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CSRレポート

SRI指標と銘柄への組み入れ

第三者意見/第三者検証

第三者意見

安井至氏

安井 至

東京大学名誉教授、国際連合大学元副学長、2015年3月まで(独立行政法人)製品評価技術基盤機構(NITE)理事長。現在、(一般財団法人)持続性推進機構理事長。資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会臨時委員、環境省中央環境審議会委員、などを務める。専門は材料科学・地球環境など。

本年のCSRレポートの最大のテーマは、安全と防災である。「経営とCSRは一体」、「攻めと守りのCSR」といった基本的な理念に変更があるわけではないが、不幸な事故の発生を、安全と防災を進化させる機会と捉え、設備改善のための投資などが行われていることは、長期的に安定した利益を求める株主や機関投資家の思いとも一致したものであろう。
安全防災の究極的な達成を目指すとき、安全文化の再構築、設備事故ゼロ実現などが目標となっているが、日本全体を見渡すと、東日本大震災が日本人のメンタリティーに与えた影響は非常に大きく、リスク対応を苦手とする国民性、すなわち、「ゼロリスクを求め、何か起きれば諦める」という国民性が、ますます強化された感覚を持っている。しかし、安全文化とはゼロリスクを目標とすることではない。指摘するまでもないが、正解は、「リスクの存在を認識し、それを科学的・定量的に評価し、適切に対処する」ことである。その意味で、JSRグループの対応は王道を行くものである。このような安全文化の構築へのアプローチが、日本の一般社会やメディアにも十分に伝達されていくことを期待したい。
具体策として安全を担当する部署を独立させた今回の対応に対して、最終的な評価が出るのは、しばらく先のことになる。しかし、予防安全の方向性として間違っていないだろう。本年度末以降にも残りそうな課題は、恐らく、設備事故へのマニュアル主義による対応からの離脱だと考える。以前ならば、製造プラントには、その健康状態を様々な微細な変化から鋭い感覚で把握する名人が居るのが普通だった。しかし、自動化が進んだ現時点では、名人の育成は難しいのが現実ではある。とはいえ、なんとか達成すべき一つの目標であり続けるだろう。
本年6月に、2030年の気候変動条約の対応に向けた26%という温室効果ガス削減の目標値が政府決定された。JSRグループの攻めのCSR経営はE2イニシアティブという形で実践されている省エネルギー・省資源・気候変動対応の事業展開があるが、この国家目標値実現のキーワードはやはり日本全体でのイノベーション推進である。2030年までの困難な道筋を考えると、すべての分野の主要な企業が、サプライチェーン全体で30%削減を目指すといった定量的な目標値を掲げるために、検討を始めていただきたいと思っている。
毎年のことながら、座談会形式の記事を読むことは楽しい。今回の記事での印象は、まず「職場の風通しは非常に良い」ということであったが、これは重要だと思う。さらに驚いたのは、「明文化されていないモラルを重要視しているので、従業員として安心感があります」という発言であった。組織が生命体として健全に存在している雰囲気を感じることができて、うれしく思った。
さて、結論である。本年、コーポレートガバナンスコードが策定され、また、ESG投資が意識されはじめていることで、かなりの企業の活動も変わる可能性が高い状況の中で、JSRグループには、今後とも、CSR先進企業の先頭を走り続けていただきたいと思う次第である。

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