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CSRレポート2014

地球を消費しながら事業を行う中で、
最善のことをやると言い切れる企業になるために

JSR六本木倶楽部

工場を見て初めてわかること、それをわかりやすく伝える意義

足立氏 今回、事前に四日市工場を拝見させていただきました。まずはその振り返りを行いたいと思います。
本木氏

コージェネレーション設備(1)四日市工場のコージェネレーション設備

初めて工場を拝見して、非常にきちんと管理されていること、近隣住民の皆さんへ配慮し周辺と調和していることに感銘を受けました。工場はゼロエミッションを実現していること、従業員にもその視点が徹底されていること、またコージェネレーションの設備を導入して石炭とLNGによる自家発電で工場のすべてのエネルギーを賄いつつ、CO2排出を極力抑えていることも印象に残りました(1)
鈴江氏

正門近くに新たに設けた緑地(2)正門近くに新たに設けた緑地。四日市市史・自然資料編で調査報告されている自然林・社寺林や、環境省による現存植生図から地域の自然植生を参照し、その構成を庭園として簡潔に表現している工場北側にある築山(3)工場北側にある築山は、チョウの飛来地となるよう整備中

工場というのは独立して存在しているものだと思っていましたが、実際には他社からパイプがつながって原材料が運ばれていて、日本を代表するコンビナートの仕組みに新鮮な驚きを感じました。また、正門近くに生物多様性を考慮した緑地を設けたり(2)、周辺環境との連携を意識しながら「築山」の管理をされていることも素晴らしいですね。ただ、築山に関しては高い壁に囲まれているのが残念でした。従業員にとって快適な環境づくりという意味でも、何とか工場の内側から築山を見えるようにできないのでしょうか(3)
足立氏 子どもの頃に四日市公害のことを教科書で見たりしたことから先入観を持ってしまっていました。今回初めて訪れて、住宅地が広がっていて、工場があっても緑に囲まれ、においや煙もないということを改めて知って、化学工場のイメージというものにとらわれていたと感じました。築山については外来種もある林なんですが、そこがどんな生き物の生息地になっているかを考え、特にチョウの食草などを考慮してバランス良く整理しているということが、思想があって非常によく設計されていて感心しました。
川崎 築山の壁の件や臭気対策についての経緯や背景について申し上げますと、1994年に四日市工場のブタジエンタンクを管理の不備で破裂させてしまう事故がありました。幸い周辺も含めケガ人はなかったのですが、破片は工場の外にも飛散しました。築山にある壁は、そのときに近隣の方からの要請で作ったものです。またその事故をきっかけに、環境安全のマネジメントシステムを、ISOなどで標準化されるのに先駆けて独自に作りました。臭気や振動、光などは20年くらい前には近隣の方から苦情もあったのですが、改善活動と新しい設備を導入することで、現在は苦情ゼロの状態になっています。
鈴江氏 私がもうひとつ気になったのは、集合煙突から出ている水蒸気です。四日市工場のRCレポートには200℃以下で大気に放出しているとあったのですが、現場でのご説明で50〜60℃で放出されているとお伺いしました。そこまで温度を下げるには大変な努力があるはずで、その取り組みをもっと社会に発信してもよいのではと思いました。
川崎 工場ではできるだけ熱を回収して生産活動に使うことを基本にしていて、水蒸気だけでなく排水も熱を回収して温度を下げてから排出しています。それは我々にとって当たり前の取り組みで、素晴らしいという認識がありませんでしたが、そう言っていただけてよい気づきになりました。
足立氏 コージェネレーションや廃熱利用の取り組みは、環境に資する活動として続けていることなので、当たり前と思わずに発信し続けることも重要なのかもしれませんね。
鈴江氏 世の中に対して素晴らしいメッセージをもった活動だと思います。そうした活動を実現するために必要だった費用の総額とCO2削減量の全体像を把握して、きちんと発表なさるとよりよい発信になるのではないでしょうか。
平野 社会へのプロモーションとして活動しているわけではないのですが、バランスよく伝えることで、JSRの環境への取り組みがブランドとしてもう少し評価されてもよいのではと思うこともあります。
清水 JSRグループではE2イニシアティブ(4)というコンセプトを掲げて3年間活動してきましたが、まだ、かけている手間やコストの方が大きいのが現状かもしれません。しかし既に世の中の省エネに貢献していることもまた事実なので、きちんとアピールすることも重要かと思います。
(4)価値創出のコンセプト「E2イニシアティブ®
E2イニシアティブ=Eco-innovation + Energy management
E2イニシアティブ

