ホームCSRステークホルダーとの対話 ③

SRI指標と銘柄への組み入れ

ステークホルダーとの対話 JSRグループが考える重要課題の検証 ③

重要課題は、投資家のニーズ、顧客のニーズ、
そして社会のニーズにつながる

本木氏:
私はESG(環境、社会、企業統治)に着目し、JSR株主のどれぐらいが国連の求める責任投資原則(投資家が投資する企業を選ぶ際に、ESG課題を考慮する原則、PRI)に署名しているかを調べたところ、主要な機関投資家の2/3以上が署名していることがわかりました。PRIの6原則にはESGが組み込まれていますから、多くの株主はESGを重視する前提でJSRに投資していることになります。つまりESG重視する投資家は、JSRグループを、業績だけでなくCSRレポート等で開示されている非財務的項目をしっかり評価していると捉えることができると思います。
例えば年金基金などESGの視点を取り込んで長期で運用する株主は、基本的に保有する株式構成を組み替えず、5年、10年、あるいはそれ以上に亘り保有し続けますから、JSRグループのCSRは安定株主づくりに大きく貢献しているといえます。お互いに長期的に企業価値を高めていこうというコンセンサスが形成されていると考えられますね。
ESGが重視されていることは理解しており、我々が国内外の投資家と行っている年間約300回のミーティングの際に、投資家の方々に可能な限りESGについてどう捉えているか聞くようにしています。その中で見えてきたのは、ESGは外部から投資対象として評価をうけるための“入場券”のようなものだということです。ESG投資の対象になるということは、ESG情報の開示だけで対応すればよいということではなく、企業市民として当然の取り組みをしつつ業績を上げた結果への評価だと理解しています。
秋山氏:
投資家はリターンを求めていますから、環境対応など社会的課題の解決につながる新たな技術開発やビジネス化を通じて、結果的に企業が成長することを望んでいると思います。そもそもESGは事業と全く離れたところでの活動を評価する概念ではありません。そこでマイナスがつけば投資対象にならないという意味で、ESGは“入場券”というご指摘は、まさにそのとおりと思います。JSRグループが経営とCSRの一体化に取り組んでいく中で、CSRをどう事業に繋げるのか、事業を通じていかに社会的課題を解決しながら業績を上げて、社会的還元へつなげていくのかが問われているということですね。
本木氏:
対話会の様子4ESGを重視する投資家は、気候変動や水資源保全などに関する方針や基準を持っていて、それに則って評価しています。そういう意味では、基準をクリアしている企業が“入場券”を持っているという言い方もできるでしょう。一方、ESGの世界もレベルアップを続けています。評価会社の情報が投資家に行き渡っていますから、今の時点では入場券を持っていてもCSRのレベルアップを続けなければ追いつけなくなる可能性もあると思います。
秋山氏:
今回の重要課題の特定にあたって海外のステークホルダーからも意見を聞いているのは非常にいいことですね。日本企業ではあまりないと思います。CSRは今後、日本国内だけでなく、海外での活動がより大きな課題として重要視されていくと思いますので、大切な視点だと思います。
「高機能・高品質・安定供給」が最重要の課題と位置付けられましたが、製品の研究開発や製造技術におけるCSRの観点とはどういったものですか?
川橋:
研究開発の初期段階から上市にいたる間、何回かデザインレビューを実施します。ここでは必ず環境面でのチェックが加わります。大きく捉えれば何度も何度もデザインレビューをこなしていく中で、CSRの意識は従業員の中に根付き、しっかり培われていると思います。

※ デザインレビュー:研究開発の段階ごとに、原料、製造プロセスや製品の性能・機能・品質などに関して、あらかじめ定めた項目の基準値をクリアしているかどうかを検討して次のステップに進むかどうかを審査する機会。省エネルギー、省資源、リサイクル性向上、有害物質低減なども項目に含まれる。

野田氏:
CSRレポートの国際的ガイドラインである、「GRIサステナビリティ・レポーティング・ガイドライン」の活用浸透に関わっていて感じるのは、日本企業はガイドライン上の細目をいかに埋めるかに一生懸命になりがちであることです。ガイドラインは、細目を埋めることで達成状況をアピールするというよりも、社会的課題の解決にどのように取り組んでいるのかという過程を、透明性をもってステークホルダーに伝えるために活用するところに意義があります。細目を埋めることに終始すると辻褄合わせとなって、実質的な取り組みがなかなか発信できなくなる恐れがあります。
川橋:
我々のライフサイエンス事業の場合、今後は治療よりも予防が重視されるようになるという社会からの要請の変化を受けて、ならば自前の材料を利用して先端診断システムに注力しようと意思決定するなど、社会的課題を意識した研究開発の方向付けを行いました。一方で、大部分の研究開発はお客様のニーズに基づいて行われています。一見、社会的課題と関係がなさそうですが、そうではありません。かつてLCD(Liquid Crystal Display=液晶ディスプレイ)材料部門に在籍していた時、お客さまから「画面をもっと明るくしてほしい」という要請を受けたことがあります。当初は画面が単純にきれいに見えるからからそう要請されるのかと思ったのですが、よく考えてみると、明るく見えるようになればその分電力を使わなくて済む、すなわち省エネにつながるわけです。つまり、社会的課題を意識してそれを解決するというアプローチだけでなく、お客さまの課題に応えるというアプローチの中にも結果的に社会的課題の解決に繋がるものがたくさんあるのです。お客さまのニーズを紐解いていくと、社会のニーズに応えることに繋がるものがあるという視点で考えるくせをつけると、CSRの見方も広がると思います。

