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SRI指標と銘柄への組み入れ

健康長寿社会

1.基本点な考え方

2035年には日本人の3人に1人が65歳以上になるという予測があります(総務省統計局調べ、2014年9月)。超高齢社会の到来は、既に医療費の増大や、老々介護問題などをひきおこしており、日常的に介護を必要とせずに自立した生活ができる健康寿命の延長が日本の喫緊の社会課題です。将来的には、一人ひとりに合った治療を提供できるようになる「個別化医療」が発展して、健康寿命の延長に貢献すると考えられます。また診断技術の進歩によって病気を早期に発見が可能となったり、難病の早期治療が可能となる効果の高い治療法や医薬品の開発など医療の形態が変化していくことが考えられます。
「個別化医療」等に貢献するJSRグループのライフサイエンス事業は、これまで多角化事業のひとつという位置づけでいましたが、事業規模の拡大を踏まえ、ファイン事業と並ぶ新たな柱として位置づけなおしました。

2.ライフサイエンス事業の体制

JSRグループは、実際に診断薬が使われる医療現場や、バイオ医薬を製造する現場に積極的に関わり、そこからのフィードバックを得ながら世の中から求められる技術を見極め、製品を開発していきます。そのためにこれまでのJSRグループにない、医療分野独特のノウハウや技術、許認可取得の知見を持った他社との協働や連携をしています。優れた技術を有する企業との資本業務提携を進め、素材に強みをもつJSRグループをエンドユーザーまで繋げ、最終製品を使用する製薬企業や医療現場の期待にスピーディかつ的確に応えていきます。

JSRグループのライフサイエンス事業の展開

#1:JSR-mblVCライフサイエンス投資事業有限責任組合 JSRグループのライフサイエンス事業の展開=JSR/JSRライフサイエンス/JSR Micro,Inc./JSR Micro N.V.

#2:KBI Biopharma,Inc.(略称 KBI)
JSRが主体となって共同買収を行ったバイオ医薬開発・受託企業である米国KBIを2015年度より連結子会社化しています。

#3:(株)医学生物学研究所(略称 MBL)
持分法適用会社であったMBLの株式を買い増しし、2015年度に連結子会社化しています。

#4:JSR・慶應義塾大学 医学化学イノベーションセンター(JKiC)

#5:2016年6月17日付けでSCIVAXライフサイエンス株式会社はORGANOGENIX株式会社に社名変更いたしました。

慶應義塾大学医学部との協同研究施設は、2017年4月に向けて建設が進んでいます。

JSR・慶應義塾大学 医学生物学イノベーションセンター(JKiC)イメージ図
JSR・慶應義塾大学 医学生物学イノベーションセンター(JKiC)イメージ図

3.ライフサイエンス事業の展開分野と2015年度の活動実績

JSRグループのライフサイエンス事業の展開分野は下記の通りです。

JSRグループのライフサイエンス事業

(1)個別化医療のためのコンパニオン診断

〜JSRとMBLが病気を早期検出する製品の共同研究をしています〜

コンパニオン診断とは、医薬品や治療が患者に効果があるかどうか事前に判断したり、薬の副作用が出る患者をあらかじめ判断するために行う診断のことをいいます。治療スケジュールや投薬容量、投与中止などの治療法を最適化するために反応性をモニタリングするなど様々な目的に活用されており、個別化医療に必須の診断です。コンパニオン診断の代表的な方法は、粒子に付けた抗体※1に結合した抗原(病気関連物質)を検出し、診断を行います。
JSRの持つ粒子製造技術(磁性、着色、粒径制御、表面特性制御による高選択性)とMBLが持つ多種多様な抗体を結合させて、様々な抗原に対応する診断薬を準備することが可能となりました。JSRの開発した診断薬用磁性粒子Magnosphere™(マグノスフィア)※2とMBLの抗体を結合させ、エクソソーム※3やタンパク質を分離、検出することにより、病気の早期検出を可能にする研究を、JSR・MBL共同研究チームを設立して共同開発しています。JSR・MBL共同研究チームが開発した「ExoCap Streptavidin Kit」が2016年度内に販売開始となる予定で、今後は世界の研究者に提供していきます。

