用技術を確立していきます。

4.オープンイノベーションの分野でも、健康長寿社会に貢献します

〜3Dソフトウェア、3Dプリンティング技術で個別化医療の可能性を拡げます〜

JSRは2017年7月、医療3Dソフトウェア会社である株式会社レキシーの買収を行いました。レキシーは整形外科領域において、2009年に日本で初めて3D手術シミュレーションソフトウェアの提供を開始した、この分野の先駆者です。JSRは、3Dプリンティング技術およびその材料技術(生体適合性エラストマーからなる3Dプリンタ用材料「FABRIAL®」)を通じた事業展開を行ってきましたが、これらの技術とレキシーが保有する3Dソフトウェア技術の融合により、CTやMRI診断で取得したデジタル画像データから骨格や臓器の3Dデータを作成・解析し、最適化された樹脂製義肢装具や手術支援ツールを3Dプリンティングで作成するといった3D技術の活用により、より正確で、より早く、より簡便に、患者一人ひとりにカスタマイズする個別化医療に向けたサービスや製品の提供を目指していきます。
FABRIAL®で3Dプリントした装具の例

FABRIAL®で3Dプリントした装具の例

<FABRIAL®(ファブリアル)Rシリーズについて>

FABRIAL®Rシリーズ フィラメントと造形品の例

FABRIAL®Rシリーズ
フィラメントと造形品の例

FABRIAL®(ファブリアル)Rシリーズは、JSRが独自のポリマー技術を活かして開発した3Dプリンタ用フィラメント材料です。
柔らかくしなやかで、3Dプリンタの用途とデザインの多様性を広げ、実製品の生産を可能にしました。ISO 10993に準拠した生体適合性試験(皮膚感作性・細胞毒性)による安全性も確認されています。

3D技術を通じてパラアスリートのパフォーマンス向上を図る
「スポーツ・アンド・ヘルス イノベーション コンソーシアム」に参画

JSRは、アスリートや関係者を支援する技術開発を行う、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの「スポーツ・アンド・ヘルス イノベーション コンソーシアム」に参画しています。
本コンソーシアムの活動の一つとして、3D技術を活用してパラアスリート一人ひとりの身体に合った用具を作ることでパフォーマンスの向上を図る研究を行っています。当社は、3Dプリンティング技術およびその材料技術を通じた事業展開の一環として、2015年10月に本コンソーシアムに参画し、車いす競技用のグローブ開発を進めてきました。

車いす競技用のグローブは、選手一人ひとりが手作りするため制作に時間がかかります。グローブの形状を3Dデータに起こし、3Dプリンターを使って制作することで、身体にフィットしたグローブを繰り返し再現することが可能となり、制作に費やす時間を短縮することができます。また、3Dデータの微調整を行うことでより使い勝手の良いグローブを作ることができ、選手のパフォーマンス向上にも役立ちます。

このような産・学連携の取り組みを通じ、当社はこれからも社会に役立つ新たな価値を提供していきます。

新研究棟 外観

車いす陸上競技と競技用グローブ

車いす競技用のグローブ

車いす競技用のグローブ

※ スポーツ・アンド・ヘルス イノベーション コンソーシアム
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの仰木裕嗣教授が代表を務め、民間企業が複数参加しています。東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を機に、「人体の動きをデジタルに捉え、デジタルに表現する・支援することを科学する」“デジタルヒューマニクス”の研究を通じて、アスリートや関係者を支援する技術開発を行い、さらにはその発展として「スポーツ、医学、看護、介護、福祉」におけるQOL向上といった社会課題解決に資するような技術や事業の創出を目的として活動しています。