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CSRレポート2014

地球を消費しながら事業を行う中で、
最善のことをやると言い切れる企業になるために

JSR六本木倶楽部

事業活動すべてのプロセスで環境価値を創造するための基盤づくり

足立氏 ここで、昨年の対話の場で話し合われた内容についての進捗をお伺いしたいのですが。
久保 従来のエチレンの副生物に頼らないバイオマスなどを原料としたブタジエンの生産については、引き続き検討中です。
平野 今は投資を行って、真摯に研究を続けている段階です。ブレイクスルーは必要だと思いますが、本当にできれば世の中が変わるかもしれません。
久保 最近、「マテリアルを通じて社会に貢献する」ということがどういうことなのかを改めて整理して図にまとめました(P5参照)。また、事業活動のそれぞれのプロセスで環境配慮を意識しているのですが、現状でできていること、できていないことを把握して系統立てて優先順位を決めて取り組むことを検討しているところです。今後の課題としては、サプライヤーでの環境負荷をどうやって把握していくかということが挙がっています。
本木氏 真っ正面からアプローチしていて素晴らしいですね。バリューチェーン全体で見ていくことは重要ですから。特に、途上国・新興国を中心に自動車販売台数がこれから飛躍的に伸びていくことが予想されているので、エコタイヤ用のS-SBRで省エネ・低燃費化に貢献することは重要な意味をもちます。
鈴江氏 こうして可視化されて社内で共有しようとされているのはいいですね。当然企業には予算があり、全部に取り組むことはできないので、何を重視するかが大切になります。それから、JSRは温室効果ガス排出量と水使用量のバリューチェーンでの把握に取り組んでいます。そんな企業は日本ではまだほとんどないので、試算結果を極力利用されるのがよいと思います。
足立氏 世の中でスコープ3(企業が間接的に排出するサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量)を管理する動きなどもあり、JSRグループを取り巻く最上流から最下流までの中で全体最適を考えていくことは力になっていくと思います。そこで一番重要なのが定量化でしょう。がんばっている効果がどのくらいあるのか、社内外になるべくわかりやすく表現すべきです。
川崎 うまく伝えて環境への取り組みをブランド化するという意味では、エコタイヤのラベリングのように、製品にマークをつけてみたいと考えたこともあります。しかし本当にそれで差別化になるのか、まだはっきりしていなくて踏み切れていません。
清水 E2イニシアティブ検討時には、第三者認証のような形で自己宣言をすることも考えましたが、信頼性や客観性の担保が難しくて実現には至りませんでした。
鈴江氏 汎用性のあるラベリングでぴったりのものがあればいいですが、自主的なレベルでも十分だと思いますね。今の段階では、自社基準を設けて数字を公表できれば、かなり環境面での差別化はできるのではないでしょうか。
本木氏 自社で基準を作るときに、いくつかのNGOや学者に入ってもらって意見を聞けば、独りよがりにならないものにしていくこともできます。参加したNGOの方が活動を紹介してくれる味方やファン、サポーターになってくれるという副次的な効果も狙えますね。
足立氏 JSRグループの場合はB to Bのビジネスなので、お取引先と技術上の話をするときには細かいスペックを議論すると思います。環境パフォーマンスについてもお取引先に対しては数字やロジックで伝わるのではないでしょうか。それはESG(環境・社会・ガバナンス)についてきちんと見ている投資家を相手にしたコミュニケーションでも同様で、同業他社と比較してどの程度の環境パフォーマンスなのかなど、必要な指標をきちんと示せれば十分に優位性を示せると思います。
本木氏

本木氏

ニューヨークで5月に開催された「Shared Value Summit」に出席したのですが、企業はもちろん、NGOや政府機関、教育機関などさまざまな分野から参加者が集まっていました。そして、国際金融公社(IFC)や世界最大の資産運用会社・ブラックロック社の責任投資の担当者など様々な金融系の方々も参加していて、投資家の関心の高さが窺えました。そんな場を見ていると、社会・環境に対して企業が取り組んでいくことが収益にも結びついているということを、企業は正々堂々発信し、周囲もそれを認める時代が来ているという実感があります。
実際、世界の責任投資の運用資産は現在13.6兆ドルで、これは世界の途上国を入れた全時価総額の約22%にあたります。その中でESG投資は6.2兆ドルといわれています。欧州では全投資の49%、アメリカでは11%を占めていますが、一方日本国内だけで見ると0.2%しかありません。ESG投資に積極的なのは短期投機家ではなく年金ファンドなど長期的な視点を持った投資家ですから、企業がうまくアピールすれば安定株主を得ることにもつながります。
清水 一点お伺いしたいのですが、SRIやESG投資は現在、ネガティブスクリーニングの考えに基づいているのではないでしょうか? 見かけ上は環境配慮に優れた企業を高く評価するというポジティブスクリーニングかもしれませんが、実際には「環境配慮をしていない」「訴訟リスクがある」などのリスクを基準に投資対象を選んでいて、本質はネガティブスクリーニングなのではと私個人は感じています。こうした考え方だけでは、投資家が本当の意味で環境配慮に理解を示しているとは言いがたいと思うのですが、いかがでしょう。
足立氏