イノベーションを起こす鍵となる「E2イニシアティブ®」の実践

本木氏 エネルギーやカーボンマネジメントの面では、日本では震災以降、社会の認識や関心が少し薄くなっているように感じます。しかし異常気象を肌身をもって感じている人は世界中にいますし、ゆくゆくは企業に気候変動への対応が求められるようになるでしょう。そこでエネルギーの転換をどう図っていくのか、世の中の動きを捉える必要があります。
企業が環境に配慮することと収益を上げることは、かつては相反するもの=トレードオフの関係で考えられがちでした。しかし今は、社会・環境課題の解決と企業の成長が同じ方向を向いているということが、違和感なく捉えられる時代になってきていると感じます。私たちはそれを「トレードオン」という造語で呼んでいます。
川崎 E2イニシアティブには、工場や生産段階でのCO2排出とエネルギー使用を抑える「守り」の側面と、環境配慮型の製品を増やしていこうという「攻め」の側面があります。エネルギーについては、昨年も申し上げたとおり再生可能エネルギーはまだ不安定で、どこかで蓄電などを考えなければなりません。
鈴江氏 そういう意味では、御社のリチウムイオンキャパシタはとても有望ですね。例えば今、洋上風力発電に注目が集まっていますが、遠洋に行くほど電力をどう引っ張ってくるかを考えなければいけない。そのときに、高性能のキャパシタで蓄電できれば一挙に問題解決できます。製品で少し環境配慮をプラスするというより、根本的に考え方を変えて画期的なものを出していくというのがE2イニシアティブの醍醐味なのではないかと思います。
清水 E2イニシアティブの開始にあたり、研究開発の初期段階で必ずライフサイクルアセスメントを行うようにしました。それによって、自分たちの製品が使用段階も含めて世の中でどれくらい貢献できるかという認識をもった開発姿勢が明確になったと思います。
足立氏 研究開発段階では、コストがかかるものもあるかもしれません。でもそれは、需給の関係や、どこかの国が大規模に使うというようなスケールで一気に変わるかもしれない。ですから、あり得るアイデアをどんどん出し続けることで、全く違う世界像を作っていけるのではないでしょうか。
平野 いつか何かのイノベーションが、素材やプロセスから出てくる可能性があるということで、コストだけを考えて研究開発をしないようにはしています。
清水 将来を見据えた新しい思想を提示するという意味で、欧州は上手だと思います。環境規制も単なる規制ではなく「規制は発明の母」としてイノベーションを進める手段にもなっていると感じます。今、JSRグループは売上比率の半分が海外ですから、海外の規制動向や市場動向を掴むことが極めて重要になっています。業界団体などを通じた将来の規制動向の把握や営業現場から将来に向けての情報を集めてくる敏感さがますます大事になっていると思います。
それと同時に「社会がどれだけ受容するか」ということも現実には考えなければなりません。つまり「これは環境にいいものだから、その分お金を払おう」と思ってくださる消費者の方がまだまだ少ないという課題を、どうクリアするかということです。工場でLNGを使って自家発電をするにしても、環境配慮型製品を製造するにしても、環境によいことにはどうしてもコストがかかります。本来であればそのコスト分を製品価格に転嫁すべきなのですが、「その分は企業が負担すべきだ」と言われてしまうとビジネスが成り立たなくなってしまい、結果的に環境配慮もうまくいかなくなるという悪循環になります。これをどうやって良い循環に回していけるかが重要だと思います。
平野 かといって、例えば「地球環境を考慮してガソリンを一切使わないようにする」というような、環境負荷を下げるために利便性を犠牲にする考え方は、これも社会が受容しないでしょうから、トータルのバリューチェーンでバランスを見なければならないですね。
本木氏 「Creating Shared Value」を提唱したマイケル・ポーターとマーク・クラマーのもともとの発想は、自分たちの事業のバリューチェーンを再整理して効率化したり、社会的に負荷を与えているところに対応することでコストを削減して収益に結びつけることも含まれているのです。今はそうした動きの過渡期ですから、企業として難しい状況にあるということもよくわかります。
そういったスタンスについて、Webサイトやレポートなどを通じてメッセージを発信し、持続可能な社会を作るという姿勢を示すことは、企業としての先進性を表すことにつながります。技術革新をしながら、そういった働きかけにも期待をしたいですね。
足立氏 社会に対する働きかけという意味では、日本企業はロビイングをしないという印象があります。アメリカや欧州の企業は積極的にロビイングをしていますよね。もちろん、自社にとって不利な条件を変えたいという要望はなかなか通りません。しかし「社会に対してこんなメリットがあるから、こんなふうに制度を変えよう」「環境を良くしたり、資源を効率的に使うために制度を変えよう」というロビイングなら、私はあってもいいと思っています。
本木氏 それはポジティブなロビイング、開かれたロビイングですね。自分たちが企業としてどんなスタンスを持っているかを発信しつつ、国や政府に働きかけていくということは重要だと思います。持続可能な社会は、企業だけでも政府だけでも実現できません。企業に対しては技術革新と同時に、そういった働きかけにも期待したいですね。
鈴江氏 私も、ロビイングはぜひ、いい形で積極的に行うのがいいと思います。たとえばヨーロッパでは、大規模農家だけでなく環境に配慮した零細農家にも補助金を回すべきだとして、NGOが協力してロビイングでアピールをしていますし、その成果も大きく出ています。特に持続可能性の分野であれば、ひとまず耳を傾けてもらえるのではないでしょうか。

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