※1 抗体:体内の異物を排除する免疫システムなど防御反応を活性化する生体分子。生体由来物質であるタンパク質からなる。

※2 Magnosphere™:特定の生体由来物質を分離して得るための高機能磁性粒子。粒子表面は水となじむ独自開発の高分子材料でコーティングされており、目的以外のタンパク質などが吸着して混ざることを防ぎつつ、粒子表面に固定した抗体などの働きは妨げないように設計されています。この特徴から、診断薬などに用いる担体として優れた性能を発揮します。

※3 エクソソーム:細胞内にある、膜小胞。近年の研究ではエクソソームを調べることでがんを含む様々な疾患を検出できるとされている。

ExoCap Streptavidin Kit 使用イメージ

ExoCap Streptavidin Kit 使用イメージ

(2)バイオ医薬品を支えるバイオプロセス材料

〜がん細胞や病気の原因を狙い撃ちできる薬の製造プロセスに使用されるJSRの製品〜

バイオ医薬品とは、バイオテクノロジー(遺伝子組換え技術や細胞融合法など)を用いて開発・製造される医薬品です。バイオ医薬品の3本柱が、抗体医薬・タンパク質医薬・核酸医薬で、特に抗体医薬は、がんや難病の治療分野で、有効性が高く副作用が少ない医薬品として近年急速に開発・採用が進んでいます。抗体医薬は化学的に合成することはできないため、遺伝子組換えを施した細胞や微生物による生物的な合成で製造されます。JSRグループのライフサイエンス事業では、バイオ医薬の製造工程で用いられるバイオプロセス材料を提供しています。
バイオ医薬はまず、微生物や細胞を培養し、大量に抗体を生合成させます。次に培養液中から抗体を回収し、精製します。JSRのバイオプロセス材は、この精製工程で使用されます。抗体医薬の精製工程では、技術とコストの両面が課題になっています。精製工程の技術が進歩すると、抗体医薬の製造コストを抑えて普及につなげられます。また、新たな機能を持つ抗体医薬の製造が可能となります。

2015年度の活動

JSRライフサイエンスの製品「Amsphere™(アムスフェア)A3」は、液中から必要な抗体医薬成分を回収するための初期精製に用いられるカラム用担体です。従来品よりも多量の抗体を効率よく回収することができ、繰り返し使用しても性能が低下しにくく、純度の高い抗体を効率的に得られる特長があります。また機械的強度が高いので高流速での精製に対応でき、この点でも効率化が望めます。「Amsphere™ A3」は、2015年10月、Bio Process International Conference & Exhibision2015で発表し、2016年1月に販売開始しています。
JSRグループは抗体医薬の製造プロセスに、戦略的パートナーを拡大しつつ貢献していきます。さらに、次世代抗体医薬やその他バイオ医薬品の研究開発を推進するための試薬なども提供していきます。

(3)ライフサイエンス分野以外でも、健康長寿社会に貢献します

〜慶應義塾大学との共同研究において、3Dプリント義足の途上国での実証試験を実施しました〜

3Dプリント義足当社と慶應義塾大学SFC研究所は、その共同研究において生体適合性エラストマーからなる3Dプリンタ用材料FABRIAL®(ファブリアル)Rシリーズと、その3Dプリンティング技術を開発しました。この成果を活かし、慶應義塾大学SFC研究所員が、当社と経産省フロンティアメーカーズプロジェクトからの支援を受け、フィリピンにおいて3Dプリンタで作成した義足の実証試験を行いました。
フィリピン国内では、120万人の足切断者がいますが、年間に470本しか義足の製造ができないため手元に届かず、外出できない人がいます。また、義足は高額であり購入することが難しいのが現状です。
一方、3Dプリンタから製作された義足は調整が容易、パーツ交換可能、重量が軽い、比較的安価といった特色をもっています。JSRの3Dプリンタ用樹脂FABRIAL®のもつ柔軟性が、義足の切断された足に接する部分に使用されており、足への負担を軽減しています。 JSRグループは、FABRIAL®を通じてヘルスケア領域の発展に今後も貢献していきます。