足立氏

SRIはそもそも「自分たちの価値観に合わないものには投資をしない」というところから始まっていますから、おっしゃるとおり、基本的にはネガティブスクリーニングですね。欧州で進んでいるESGも、基本的にはネガティブスクリーニングだと思います。「最低限これができていない会社には、怖くて投資ができない」という意識の表れです。ただ気をつけなければいけないのが、その「最低限」の合格ラインが、徐々に上がってきているということです。たとえばCO2を例に挙げると、これまではCO2排出量を削減する形での温暖化対策をとっていればよかったのが、今は気候変動に対する適応策を企業として持っているかが合格ラインになりつつあります。つまり、環境に対してかなり積極的な価値観を持つことが求められ始めているということは、企業として認識しておかなければならないでしょう。
平野 SRIやESGについては、決して無視しているわけではありません。JSRの外国人持ち株比率はこの5年で10ポイント上がっていて、もしそれらの投資家がSRIやESGを意識しているのだとすれば、JSRは現在認められているのだという理解でいます。ただ、企業活動は投資家のためだけのものではないという意識もあります。
久保 JSRのCSRは広く社会に対してのものであって、事業が拡大すれば自然と世の中を良くすることにつながる、その結果として投資家からも評価されるというものだと私は考えています。昨年の対話の中で、安井至先生から「地球を消費しながら事業を行う中で、最善のことをやれると言い切れる企業に、ぜひなってほしい」というメッセージをいただきました。社会全体を引っ張っていくというのは現実的には難しいですが、自分たちは最善のことをやっていると言えるような会社になり、それを社会に対して発信していくことが重要なのだと思っています。

CSRと経営の一体化と、マテリアルの力による社会課題の解決

足立氏 それでは最後に、一人ずつ今日の感想と、JSRグループに期待することをまとめていただきたいと思います。
本木氏 素材を使って、地球や社会のさまざまな課題に対応していく、ソリューションを提供していけるという立ち位置は非常に優位性があると思いますし、そういったところがJSRグループの魅力なのだと思っています。社会で果たせる役割は非常にたくさんあって、トップもそういう方向を向いているからこそ、やりやすい環境にあるのではないかと感じています。ですから今後は、CSRや持続可能な社会に向けた取り組みと、経営をより一体化していくことを鮮明に打ち出していくとよいのではないでしょうか。Webサイトなどでの表現も、CSRのページにまとめるのではなく、経営と一体であるとわかるような方向性がよいのではと思っています。
鈴江氏

鈴江氏

私たちNGOが生物多様性について話すときは「いきものを守る」という視点なんですが、企業と生物多様性の場合は、企業活動が持続可能であることを通じて生物の多様性に貢献するということだと思います。そういう意味で、環境や社会貢献、CSRをばらばらに捉えず、企業の持続可能性という一連の横串で見る視野で、環境経営の差別化を図っていただきたいと思います。それから、「Materials Innovation」というメッセージもE2イニシアティブという方策も非常にわかりやすいので、あまり抽象的な目標やプランを掲げるよりは、今あるものをもっと洗練して特長を出していくことが、一般の人々にとってもわかりやすいものになるのではないかと考えています。環境を大事にする経営がどんどん進化・成長して、他の企業に影響を与えるお手本になっていただけるよう、期待をしています。
足立氏 JSRグループの皆さんは非常に真面目なので、一度その真面目さを取り払って、自由な発想で「自分たちの技術が世の中に広がったときに、こんなに明るい未来を創造できる」という絵を描いてみてはいかがでしょうか。それから今日は議論できなかったですが、環境側面では今後間違いなく「水」が重要になるでしょう。重要な資源でありながら、日本ではまだ一部の飲料メーカーなどを除いて正面から取り組んでいる企業は少ないので、化学メーカーとしてもどこかの段階できちんと考えなければいけないでしょう。来年もこういった対話の場があれば、こうした内容についてぜひ取り上げていただきたいと思います。
清水 幅広い視点からさまざまなコメントを頂戴して、大変勉強になりました。私たちの目指してきた大きな方向性は間違っていないというご示唆をいただけたかと、心強く思っています。一方で、私たち自身も常々感じていた「アピールの不足」が、外からご覧いただいたときにも感じられているということを改めて認識しました。かけたコストをどんな形でベネフィットとして自分たちの中に取り込めるのか、そのためにどのようなアピールの仕方があるかということをより戦略的に考えなければと思っています。
平野 JSRグループは、ブランドとまではいかなくても世の中から環境配慮などについて認知はされているだろうと思っていたので、逆にまだPR不足だとおっしゃっていただいたこと、それが確認できてありがたく思っています。もう一点誤解を恐れずに申し上げると、皆様のような専門家やNGOの方の意見と、実際に事業活動を行っている私たちのような企業が、違った立場で意見を戦わせるのは大事なことだと実感していますので、これからもこういった対話の機会をいただければと思います。
川崎 JSRグループが生物多様性について議論を始めたころ、足立先生と対話の機会をいただきました。そのとき、私たちのなすべきことは北極のシロクマを助けるといったことではなくて、やはり企業活動に根ざした活動だろうというお話をさせていただきました。ですから、まずは原料と土地の利用から検討を始めて、それから社会の関わり合い、そして製品開発というステップを踏もうと中期計画を作って取り組んできました。その方向性は間違っていなかったと、改めて確認できました。本日の対話をもとに、環境や安全について改めて社内で議論を深め、次の対話の機会にその成果も含めてご披露できればと思っています。
久保 四日市工場までご足労いただき、ご視察を踏まえて本音で語り合うことのできた、大変よい対話の場になったと思います。本日は本当にありがとうございました。

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