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CSRレポート2013

JSRグループのCSRを革新し続けるために必要なこと

JSR六本木倶楽部

事業の根幹に影響を及ぼす
気候変動や資源調達の課題を認識する

久保 私たちJSRグループは石油化学に基盤を置く企業として、会社設立以来、環境保全に注力してきました。2003年からは、環境にとどまらない社会的責任を果たすことを目指して社会と向き合う姿勢を明確にし、CSR会議を設置、2008年にはCSR部を設立しました。社会と対話をし、それを施策に活用していくことは、CSRを進める上でも企業経営の上でも、重要なことだと認識しています。
本日は、JSRグループについて理解が深く、経営方針に掲げるステークホルダーのひとつ「社会」を代表して示唆をいただけるであろう有識者の皆様にお集りいただきました。様々な社会課題が増大するこれからの時代において、私たちがどのように社会的責任を果たしていくべきか、意見交換を通じて考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
薗田氏 それではまず、2050年くらいまでを視野に入れ、長期的な視点から地球規模の課題、社会問題と、JSRグループの事業の関連について整理していきたいと思います。
安井氏 地球規模の課題として、資源問題、気候変動、生物多様性という3つのポイントを挙げたいと思います。
資源問題については、メタル系の資源で深刻な問題になっています。既知の埋蔵量はだいたい2050年で限界を迎えるため、新たな開発が進んでいるのですが、品位の低さが課題です。そこでリサイクルが重要になるわけですが、人間社会の中でマテリアルを損失のない形で回すという理想型を考えたとき、エネルギーの課題をクリアする必要があります。すべて再生可能エネルギーでリサイクルできるのがひとつのゴールですが、困難な道だと考えられます。また、石油や石炭などは燃料として使うものだという認識がありますが、燃やしてしまうのはもったいない。これらの資源は「原料系」として意識すべきだと思います。そうなっていかないと、長期的に平衡状態を保てるような社会にはならないのではないでしょうか。
2つ目の気候変動については、アメリカのハリケーンなどを見ると、海岸にコンビナートをお持ちの化学メーカーにとって大きなリスクだと感じます。例えば、ハリケーン・サンディによる被害は、損害が約6兆円、地下鉄は一週間後も20%が復旧できず、すべての停電が解消されたのは1カ月後といいます。これだけ大きな影響が起きていることは、日本ではあまり意識されていない気がします。気候変動の限界はどこなのか、気候変動を抑えるために人間が自分たちの欲望を抑えられるかという視点が、重要になると感じています。
そしてこうした気候変動によって、生物多様性に対する悪い影響が広がり、北半球のシベリアや華南などで陸地の生態系が崩壊するおそれがあるのではないかと考えています。
現在の日本では、2020年に向けた温暖化ガスの削減ターゲットなどはありません。しかし2015年くらいには、2030年を目指した国際的なターゲットが決まり始めるはずですから、そのとき化学メーカーとしてそれにどう対応するか。気候変動による実際的な被害が出てくれば、2050年くらいには炭素税の動きなども出てくるかもしれません。
清水 私たち化学メーカーにとって、エネルギーは生命線です。企業としてエネルギーをどのような形で担保するかは、極めて重要な課題です。
例えば2030年までの長期スパンで捉えると、現実の対応を考える際には、リードタイムを踏まえていつから準備すべきかが重要なポイントになります。例えば、JSRグループの工場でも石炭ボイラーを電気・蒸気の供給の一部に充てています。石炭は埋蔵量や供給安定性を考えると優れた燃料ですが、CO2排出量とのバランスもあります。また、お話があった通り原料としても貴重な資源です。仮に別の燃料にスイッチしていくとすると、その準備を10年単位で考えることが必要でしょう。エネルギー政策上、再生可能エネルギーの導入は必要だと考えますが、一方現状の太陽光発電や風力発電の不安定性を考えれば、多くを期待することは難しいでしょう。いずれにせよ、電力については企業一社で解決できる問題ではなく、国単位、国際的枠組での長期的視野に立った対応に期待しています。
足立氏

足立氏

今、石油のうち原料として使われているのは全体の2割といわれています。それをJSRのような化学メーカーが材料として供給し、最終メーカーが加工して製品にしています。合成ゴムやプラスチックといった材料に依存している産業は多いので、その供給責任を考えれば、化石燃料を燃やさずに原料として使うという方向に切り替えていくことが重要になるでしょう。
また、燃料として生物由来のものも期待されていますが、生物由来のものは生産量に上限があるので、量を安定的に確保することは困難かもしれません。これもむしろ原料と考えたいですね。ただし、例えばバイオプラスチックの原料として生物由来のものや未利用資源を使う際に、燃料や繊維といった他の用途と奪い合いが起こる可能性があり、いずれにしろどのくらい確保できるかの検討が必要です。
川崎 原料という観点では、合成ゴムの主要原料であるブタジエンの調達にも変化が起こっています。グローバルな需給バランスを考えると、新興国を中心に自動車産業が発展するのに伴って、タイヤ産業もますます拡大していくでしょう。そうすると、ブタジエンはグローバルに不足してくる。それがいつなのか、状況を予測する必要があると考えています。
これまで、エチレンをつくるときの副生物からブタジエンを抽出してきました。しかし、中東ではエタンガスをベースに、アメリカなどではシェールガスをベースにした低コストのエチレンが競争力を持ちつつあり、日本のエチレンの生産量が低下してきています。それに伴ってブタジエンの原料となる副生物も減りつつあります。我々としては、従来の副生物に頼らないブタジエンの確保手段を検討する必要が出てきており、技術確立を目指しています。石油精製時の副生ガスを利用したり、バイオマスを原料とすることも検討しています。
安井氏 バイオ系の原料を検討する際には、注意が必要ですね。パーム油を生産するアブラヤシの栽培で熱帯林が伐採されたように、生物多様性の観点でバッティングするケースが多いためです。

