ホームCSRステークホルダーとの対話 ③

ESG指数、SRI指標と銘柄への組み⼊れ

ステークホルダーとの対話 JSRのサステナビリティに向けて〜未来の働き方を考える〜  ③

現在の人材マネジメント課題

現状の評価制度の課題

末政:
現在の人材マネジメントの課題としては、評価方法が、最初に立てた目標に対して最終的に評価する形になっている点が挙げられると思います。これからの時代、不確実性が増す中で、失敗の受容も含め、アジャイル的評価が必要だと感じています。

※ アジャイル:俊敏かつ柔軟に対応すること

山口:
確かにそうですね。また、評価制度についてはある程度ルールはありますが、マネジメントしている人の解釈次第という面があるので、もっと明確に数値化できる制度にすべきでしょう。どうすれば更に従業員のモチベーションが上がる評価制度になるか、考えていく必要があると思います。
結果に対する評価も重要ですが、プロセス全体で捉えることも必要です。脳はエピソード記憶(個人的な経験による記憶)という形で学習していくからです。エピソード記憶には、必ず感情記憶が紐づいてきます。プロジェクトの中で、どういう感情が途中で発露していたのかが記憶として残り、それが次へのモチベーションとなります。例えばあるプロジェクトをやって、最後の結果だけが評価され、報酬だけがポジティブな感情につながっていたとしたら、次に同じような仕事をやるときのモチベーションはお金でしかありません。これとは別に、失敗を繰り返しながらも謎が解けていったとか、まわりのメンバーと新しい発見や感動を共有できたなどの体験があれば、人間の脳は勝手に紐づけして学習していきます。こうなると、モチベーションはお金だけではなくなります。

ダイバーシティの課題は、制度以上に意識が大事

猪俣:
JSRでは、ダイバーシティの課題にも力を入れていて、中でも、まずは女性活用ということで、いろいろな取り組みがなされています。しかしいくら仕組みを取り入れても、一人ひとりの女性に対する意識、マインドそのものが変わらない限り、なかなか進まないと感じています。
野村:
意識の問題はとても大きいですね。ダイバーシティにおいて、今、〝アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)〟が注目されています。いろいろな制度を整え、いろいろな研修をやってもいま一つ浸透しないのは、私たちは無意識のうちに、女性/男性はこうあった方が望ましい、という刷り込みがあるからだとされています。そうした無意識の偏見に私たちは縛られているという事実に、まず、気付いてもらう必要があります。
そもそも男性と女性はバイオロジカル(生物学的)なところで染色体から違うので、何でも同じに考えること自体、無理があると思います。脳の構造も違っていて、右脳と左脳をつなぐ脳梁の太さが違うことや、女性はマルチタスクが得意ということもわかってきました。そうした男女の違いを受容した上で、それぞれが活躍できる働きやすい状態に持っていこうという視点を持たない限り、本質的な平等は実現できないでしょう。
野村:
ステークホルダーとの対話もう一つお伝えしておきたいのは、なぜこれほど女性活用が叫ばれるのかと言えば、今の日本は、管理職の女性比率や勤続年数など、欧米諸国と比較して、その差があまりにも大きい、つまり女性の力を生かし切れていないからです。男女の差なく活躍できる社会を実現する、これを自然の変化に任せていては100年かかるのではないかと私は思います。それでは、あまりにも遅すぎます。せめて20年ぐらいに短縮しないと、世の中の変化のスピードに対応できません。日本の企業はしっかりとした問題意識を持ち、策を講じるべきだと思います。
男女に限らず、一人ひとり、個人の違いを受容して、それぞれの能力や個性、好き・嫌いをそれこそAIを活用して判別することで、適材適所の人材マネジメントが実現する可能性もあるかもしれません。

仕事の効率化を、どう考えていくべきか

澤田:
生産技術部門と製造現場間でプロセス検討を行う際のデータ共有など情報共有の際に時間と手間がかかってしまい、効率化できていないケースがまだあるように感じています。
野村:
そのあたりこそ、IT化できる余地がありそうですね。
湯淺:
ステークホルダーとの対話私が課題に感じているのは、増えていく打ち合わせや会議にどう対応していくか、ということです。便利なツールの活用など自分の働き方をいくら変えても、打ち合わせがどんどん入ってきてしまうと、自分でコントロールできる時間は減ってしまいます。
神谷:
私の部署では、「シックス・シグマ」の研修を経て、会議の時間が長びくのを改善するために、ファシリテーター(会議を良い方向に導く進行役)やタイムキーパーを置くなど、ちゃんとアジェンダ(課題項目)を組んで進行させるチームがでてきました。そういうチームでは、だいぶ会議時間を短縮できていると思います。また、居室のフリーアドレス化をしたことで、それまであまり話したことがない方とでも、コミュニケーションがとりやすくなるなど仕事の効率化という意味では、目に見える形で進み始めている実感があります。

