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トップコミットメント

JSRのサステナビリティ
〜加速する時代・社会の変化に備えるために〜

代表取締役社長 小柴満信

2020年以降も持続的に成長していく企業であるために

ここ数年、世界情勢は急激に変化し続けています。英国はEU離脱を決議し、米国大統領はアメリカ第一主義を掲げ、中国共産党書記長が世界のリーダーになることを公言するなど、世界のパワーバランスは崩れ、先行不透明感が増しています。また、AI(人工知能)やビッグデータ、スマートファクトリー(考える工場)など、科学技術の進歩も勢いを増し、デジタリゼーションの波は、ますます加速しています。まず、変化が加速する時代に向けて、これまでどのような備えをしてきたのか、2011年度から2017年度までのJSRグループの歩みを振り返りたいと思います。

JSRグループでは、2020年以降のあるべき姿の実現を目指して、2011年度から2019年度を3期に分けて中期経営計画を策定・推進してきました。第1期にあたる「JSR20i3」(2011〜2013年度)で、石油化学系事業とファイン事業を基盤事業としつつも市場の成長鈍化を見越し、新たな事業機会を窺い、続く「JSR20i6」(2014〜2016年度)で、新たにライフサイエンス事業に着目し、石油化学系事業、ファイン事業に次ぐ〝第3の柱〟と位置づけました。そして現在推進中の「JSR20i9」(2017〜2019年度)では、国内市場が縮小し対面市場の成長鈍化がいよいよ現実化する中、エラストマー事業の低燃費タイヤ用SSBR(溶液重合スチレン・ブタジエンゴム)、半導体材料事業、ライフサイエンス事業の3つを成長ドライバーとして収益を上げていくことを計画しています。その初年度となる2017年度は、自動車タイヤ用材料、半導体材料の売り上げ増加、ライフサイエンス事業の成長などにより、好調な業績を上げることができました。

2020年以降も持続的に成長していく企業であるために、特に注力しているのがライフサイエンス事業です。1980年前後より研究がスタートし、それから約30年の間に次世代を担う事業として育ててきました。2012年には「JSRライフサイエンス株式会社」を設立し、メディカル製品の開発・製造・販売を本格化。さらに2016年には米国KBI Biopharma社を買収し、医学生物学研究所を連結子会社化しました。2017年10月には、慶應義塾大学との共同研究によって新たな医療分野を支える革新的材料・製品を開発することを目的とした「JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(通称 JKiC)」を開所しました。売上も、2017年度は約260億円を計上、2018年度には400億円を見込めるところまで伸びてきています。

今後JSRグループは、“工学”を担う化学会社としての強みを活かし、ライフサイエンス市場へ新たな価値を吹き込むことを目指します。たとえば、大きな社会問題である肥大化しつつある医療費の圧縮に貢献したいと考えています。医療費高騰の最大の理由は、新薬の開発にかかる長い時間と巨額の費用です。開発期間は平均して約12年間、費用は3000億から3兆円かかると言われています。データサイエンスなど、JSRグループが培ってきた技術をもってこの問題に取り組み、革新を起こしていきたいと考えています。

事業セグメントもデジタリゼーションへ対応

2017年度は、加速度的に進むデジタリゼーションに対しても、次々と手を打ってまいりました。最も重要な打ち手としては、データサイエンティストの育成が挙げられます。昨年、ある米国企業でトレーニングを受けた10名ほどの従業員は自分でプログラミングも可能になり、従来は3日かかっていた解析が2時間でできるようになったなど、劇的な効果をもたらしてくれています。しかし重要なことは、データサイエンティストがいればよいということではなく、全ての従業員が、必ずやってくるデジタル化の劇的変化に対し、メンタルバリアを払拭し、理解し、活用するという意識を持つことです。プログラミングがどういうもので、何ができるのか、その必要性や活用法がわかっているということがデジタリゼーションへの対応の第一歩だと考えています。

事業においても、ファイン事業のセグメントは、今後のデジタリゼーション時代へフィットさせ一層の成長を目指すことを目的に、「デジタルソリューション事業」へと名称及び組織形態の変更を実行しました。

加えて、JSRグループの基幹系情報システムを、日々の企業活動をデジタリゼーション時代へ対応させるためのプラットフォームとして、全面刷新する準備も着々と進めています。こうした取り組みは、2020年以降のJSRのあるべき姿へとつなげるものです。

持続可能な社会の実現に貢献する

これまでもJSRグループは、素材を提供する化学会社として、川下企業、およびエンドユーザーへの影響を常に意識し、社会的課題の解決を目指した事業推進を行ってまいりましたが、現在、特に重視している課題が「環境」「働き方」「安全」の3点です。

「環境」については、気候変動緩和や環境負荷軽減といった問題に対して独自の目標を掲げて活動しています。中でも、温室効果ガスと海洋プラスチックの問題は、化学会社である私たちにとって重要な課題と認識しています。CO2排出量削減については、経団連の「低炭素社会実行計画」に参画している日本化学工業協会の指針を受け、JSRグループとして何ができるのか、新たな技術の活用も含め、準備を進めています。

「働き方」の見直しは、これからの変化に対応し得る生産性を実現するためにも、重要課題の一つと捉えています。〝「働き方改革」のための改革〟に陥らないために「ワークスタイルイノベーション」へと活動の名称を変更し、単なる残業時間の削減ではなく、働き方の質を変えていくことを重視した改革を推進中です。なお、この課題については、今までの取り組み状況を評価し、ボトムアップだけではなく、トップダウンの取り組みも欠かせないと痛感しました。たとえば、働き方を変えるには情報システムインフラの刷新など大きな投資が必要な場合もありますが、その意思決定は経営会議で行われます。場合によっては、経営会議の在り方から変えていく必要もあると考えています。

「安全」については、2016年に制定した「安全衛生基本理念」およびこれを実行するための「行動指針」により従業員の全体的な意識が向上し、効果が現れつつあります。一方で、世代別の安全教育の必要性やグループ企業における安全対策の徹底など、いくつかの課題も見えてきました。現在、これらの解決とさらなる安全意識の徹底に向けて、具体策を検討中です。

以上の課題も含め、2020年以降も持続的に成長するJSRグループを実現する「JSR20i9」を推進してまいります。

また、今後もJSRグループは、国連グローバル・コンパクトの10原則への対応やSDGsなどの社会的課題を的確に捉えた企業経営を行ってまいります。そして、「Materials Innovation――マテリアルを通じて価値を創造し、人間社会(人・社会・環境)に貢献します。」という企業理念を掲げる化学会社として、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

JSR株式会社 代表取締役社長
小柴 満信

※ SDGs: 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されています。