化学業界特有の長いバリューチェーンの中で
存在感を発揮する

薗田氏 足立さんは、化学メーカーが直面する課題について、どのようにお考えでしょうか?
足立氏 化学産業というのは、ものすごく長いバリューチェーンの中に位置づけられています。原料を供給する上流側、製造した素材を使う下流側のどちらに変化があっても、チェーンの中にいる化学メーカーは対応しなければならない。非常に複雑なパズルのような関係性です。バリューチェーン全体での環境やCSRへの配慮を考える場合、化学メーカー一社だけでどうにもできないこともあります。ですから、サプライヤーに対して指導したり、顧客に対して提案したりという責任を果たす必要も出てきます。
また、化学メーカーの工場というと公害問題の経緯などもあり、人間の社会から離しておきたいというイメージを持つ方もいるかもしれません。しかしJSRは、工場が地域に立地することによって、その地域の生き物が人間社会と共存できるような場所を作り出そうという考えをお持ちです。工場を、もののやりとりだけをする場とせずに、地域や周囲の生態系とつなぐ場として機能させるということですね。これは非常に期待できる取り組みです。
川崎 我々の工場が立地するコンビナートの中でも、上流・下流の考え方があります。また、コンビナートは地域の一部ですし、同業他社の工場も立地していたりする。環境や社会への配慮は、まず自分たちの工場できちんとやって、周辺や行政も巻き込んで調和することも目指す必要があると感じています。
久保 実際、メインプラントが立地する四日市市では他社と共同で行政へも働きかけをしています。かつて四日市市では公害問題がありましたが、自然と共生する都市を目指して、近隣の他企業も含めて、どのように連携して進めていくか協議を始めたところです。
川崎 昨今は化学工場の事故が頻発し、地域や社会に不安を与えていると思います。化学工場は危険物をたくさん取り扱う場ですから、地域や周辺環境に対して臭気や音といった迷惑をおかけしないのは当然のこととして、安全の取り組みを徹底しなければ事業を継続できないという意識を、従業員にも徹底させるようにしています。
足立氏 それから、今後の課題としては、原料サプライヤーの把握・管理がありますね。例えばアルミニウムでは、周辺地域への影響を最小限にしながら採掘したボーキサイトを精錬したものに対して認証ラベルをつけようという計画があります。今後、石油採掘の現場でもそういった動きが起こる可能性もあるでしょう。エシカル(倫理的)でない商品については、NGOが攻撃したり、消費者が離れていったりという動きはすでに起きています。それは業績の悪化を招き、事業リスクに発展します。日本の石油業界はまだそういった状況に直面していませんが、「どこで、どんな方法で掘られた石油を原料として使うか」ということは、今のうちから調査・検討しておく必要があるもかもしれません。
平野 サプライヤーとの関係という部分では、JSRは一次サプライヤー、二次サプライヤーをさかのぼって状況を把握することが当たり前のように調達部門の中に入っている。これは、2000年頃にアメリカの半導体メーカーと取引を始める際の監査で指摘されたことがきっかけでした。それまで取引の際に二次サプライヤーまでの把握は限られたものを除きやっていなかったため、カルチャーショックでしたが、その経験は現在に活きています。実は社長の小柴は、当時アメリカでそのメーカーと対面していたという経験があります。それがバックグラウンドとなり、今の経営やCSRの方向性に活かされていると考えられますね。
足立氏 生物多様性については、JSRは「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」に4年前から参加いただいていますが、こんなに早い段階から興味を持ち、しかも実際に行動してくださった化学メーカー、素材メーカーは他にありませんでした。自分たちが何を求められているかを自覚し、それに合わせてどんどん変わろうとしている。一緒に活動をする中で、常に先を見ながら自分たちでやるべきことをフレキシブルにやっている会社なんだという印象を強く感じます。先に話のあった行政への働きかけなどもそうですが、ぜひ今後も活動を広げていっていただきたいです。そして、そうした活動を対外的に発信することで、広く世の中の牽引役となっていただくことに期待しています。
久保 JBIBの活動の一環として生物多様性の関係性マップを作成したことで、JSRとしては原料と土地の分野で最も影響が大きいということが見える化できました。そういった取り組みを今後応用したり、対外的に広めていくことも大切だと考えています。

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