経営とCSR一体化推進に不可欠なのはエンゲージメント

野田氏:
ステークホルダーとの対話を通じた相互理解、すなわちエンゲージメントをどのように実施されているかが少し見えにくいと感じました。WebサイトやCSRレポートを通じての一方向の情報開示だけではなく、ステークホルダーと積極的に関わることで、お互いの意見をCSRに取り込むことができます。特に海外では価値観も文化も違いますから、エンゲージメントがしっかりできていないとリスクを生むことともなり得ます。エンゲージメントにどのように取り組み、ステークホルダーとの信頼関係を構築するかは今後の重要な課題ではないかと思います。自社の事業活動にどのようなステークホルダーが関わっており、また、どのような動きがあるのかを常に把握する必要があると思います。
捫垣:
国内ですらステークホルダーとの関わりは簡単なことではありません。どういったことを心がければいいでしょうか?
野田氏:
海外を回った際に問題を拾うというお話がありましたが、そのように現地に行ったときに、より広いステークホルダーと対話の場を設けてエンゲージメントを進めるのが一つの方法だと思います。また、様々な分野に精通している専門家やNGOの方々に話を聞くことも効果的かもしれません。御社ではすでに年間300回も投資家とのミーティングを実践されているとのことなので、そういった取り組み内容を整理して発信するだけでも変わるのではないかと思います。また、誰に話を聞くかで重要課題の位置づけが変わってくるかと思いますので、バランスよく聞く必要があると思います。
捫垣:
今回のこの重要課題の特定の過程で初めて海外の意見を聞きました。2015年はアメリカとヨーロッパにCSRキャラバンに出かけてCSRの取り組み、考え方や企業理念についての話をしています。2016年には中国と韓国で実施予定です。こうした取り組みを今後強化して、CSRの浸透を図っていきたいと考えています。
野田氏:
例えば、研究開発の段階からCSRが組み込まれているなど、JSRグループにはCSRが企業先進として確立・浸透していることがわかりました。今後の取り組みとしては、“発信”に力を入れていただきたいです。その際には様々なステークホルダーがいることを前提に、どうしたら分かりやすく伝えられるかを考えることが大切です。例えばSDGsのようなグローバルな「物差し」を使って発信すると、よりわかりやすく伝えることができるのではと思います。
本木氏:
顧客ニーズの先に社会のニーズを見据えているといったところをもっと表現するといいと感じました。それと、それぞれの環境配慮型製品をSDGsなど国際社会で共有されている概念に結びつけて表現することで、よりJSRグループが向かう方向が強調できると思います。10〜20年先の事業展開についてのシナリオや社会ビジョンを示し、その実現のための現時点での事業やCSRという文脈の中で語ると、JSRグループのCSRコミュニケーションができるのではないでしょうか。
細かい点を挙げれば、気候変動の“緩和”だけでなく、地球温暖化の悪影響に備える“適応”に対する取り組みを加えることでさらに取り組みの精度が高まっていくことを伝えられると思いました。世界的な社会的課題なので、より注目されることに繋がると思います。
秋山氏:
お二人がおっしゃったことに同感です。プラスすれば、「CSRレポート2015」で若手社員との座談会をさせていただいたのですが、その時に伝わってきた社風の良さがもっと発信できるといいと思いました。加えて、日本文化の奥ゆかしさゆえに、せっかくの良い考え方や活動が過小評価されるのはもったいないので、海外のコミュニケーションにおいては、グローカルを意識しつつ、もっと積極的にアピールしていただきたいということですね。そのためにはストーリー性を意識して盛り込んでいくことが大事だと思います。
川橋:
今日のお話では“グローカル”が印象に残りました。国内だけでなく、海外にどう浸透させるかは人権などの根本的な問題にも関わることなので、しっかり取り組んでいきたいと思います。
中山:
JSRは、技術や数字ということには強いのですが、ソフト面は比較的不得意かもしれません。コミュニケーションにおいても、「そんなことはいちいち言わなくても」といった風土もあります。グローバルにおいてはこのままではだめで、積極的に相互理解を図らなければ通用しないことを再認識しましたので、今後克服に取り組んでいきたいと考えています。
再認識できたのは、発信の重要性ですね。どう伝えていくべきか、ということです。それと対話を通じた相互理解。グローバルでもローカルでも、相手の声をしっかり聞いた上でこちらの考え方を伝えていくことが重要だということです。CSRにしてもESGにしても、理念の浸透は焦る必要はなく、“徐々に、でも確実に”やっていけばよいと思っています。企業理念は、ある意味文書化されていない“家族のおきて”みたいなもので、10年、20年かけてみんなのものになっていくものでしょうから。
CSRに関しては、やるべきことはやってきていると認識しています。引き続きCSRと経営の一体化を進める上で、課題の検証、見直しは行っていきたいと思っています。
捫垣:
社会の動きを捉えながらCSRを進めていかなければならないという中で、もやもやしていたところが本日の意見交換会でかなりすっきりしてきたような気がします。皆様からいただきましたアドバイスやご意見を今後の活動に活かしていきたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。
対話会の様子3