※ シックス・シグマ:アメリカ・モトローラ社が開発した品質管理・経営手法

野村:
打ち合わせや会議については、今おっしゃったような好事例があるようなので、それをぜひ、横展開してみてはいかがでしょう。このように、社内でちょっと情報共有するだけでも違ってくるのではないでしょうか。また、日頃からざっくばらんに会話をしていると、会議の時間の短縮につながる面も出てくると思います。非公式のコミュニケーションをサポートするような仕組みを取り入れるのもよいかもしれません。
神谷:
ただ、当社はここ数年、ワークライフバランスから始まり、次に働き方改革プロジェクトと、いろいろやっていますが、「残業削減じゃないよ」という話もあり、正直、進んでいる方向がよくつかめていません。中身がどういうことなのか、一般の従業員にいま一つ浸透していない気がします。
山口:
そこは経営側の問題ですね。中期経営計画の2018年度の予定には、「各部門のあるべき姿、提供価値の再確認」という項目があります。これはつまり、何のために、誰のために、何の目的でその作業をしているのかを見直してみようということです。その結果、書類を作る必要がなくなったり、作業を減らせたりできるかもしれない。そういう視点で働き方を変えていくことがワークスタイルイノベーションです。
野村:
働き方改革の本当の目的は、残業代削減ではありません。そこはやはり、経営側がしっかりメッセージを発信していくことが大事だと思います。何のためにやっているのかが伝わらないと、サービス残業になり、一般社員を追い詰めることになりかねません。それから、女性活用推進や働き方改革などは、制度のみ変えても生産性はなかなか上がらないけれど、ITと組み合わせることで上がったというデータも出ています。そこをいかに組み合わせるか、まだまだ考える余地がありそうですね。
ステークホルダーとの対話

若い世代の考えを、次世代につないでいく

山口:
未来の働き方というテーマに話を戻すと、これまで、働くと言えば、仕事をして報酬を得るというものでしたが、その概念から変わってくる気がしています。私は学生の頃、「人間の辞書には、感動はあるが理動はない」という言葉を聞いて、これは真理だなとずっと思ってきました。人は理屈だけでは動きません。たとえ疲れていても、寝ないでゲームをやったり小説を読んだりするのは、それが面白いからです。何か共感や感動がないと人は動かない。私の立場で言えば、どうやって皆さんにそれを仕事で感じてもらい、ワクワクしながら働いてもらえるか、そこが課題だと改めて感じました。
今日の対話を私なりに簡潔にまとめると、これからは、「カオス(混沌、混乱)を楽しむ、個」ということになるのかなと思います。これからAIがますます台頭してくると、想像もしていなかった世界が生まれ、不確実性が高まります。それを楽しむ気持ちが必要だということです。その結果、人はより人らしく、かつ、それぞれがその人らしくなっていく。そして、個人個人の違いを大切にしていく時代になっていくだろうと感じています。
野村:
私は、より人間らしいコミュニケーション力が必要とされる時代になってくると思います。皆がこれまでとは違うコミュニケーションのとり方を実践しない限り、働き方改革も女性活用推進もできないでしょう。例えば、短時間勤務の女性は、自分が今どういう状況なのか、どんなニーズがあるのか、について上司と共有していく必要があります。自分から積極的にコミュニケーションをとらないと上司にはなかなか伝わりません。同時に上司の方も、部下が安心して話ができる環境を作らなければなりません。そういう意味で、働き方改革=コミュニケーション改革だと言えるでしょう。
山口:
有識者のお二方、弊社の若手社員のお話をいろいろ聞くことができ、とても有意義な時間になりました。今日うかがったような若い世代の皆さんの考えを次世代につないでいくこと―これが、最も重要だと感じました。10年後、20年後、今日の話に出てきたことが一つでも二つでも実現できるようにするために、その下地を継続的に作っていくことが、我々経営側の仕事なのだと思います。さらに若い皆さんが経営側に立つ時代が来たときも、全く同じことが言えるでしょう。それが本当の意味での、JSRグループのサステナビリティになるのかなと思っています。今後も、こういう機会を地道に設けて、問題意識を共有していきましょう。皆さん、興味深いお話をありがとうございました。

2018年5月9日JSR株式会社 本社にて